慶應ロー2023年度刑法再現
※必ず出題趣旨を確認すること。
慶應ロー2023年度刑法再現
第1問題1
1XがAの頸部をロープで締めた行為に、殺人罪(199条)が成立するか。
(1)まず、ロープで人の呼吸機能にとって重要な頸部を締める行為は、死亡結果発生の現実的危険性を有し、殺人罪の実行行為といえる。
(2)次に、上記行為とAの死亡結果との間には、XがAを林の中に放置するという行為が介在しているが、因果関係は認められるか。そこで、因果関係の判断基準が問題となる。
アこの点について、そもそも因果関係は、偶発的な結果を排除し、適正な帰責範囲を確定するものである。そこで、条件関係があることを前提として、介在事情の異常性、介在事情の結果への寄与度を考慮し、行為の危険性が結果へと現実化したといえるかで判断する。
イこれを本問についてみると、XがAの頸部をロープで締めなければ、Aの顔が林の中の水溜りに被さって窒息することはなかったため、条件関係がある。そして、林の中に水溜りがあったことによってAは窒息しているため、XがAを林の中に放置した行為の寄与度は高い。しかし、殺害した後に死体を見つからないようにするために隠す行為はあり得るから、介在行為に異常性はない。
そのため、上記行為の危険性が結果へと現実化したといえる。
ウしたがって、因果関係が認められる。
(3)そうだとしても、XはロープでAの頸部を絞めて窒息死させる意図を有しているにすぎないため、死亡に至る因果経過につき錯誤があり、故意(38条1項本文)が認められないのではないか。そこで、因果関係の錯誤が問題となる。
アこの点について、そもそも因果関係は客観的構成要件要素であり、故意の認識対象となる。そして、故意責任の本質は、反規範的人格的態度に対する道義的非難であり、規範は一般人に構成要件の形で与えられている。そこで、主観と客観が符号する限り、規範に直面し得たといえ、故意が認められる。具体的には、因果関係が認められることにおいて、主観と客観が符合すれば、規範に直面し得たといえ、故意が認められる。
イこれを本問についてみると、前述のとおり客観において因果関係が認められる。また、XはAの頸部をロープで締めて窒息死させようと考えているところ、窒息死はかかる行為の危険が現実化したものといえ、主観においても因果関係が認められる。そのため、主観と客観が構成要件内で符合している。
ウしたがって、故意が認められる。
2よって、上記行為に殺人罪が成立し、Xはその罪責を負う。
第2問題2
1Xの罪責について
(1) Xが本件土地をYに売却した行為に、横領罪(252条1項)が成立するか。
アまず、本件土地はXが既にAに売却しており、所有権はAに帰属している、そのため、「他人の物」である。
イ次に、本件土地の登記名義はXであるため、Xに法律上の占有が認められる。また、XはAに本件土地を売却していることから、所有権移転登記に協力する義務を負い、Xの占有は委託信任関係に基づくといえる。したがって、「自己の占有」にあたる。
ウでは、上記行為は「横領」といえるか。
(ア) そもそも、「横領」とは、他人の物の占有者が、委任の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできない処分をすることをいう。
(イ) これを本問についてみると、XはAに本件土地を売却し、Aが所有権を有しているのにも関わらず、XはYに対し本件土地を売却している。そのため、Xは本件土地につき権限がないのに所有者でなければできない処分をしている。
(ウ) したがって、上記行為は「横領」といえる。
エよって、上記行為に横領罪が成立し、Xはその罪責を負う。
2Yの罪責について
(1)Yが、本件土地をXから買受けた行為に、横領罪の共同正犯(60条、252条1項)が成立するか。
アまず、横領罪は真正身分犯であるところ、Yは本件土地につき占有を有していない。しかし、文言上、真正身分犯の成立と科刑については65条1項が適用され、非身分者も身分者を利用することで身分犯の法益を侵害できるから、同項の「共犯」に共同正犯も含まれる。
イもっとも、悪意者の譲受行為は、民法の自由競争の範囲内の取引として認められるため、刑法の謙抑性の観点からすれば適法となる。本問では、YはXから本件土地を買受けた後にAにもう一回買い取らせようとしている点で背信的悪意者である。そのため、民法の自由競争の範囲を逸脱し、Yは所有権を取得することができず、Yの行為は違法といえる。
(2) よって、上記行為に横領罪の共同正犯が成立し、Yはその罪責を負う。
第3問題3
1XのBに対し「Aの単車を潰せ」「燃やせ」と指示した行為につき、建造物等以外放火罪の教唆犯(61条1項、110条1項)が成立しないか。
(1) まず、BはA車からガソリンを流出させて火を放っており、「放火」したといえる。また、A車は「焼損」し、A方の家屋に延焼しているため、「公共の危険」が生じている。そして、この行為はXから命じられて行っており、教唆行為に基づいているといえる。また、犯意に基づき上記実行行為が行われ、結果が生じているから因果性も認められ、建造物等以外放火罪の教唆犯の客観的構成要件に該当する。
(2) しかし、XはA車が河川敷に駐車してあると認識しており、A方の家屋に延焼する危険性を認識していないため故意が認められないのではないか。そこで、公共の危険の認識の要否が問題となる。
アこの点について、判例は公共の危険について認識していることを要しないとしている。
イそのため、Xに故意が認められる。
2よって、建造物等以外放火罪の教唆犯が成立する。
以上
問題3は教唆でなく共同正犯を書くべきでした・・・しかも対策が手薄で無事に死亡しています。
ここ数年と出題形式が違ったし、しかも3問。
150分中60分はかかったと思います。手が千切れるかと思いました。