哀しい勇者
ある日王様に呼び出された。
「魔王を倒して参れ」
王様にそう命令された僕は魔王退治の旅に出た。
旅の途中で仲間を募った。
だけど誰も仲間になってくれない。
そりゃそうだ。痛いし辛いし誰が好きでこんなことをするもんか。
勇者は頑張って旅を続けた。
旅を続けてこれたのはみんなからのありがとうの言葉があったからだ。
魔物を退治したら村の人が感謝してくれる。
それだけが心の支えだった。
とうとう魔王のところにたどり着いた。
「お前には仲間がいないのか?」
「あぁ、僕1人さ」
「哀しいな」
「哀しくなんかない。僕がお前を倒せばみんな感謝してくれるはずさ」
「そうかい、それが哀しいんだけどな」
そう言うと魔王は魔法で攻撃してきた。
勇者も負けじと戦う。
勇者はなんとか魔王を倒した。
勇者は国に帰って王様に報告した。
「魔王を倒してきました」
「そうか、では褒美をやろう。」
王様はたくさんのお金をくれた。
でもそれだけだった。
ありがとうの言葉がなかった。
世界は平和になった。魔物もいない。
なのにこんなにむなしい。
「あぁ、哀しいなぁ」
勇者はまた旅を始めた。
そして魔王がいた城にやってきた。
魔王が座っていた椅子に座った。
今ならわかる。魔王の言っていたことが。
感謝されるためにしか動くことのできない、そんな哀しい人間になっていた。
きっとあの魔王も同じ気持ちだったんだと思う。
ならば今度は自分が魔王になろう。
仲間を連れた勇者が私を倒してくれることを願って。