【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】エピローグ#2

三日後未明、ムトー・ニンジャは一人、ドージョーの壁際にアグラしていた。灯は中央に置かれた蝋燭一つ。

未熟者の目には壁に寄りかかってうたた寝をしているように映るが、左に非ず。ニューロン内では過去に戦ったニンジャ達との熾烈なカラテ・シミュレーションが繰り広げられているのだ。

ニューロンの中では複数の強者とのカラテラリーが同時並行して行われる。一秒間に数十のカラテ応酬。あの時、敵の攻撃で手傷を負ったのは何故か?海老反り回避ではなく側転すべきだったのでは?仮に側転していれば敵はどう動いていた?もし途中で草鞋の紐が切れていたら?あのイクサは平地だったが、仮に山中であったら?寝込みを襲われ、身体が鈍った時であったら?

ゴウランガ!彼はこのカラテ・シミュレーションを実に8時間近くも続けているのだ!なんたる強靭な精神力か!

ムトー・ニンジャはかつて戦ったニンジャの顔を思い起こす。スペルスキン、ツインブレード、草間四郎、クラッシュボー、ブレイズランス、ポイズンハンド……、皆、油断ならぬ強敵ばかりだった。もし次に別のシチュエーションで戦っていれば果たして勝てただろうか。

否、勝たねばならぬ。今や、彼が守らねばならぬものは多い。

オウガジェイラー。不穏な敵であった。

ムトー・ニンジャは、イクサの後、爆発四散しなかった死骸を改めた。身体は酒肉にだらしなく緩んでおり、まともなカラテトレーニングを積んだ形跡は見られなかった。

その一方、オウガジェイラーが使ったマバタキ・ジツはイダテン・ニンジャクラン等の秘術とするジツだ。とても一朝一夕に覚えられるものではない。

そしてあのちぐはぐなカラテ…。まるである日突然高位ニンジャになったような歪さ…。バカな、ニンジャとは気の遠くなるほどの鍛錬の末に至るもの。だが、あるとしたら?ある日、即座にニンジャになる方法があるとしたら?

オウガジェイラーは確かに強敵ではあったが、鍛錬で上回ったために勝つことが出来た。だが、もしオウガジェイラーが正規の訓練を積んでいたら?より禍々しいジツを身につけていたら?西洋文明の利器で力をつけていたら?リアルニンジャは勝ち続けられるのか?リアルニンジャに優位はあるのか?

ムトー・ニンジャ己の弱気を責めた。全てはカラテだ。カラテで上回れば良いだけの話。それで全てを守れる。

ムトー・ニンジャはカッと目を見開いた。ドージョーの空気がカラテで張り詰め、蝋燭が風もなく消えた。

【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】完


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