生きること、生活を営むということ③

田舎者に騙された!?

俺の仕事はとある家電メーカー系販売員だ。
要は日本中の家電量販店に派遣されて契約しているメーカーの商品を専門に販売するのだ。
もちろん商品知識は契約しているメーカーの製品について使い方でも最新機能でもどんな事を聞かれても答えられる。
大学を卒業してからこの職業に従事してはや5年。まだ30歳前の俺は若さを生かしたさわやかな接客態度がお客様にとても好評で、量販店からご指名が来ることも少なくない。売上成績もトップクラスでメーカーからも表彰されたことがある。
俺の生まれは東京都八王子市だが今は新宿区に住んでいる。派遣されることが多い家電量販店もあるし、首都圏の量販店に派遣されることの多い俺には交通の便が良いからだ。新宿区に住んでいると聞くと高級タワーマンションをイメージするかもしれないが、中野区に近い辺りとか新大久保辺りであればリーズナブルな家賃のアパートがあったりする。当然1R程度の間取りになるが地下鉄やJRの駅が近いし独身の身には十分だ。
今回俺は山梨県にある量販店に派遣された。目的の量販店で週末の3連休で売り出しをするので俺の契約しているメーカーに販売員の派遣要請があったとのことだ。
「山梨県?」と聞くと地方都市ということは知っていてもどこにあるか知らない人も結構いる。実は東京都の隣にある。新宿からなら特急電車で1時間半から2時間もあれば県庁所在地である甲府市に行くことができる。意外と新宿からなら近いのだ。
甲府駅からバスに乗って今回の派遣先の量販店に向かう。
会社の方から前もって聞いていたのだが山梨県は公共の交通機関が十分と言えないらしい。今回俺は派遣先の量販店に最寄りと言われたバス亭から40分ほど歩くことになった。都内で生活する人間を甘く見てはいけない。20分や30分程度なら荷物が多くない限り普通に歩いて移動する。40分となると新宿から地下鉄2駅くらいの距離だ。歩かない距離でもない。
派遣先の量販店には予定通り開店の30分に到着し開店前のミーティングに参加できた。さぁ、今日もがんばるぞ!

ホントマジ勘弁…。

午後8時。
量販店の閉店時間となり、俺の仕事は終わった。
俺自身何人接客したかわからないくらい多くのお客様が来店した。今日の俺は何かツイていた。売りに売りまくった。この量販店のトップセールスと呼ばれる社員の3割増しの成績だった。閉店後のミーティングで量販店の社長は大喜びだったがトップセールス社員からの俺への視線が少し厳しく感じた。
俺のこれからの予定は会社が予約してくれたホテルで一泊して、明日の朝の特急で新宿に帰るだけだ。早くホテルにチェックインして一息入れたい。
スマホで場所を検索しようとしたらバッテリーが切れてしまっている。どうやら昨晩充電するのを忘れていたらしい。仕方ないのでこの辺の地理に明るくない俺は会社からもらった今晩宿泊するホテルの案内を近くの店員に見せ、ホテルへのい行き方を教えてもらうことにした。
俺:「すいません。こちらのホテルに行きたいのですが近くにバス停はありませんか?」
店員:「このホテルですか?住所はここに書いてありますね。この辺にバス停はありませんし、ここからだと少し距離がありますのでよろしければ私の車で送らせていただきますよ。今日は大活躍していただきましたからね。」
俺:「ここからホテルまでどれくらいの時間で行けますか?」
店員:「ここからなら10分くらいですかね。ただ、もう少し店の片づけが残っていますのであと30分ほどお待ちいただけないでしょうか?」



あと、30分待つのか...。もうすぐにでもホテルに行きたいよな。10分くらいの距離なら俺にはそんな大した距離でもないし。」
俺:「お気持ちはありがたいですが、その程度の距離なら問題ありません。歩いて行きます。」
店員:「えっ。歩いて行かれるんですか?ちょっとここから離れてますよ。」
俺:「大丈夫です。都内で生活していると歩く機会が多いんです。なんと言ってもまだ若いですから。体力には自信があります。」
店員:「そうですか...わかりました。こちらのホテルにはあそこに見える幹線道路をここから見て右方向にまっすく歩けば左側に見えますよ。もう遅いですから気をつけてくださいね。」
俺:「はい、それでは失礼します。」
俺は歩いてホテルに向かった。

15分後
おかしい…。ホテルが見えない。わかっているさ。地元民と比べて道を知らない人間はそんなに早く目的地に行けないものさ。

40分後
いやいや、いくら何でもおかしいだろ。俺騙されたのかな?10分くらいで着くって言われたよな。もう30分以上歩いている。コンビニが見えたら道を聞いてみよう。

量販店を出てから90分後
ようやくコンビニが見つかった。喉も渇いてきたし飲み物を買いながら道を尋ねてみよう。
俺:「すいません。こちらのホテルってこの方向で合っていますか?」
レジ店員:「はい、合っていますよ。」
俺:「ここから何分くらいで着けますか?」
レジ店員:「そうですね…。ここからなら5分かからないくらいだと思います。」
俺:「そうですか、ありがとうございます。それでは。」
レジ店員:「ありがとうございました。」

あと、5分ていうことはもう近くまで来たということだな。
教えてもらった時間はともかく方向は合っているようだ。
あの最初に道を教えてくれた店員に騙されたな、これは。俺がトップセールスよりも売り上げたのが気に入らなかったということか。
それにしても地方の幹線道路沿いというのは締まるのが早いな。まだ21時をまわったくらいなのにな。

量販店を出てから2時間後
全然5分で着かないじゃないか!あのコンビニ店員も土地勘無い奴じゃないのか!?

量販店を出てから2時間30分後
あれか!あの看板か!?
ようやっとホテルが見えた。今何時だ?
もう23時近いじゃないか!チェックイン時間終了ぎりぎりだ。
急げ!
俺は最後の力を振り絞ってホテルまでダッシュした。
本当、量販店の店員といい、コンビニ店員といい、今日は田舎者達に騙された!連休明けに会社を通してあの量販店にクレームを入れてもらおう。

さて、俺君はなぜ量販店の店員やコンビニ店員に騙されてしまったのだろう…?

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