PISA調査にみる日本教育の現在地と未来
みなさん、こんにちは。2023年もいよいよ最後の月になりました。みなさんにとってこの1年はどのような年だったでしょうか。
楽しい時もあれば、辛い時も、嬉しい時もあれば、悲しい時も。
たくさんの状況や感情が浮き沈みしながらも1日1日が過ぎていくものだなと感じます。
さて、今日は先日(2023年12月5日)発表されたPISA調査について個人的な見解も踏まえながら日本教育の現在地とこれからについて述べていきたいと思います。
改めて確認するPISA調査とは?
まず、PISA調査について簡単に概要をご紹介しておきます。
PISAは、Programme for International Student Assessmentの頭文字をとった名前で、OECD加盟国を中心として国際的に学習到達度を測るテストです。
個人的にはこのProgramme[イギリス英語]と表記されているところが非常に欧州寄りの思想を感じます。
さて、以下OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイントから抜粋です。
簡単に言うと、
義務教育終了段階の15歳を対象にオンラインテスト(調査)
「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」を3年ごとに測定する調査
テスト以外にもアンケート形式での質問調査も実施する
というものです。
そして、PISA2022では、81カ国・地域から約69万人が参加しています。
日本からは、全国の高等学校・中等教育学校後期課程・高等専門学校の1年生のうち、183校、約6000人が参加しています。
実施時期は、2022年6月から8月です。
前回実施したのは2018年であり、本来であれば2021年が3年後にあたる年でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、2022年に延期してます。
※いずれも、『OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント』を参照しています。
たくさんのデータが本資料にはありますので、ぜひご興味のある方はレポートをご覧ください。今日はその中から個人的に関連性があるポイントをいくつかピックアップをして考察を述べていきます。
ちなみに今回の81カ国のリストも気になると思うので記載しておきます。
気になったのは、中国とインドがPISA調査を実施していないという点です。どうやら「言語が多様なことなどから全国一斉テストの実施は難しい」とのことで参加していないようです。
PISA2022は、数学的リテラシー5位、読解力3位、科学的リテラシー2位の結果
まず、総合的な順位について確認していきます。日本は、表題にあるように数学的リテラシーは5位、読解力は3位、科学的リテラシーは2位という結果でした。
参加する81カ国中と考えれば非常に上位であることがわかります。
参考までに、国内でもよく海外の教育として取り上げられる「アメリカ」「フィンランド」「オランダ」についても見ていきます。
このような結果となっています。いずれの国々よりも全ての項目において日本は高い位置にいます。
他方で、日本の上位にいる国を見てみましょう。
こちらのたった5カ国が日本よりも上位に位置する国です。
人口の比較でみてみるとこのようになります。
いずれの国も人口が多い国ではなく、1億人をこえる規模の国においてこのような高い位置にいるのは極めて優秀な立ち位置にいるといっても過言ではないかと思われます。
こちらは、PISA調査の元資料から持ってきたデータですが、1人あたりのGDPと数学的リテラシーの相関をみたデータになります。日本は一人当たりのGDPは先進国に比べてかなり劣っているものの、数学的リテラシーが高いという稀な国であることもわかります。
この図も非常に面白いです。数学的リテラシーと教育課程で単位を取得するための時間数を計算したものです。日本は平均に位置していますが、数学的リテラシーが高いと結果が出ています。これはおそらく塾や宿題など、教育課程外での学習時間はカウントされていないと思われるため、それらを考慮したら時間は変わってくるのではないかと思います。
PISAとコロナの関係性
続いて、PISA2022で印象的だった点としては、新型コロナウイルスの影響について言及されていることです。これはPISA2018以前の調査ではいうまでもなく必要のなかった調査です。
いくつか興味深いデータを共有します。
こちらのグラフですが、横軸が、コロナによって3ヶ月以上休校したと回答した生徒の割合になります。
まずこの横軸だけをみても、学びが止まらなかった国の一つとして日本があげられます。これは本当に素晴らしいことです。台湾、アイルランド、スウェーデンに次いで4番目に低い数値になっています。
そして、数学的リテラシーについても高い位置にいます。
これは、3ヶ月の休校期間があった生徒の割合が少なかったために数学的リテラシーが高いというわけではなく、過去の数学的リテラシーの順位をみても、常に上位に位置しているので、休校期間のあった生徒の割合が少ないから=学習時間が確保できる=数学的リテラシーが高くなった、というのは一概には言えないかと思います。もちろん影響が0というわけではないと思いますが。
続いて以下のグラフを見てみます。
このデータは、"得点"について焦点をあてていて、2018年に比べて点数がどのように変化をしたか、確認をすることができます。これをみるとわかる通り、多くの国が2018年よりも点数が下がっています。
これは一つの要因としてコロナが言えるのではないかと思います。
そのような中、数少ない点数が上がった国として日本があげられています。
このように、コロナ禍でも"学びを止めない"と奔走する国、学校、そして先生の多大なる尽力の影響であることが伺えます。
GIGAスクール構想も非常に大きなインパクトを与えた一つの政策であったことも言えます。
また、こちらのデータは、「社会経済文化的背景」のレイヤーごとに数学的リテラシーの平均点を示したデータになります。社会経済文化的背景 (ESCS; Economic, Social and Cultural Status)とは、保護者の学歴や家庭の所有物に関する生徒質問調査の回答から同指標を作成したものです。
この図を見てわかるのは、日本は社会経済文化的背景に関わらず平均点の差が他国に比べて非常に小さいことがわかります。
つまり家庭環境や地域環境に関わらず一定の教育水準を保てていることがわかります。
ICTを用いた探究型の教育の頻度は29位
他方で、表題にある「ICTを用いた探究型の教育の頻度」は81カ国中29位でありました。これは、OECDの平均を下回っています。
また、各教科においてデジタルを活用した学習については、いずれもOECDの平均を下回っています。
ICTの有効活用と探究型の授業へのシフトは遅れていることがわかります。
基礎学力の高いが、以前として学びのスタイルが変わらない日本
さて、ここまでは様々なデータを並べていきましたが、ここからは個人的な感想や意見についてまとめていきたいと思います。
まず、先述したようにPISA2022では読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーともに上位に位置していることは大変素晴らしいことだと思います。日頃の教育水準の高さを伺えます。そして、日頃の教育水準を支える先生をはじめ、日本の教育システムについては賞賛されるべき内容かもしれません。
しかし、むしろこの高い水準こそこれからの日本教育を危惧すべきなのではないかとも思えてきます。(非常に皮肉な見方かもしれませんが)
最後のデータでも表れているように、ICTを活用した探究型の学びや各教科におけるデジタルの活用はOECDの平均以下の点数となっています。
読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーはあるもののICTの活用や探究型の授業には頼っていない。
これはある意味凄いことでありつつ、反対を言えばこれらの能力だけに特化し、非認知能力などこれらの3つの能力以外の観点ではあまり重要視されていない可能性があります。(あくまで仮説です)
また、この点についてメディアについても特に報道が強くされることはなく、3つの能力のみに焦点がいきがちになっています。
2018年の時にもそうでした。読解力が18位になり、一気に順位を下げたことが全国的にも話題となり、この数値が一つの次への課題となり、国内で「読解力のない子どもたち」というレッテルを貼られ、次の調査ではなんとしてでもあげなければならない。という意識になっています。
このように私たち日本人はどこか順位や数字に一喜一憂してしまうようです。これ自体は非常に危険なことです。
もちろん素晴らしい結果であることについては大いに喜ぶべきでしょうが、大事なのは10年後、20年後、にグローバル社会において活躍できる人をどれだけ増やすことができるか、という点ではないでしょうか。
そのように考えたときに探究型の学びやICTの活用についてもっと語られるべきであるし、そもそもPISA調査をここまで注目すべきかどうかも議論すべきなのかもしれません。
とはいえ、世界の記事を見てみてもやはり自国の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの順位についてをメインに語られているようですから、どうなのでしょうか。
https://www.washingtonpost.com/education/2023/12/05/us-students-math-scores/
今回は、OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイントの資料を中心に取り上げてきました。実は元データのPISAのレポートも非常に膨大で面白い調査がありましたので、もう少し時間を割いて別の機会にまとめたいと思います。
ぜひみなさんの見解についても教えてください。