👀私の視点［空から見えるセンターピボット農法と探求の話］

当マガジン「米ボーディングスクール潜入記録」では、2022年6月に私が潜入するアメリカのボーディングスクールの同窓会、卒業式、サマースクールなどの様子を写真と文章でレポートします。

ロサンゼルスからボストンに飛んでいるとき（日本からアメリカに移動したこの日ですね）、窓から見えたこの景色。

地面をよーく見ると、丸い模様がポツポツと。

ちょうどアメリカ中西部の上空です。

この地域はもともと農業地帯で知られていますが、こんなに丸い形には初めて気づきました。

あきらかに人工的なこの見た目にすっかり興味を惹かれてしまいました。

ちょうど機内にはフリーWIFIサービスがあり、暇も手伝って、人に聞いたり調べたりしてみました。

まずはtwitterでつぶやいてみる。

空から見えるこの丸いの、なんだろう…#まゆ潜入レポ pic.twitter.com/Vjz8elNU9N

— まゆ｜本とネットで🌏育児 (@mamamayu215) June 7, 2022

つぎに知り合いにチャットで質問。

ちょうどこの地方出身で、土木系を専門としていたことがある幼なじみです。

ちなみに直接連絡するのは、およそ５年ぶり。平日の朝に唐突に写真とメッセージが届いてびっくりしたことでしょう（笑）

この幼なじみは、私が国内のインターにいた頃にあとから来た転校生でした。実際一緒に通っていたのは２年ほどでしたが、そのあともずっとメールやSNSで交流が続いています。

土木系でこの土地にも馴染みがあるはずの彼に聞いてみると「相変わらずなんにもねえなｗ」というコメントのあとに「なんらかのirrigation systemだと思う、しらんけど」とぼんやりした答え。

irrigationとは灌漑のことで、田畑に水を引く方法全般を指します。

ヒントとしては、それだけで十分でした。

それを手がかりにネットで検索をかけると、出てきたのです。

「センターピボット」という答えが。

センターピボット - Wikipedia

センターピボット (Center pivot irrigation) は、

乾燥地域で大規模に作物を栽培するために、くみ上げた地下水に肥料を添加した後、自走式の散水管に圧送して水をまく灌漑法のことである。

比較的低コストで、効率良く灌漑できることが特徴で、2018年現在、同農法はアメリカ合衆国のグレートプレーンズや、エジプトなどを中心に行われている。

平均半径400メートル、最大1キロメートルの円形農場にスプリンクラーを1日あたり1回から12回程度周回させることで行われる。

へ〜こんな農法があったんだ！と私には発見でした。

日本の地理的条件では、まず成立しなさそうな方法。

さらに読み進めると、センターピボットに指摘されている問題点も判明しました。

乾燥地帯の地下水は何十万年もかけて貯まったもので容易に再生するものでは無いにもかかわらず、アメリカのオガララ帯水層 (Ogallala Aquifer) をはじめとした地域では灌漑を目的として多量の地下水がくみ出されている。深刻な地域では年間1.5メートルずつ水位が下がり続けており、同地域の地下水位が元の状態に戻るまでには数百年から数千年かかるとされている。

この問題の他にも、行き過ぎた灌漑による土壌流出や、散布した地下水の蒸発による塩害、添加された化学肥料による地下水（飲料水）の汚染など、同方式による灌漑は多量の問題を抱えているのが現状であり、近年ではこれらの問題によるコスト増を背景とした耕作放棄も増加している。

つまりセンターピボットは、環境への影響が大きくて、サステナブルでもエシカルでもないという指摘から、選ばれなくなってきているらしい。

上空でスマホを握りしめながら、黙々と探求を進める私。

さらにわかったのは、実はセンターピボットは日本の教科書にも載っていたらしいということ。（今もかな？）

アメリカのセンターピボットが教科書から消えるかも？ - youtube社会科マスターのページ

ここで面白いなと思ったのは、

小２から高３までアメリカのカリキュラムで学んできた私が30代まで知らなかったのに、

日本の高校生は実物を（おそらく）見ることもなく、知識としてセンターピボットに触れていたかもしれないということ。

見た目は結構インパクトがありますので、教科書に取り上げたくなるのもなんとなく納得です。

ただ社会科の先生のこの記事でも言われているように、センターピボットが取り上げられる文脈は「世界の農業」から「環境問題」に移っていくのでしょう。

ここまでの話だと、センターピボットは「衰退しつつある農法」だと思いませんか？

少なくとも、私はそう思い始めていました。

でももしかして、と思い「現在、センターピボットはどれくらいの割合で利用されているのか」について、また調べてみました。

すると、割と最近の2021年1月に発表された論文が出てきました。

 A Geographical Survey of Center Pivot Irrigation Systems in the Central and Southern High Plains Aquifer Region of the United States

この論文でカバーしている範囲は、以下の水層エリアのうち、南半分のコロラド州、カンザス州、ニューメキシコ州、オクラホマ州、テキサス州です。（私が飛んでいたエリアからは南にずれています）

https://www.usgs.gov/mission-areas/water-resources/science/high-plains-aquifer

論文には冒頭から、センターピボットはこの地域で「most dominant」=主流な灌漑方法である、と書かれています。

同エリアにセンターピボットを青でマッピングした図↓

この論文を読む限りは、センターピボットはまだまだ現役な農法という印象です。

最初の印象とだいぶ違いました。

ところで日本の食料自給率（カロリーベース、令和2年度）は37%。飼料自給率は25%だそうです。

日本の食料自給率：農林水産省

では日本に輸入されている食料・飼料・原料のうち、どの程度がセンターピボットで作られているのでしょうか。

ここからは推測ですが、たくさんの食料・飼料を輸入に頼っている日本も、センターピボットとは無関係ではありません。

センターピボットが指摘されているような目先の効率重視で持続可能性が低い農法が今の生活を少なからず支えてくれているのかもしれない。

などなど。。

たった5時間ほどのフライトですが、いろいろなところに考えが及び、個人的には楽しい時間を過ごすことができました。

それにしても、学生のときに教室でセンターピボットについて学んでいたとしても、当時の私ならおそらく「ふーん、で？」で終わっていたでしょう。

でもこうして自分の目で見て、疑問に感じて、人に聞いて、調べて、わかったことを誰かに話して、というステップを踏むと印象に残るし、なにより楽しいです。

私もこの一連の発見を、思わず子どもや夫にも話しました。

子どもたちにも、ぜひ生活や成長のなかで、このような発見と探求のサイクルを沢山回していってほしいと願っています。

当マガジン「米ボーディングスクール潜入記録」では、2022年6月に私が潜入するアメリカのボーディングスクールの同窓会、卒業式、サマースクールなどの様子を写真と文章でレポートします。