1,000文字小説 25歳ニート、自分の子育てをする
3年働いた職場から逃げるように仕事を辞めてきた。最初の1年間は仕事が遅く、ミスが多くても、嫌味を言われながらがむしゃらに働いた。2年目になる頃に、僕は簡単な文章も作ることができなくなり、人に何かを尋ねられると頭が真っ白になるようになった。自分がおかしくなってしまったことを、おかしくなった僕は正しく理解できなくなっていた。
気がつけば3年目に入った。すでに2年目の途中から記憶の前後があやふやになった。産業医から半年の休職を言い渡され、管理職の蔑むような眼差しを思う存分に浴びた。晴れて僕は、ベッドの上で息をして、貯金を切り崩しながら食事をするだけの生き物になった。
休職明けの初日、唐突に退職を管理職に言い渡して職場を後にした。職場の福利厚生と退職金の制度が幸いにも整っていたことと、僕が自分に保険をかけていたこともあって、退職後も2年間は働かなくても最低限生きていくことはできそうだ。その安心感に包まれて僕は眠りについた。
昼頃、お腹に唐突な重さを感じて目を覚ました。子どもがいる。お腹の上に、きょとんとした表情で僕を見つめる子どもがいた。僕は驚きはしたものの、飛び起きるわけにはいかなかった。
「僕、どこから来たの?」
「う〜ん」
「お母さんは?」と聞いてはみたものの、狭いワンルームに僕ら以外の人影はなかったし、鍵はきっちりと閉まっていた。
「うーん」
「名前は何ていうの?」
「わたる」
僕はその前を聞いて、この子が幼い頃の自分の顔そっくりなことに気づいた。
「わたるくんはいくつかな?」
「3さい」
間違いなく、3歳の頃の自分自身が目の前にいた。たしかな存在感をもったまま。僕は家の中を見渡し、散乱したゴミに罪悪感を抱いた。僕はその子と一緒に近くのショッピングモールへ行った。まずはこの子の食べ物だけでも確保しなければ、という気持ちに駆られた。自分自身の食事のことは、僕の頭になかった。
お子様ランチを3歳児の自分に買い与え、僕はそれを見守っていた。子どもの僕は見知らずの僕に警戒心は持たず、目の前のご飯を頬張っていた。
「ん!」と言ってフォークに刺されたハンバーグの欠片をこちらに差し出してきた。「食べて!」と言わんばかりに。僕は僕自身に甘えることにした。
口の中で噛み砕きながら、僕は目の前の僕の行動にハッとした。小さな僕は誰かと何かを共有したかったのだ。
僕のお腹の中に忘れていたものが入ってきた。