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#4【テレ東ドラマシナリオ】パスワードが間違っています


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2020年1月22日
*サキ、自宅で

棚に整列したDVDやCDの中から、トシキと話した映画のDVDを手に取る
ふと、その横のCDに目をやる
(そのCDが映画の主題歌、そのCDは高校生の時ハルがくれたもの)

サキ、おもむろにCDを開ける

CDケースの中から紙切れが出てくる
紙切れは期末テストの問題用紙をちぎったものだった。

サキ、なにこれという表情で紙を開く

”毎年1月28日になるとサキを思い出そうかな”

歌詞の”君”を私の名前に替えたものが書かれていた。

サキ「ばかか」

サキ、虚しく笑った。おもむろに歌詞を口ずさむ。

サキ「毎年1月28日になると君を」

  「毎年1月28日になると」

  「1月28日」

サキ、急いでPCを起動する。

ミクシィのログイン画面へ

”0128”

PCに”ログイン完了”の文字

ジュリの言っていたとおり、
パスワードは誕生日でもなく記念日でもなく
本当にどうでもいい些細な日常の中にあって、
ただあの時の自分は永遠に忘れるはずがないと思ってつけた たった4桁の数字さえも簡単に忘れてしまうほど、
あの時の”永遠”は青春の一時的なものだったのかと悲しくもなった。

サキ、思い出を一つずつ削除していく

最後の投稿は、2010年3月10日。高校の卒業式の翌日だ。

高校卒業を機に、ブログの投稿を最後にする旨が書かれていた。
その投稿を最後に サキはブログにログインしていない。

サキ「これで最後か」

サキが最後の投稿を消そうとしたとき、1件のコメントがついているのを見つけた。

サキ「だれだろう」

”2011年1月22日 
haru : 突然ごめん。1月28日にいつものところで待ってます。今年無理でも毎年待ってます。”

サキ「え」

  「え」

カレンダーを見て今日が1月22日であることを確認する

  「え」

  「いやいやいやいや」

”毎年”という言葉を見る

サキ「うそだ うそだ うそだよ」

  「けど・・・」

  「いやいやいやいや」

  「ないないないない」

  「えー」


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2020年1月24日
*サキ、職場で

頭の中で 「1月28日にいつものところで待ってます。今年無理でも毎年待ってます」を反芻する


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2020年1月28日17時
*サキ、職場で

サキ、時計をちらっと見る


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2020年1月28日19時
*サキ、公園で

サキ「やっぱそうだよね」

だれもいない、いつものベンチに座る

サキ「はー」

サキ、期待してしまった自分にため息をつく

ハルト「これ、買うの20本目なんですけど」

ハルト、サキに缶コーヒーを渡す

サキ「20本?」

ハルト「俺のとサキの分買ってるから」

サキ「10年も・・・」

ハルト「遅いよ、もう10回目でなんかキリいいし最後にしようと思ってたら、本当に来たんですけど」

サキ「ごめん・・・ブログ全然見てなくて、この前10年ぶりに見た」

ハルト「なんだよ・・・見ろよ」

ハルト、少し呆れ笑う

サキ「本当にごめん。けどブログのコメントに書かなくても」

ハルト「サキ、大学あがったとき携帯ガラケーからスマホにかえただろ?
だから連絡先わかんなくなっちゃって、なんか周りに聞くのも嫌だったし」

サキ「あ・・・」

ハルト「何かサキに言いたいことがあって呼んだんだけど、いざ本当に来られると何を伝えたかったのか忘れちゃったな、だって10年だよ、10年って・・・」

サキ「10年間待っててくれたんだ・・・」

ハルト「もはや5年目超えたあたりからここに来ることが目的になっちゃって、何しに来てるのかわかんなかったけどな笑」

サキ「なにそれ笑」

しばらく昔の思い出話が続く
改めて好きな食べ物の話とかする
サキはいつもよりずっとサキらしく笑ったり怒ったりしてみせた

サキ、時計を見る

サキ「そろそろ行こうかな」

ハルト「おう」

サキ「あ、これ」

サキ、カバンから袋を取り出す

ハルト「なに?」

サキ「10年借りてた」

ハルト、袋を開けてCDを取り出す

ハルト「あー懐かしい!10年って延滞料金やばいぞお前 笑」

サキ「ごめんって笑」

ハルト「ありがとう、覚えててくれてて」

サキ「ううん、ありがとう忘れないでくれてて」

ハルト「じゃ、会えて嬉しかった」

サキ「うん」

ハルト「じゃあな」

サキ「じゃ」

ハルト、サキ、別々の方向に歩きだす

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2020年1月28日23時
*ハルト、駅で


ハルト、電車を待っている間に 駅のホームで袋からCDを取り出す

ハルト「懐かし」

ハルト、CDのケースを開けると1枚の紙切れが
10年前にハルトがサキに書いたものだった

ハルト、苦笑いする
紙切れを裏返すと、10年前にはなかったサキからのメッセージが

”あとの364日は?”


ー完ー



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あとがき

パスワードを設定する場面は人生の様々なタイミングであるかと思いますが、その時々でその瞬間の 人生を象徴するような事柄をパスワードにしている人も多いかと思います。
パスワードというのは誰かに話すわけでもなく、自分しか知らないが故に
忖度なしに本当に大切に思っていることがさらけ出る場なんじゃないかと思っています。
ハルトと離れた後、必死に自分を変えようとしてきたサキにとって
今回のパスワード探しは 本来のサキをもう一度見つけるきっかけになったのではないでしょうか。


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