マーケティング改革するなら営業が暇している今
たまに記事を寄稿したりしているものの、基本的にNetflixと読書の合間に求人サイトを眺めるほぼ無職な私。このままだと取材の腕や文章力が衰えそうだったので、流行りのオンラインセミナー(※1)に参加して感想を書くことにしました。
参加したのはこちら。『マーケティングと営業のデジタルシフトに失敗しないために』(2020年5月20日開催)。ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(※2)というコンサルティング会社のセミナーです。
(出処:ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ セミナーページ ※3)
他人のフリは見えても
コンサルティング会社のセミナーとあって、数多のプロジェクトを手掛けてきた叡智を集めたノウハウを紹介するのかと思いきや、自社の事例紹介が中心です。約2年前にケンブリッジ自身がデジタルマーケティングを導入した時のエピソード(※4)を、谷風公一さんが紹介しました。
谷風さんの話しぶりは、さすがコンサルタント出身だけあって面白い。よく整理されていて、とても納得感がありました。同時に、思ったよりケンブリッジの改革前が「あ、そうだったんだ」という感想。言っちゃアレですが、なかなかに残念な状態だったようです。
例えば、目の前の顧客や相談に飛びついてしまい、じっくり関係づくりをしてきた顧客を放置してしまったりだとか、「相談したい」という問い合わせがあると、すぐに訪問していたりだとか。ウェブサイトのどこにアクセスする人が特に強い関心を持っているかなども、改革前には仮説検証できていなかったそうです。
(出処:配布スライド)
来た問い合わせを打ち返す、典型的なリード任せな状態。好景気な時はいいですが、景気が悪くなると焦げ付くやつです。受託開発やっているIT企業によくある。
ケンブリッジならマーケティングの組織づくりやデジタル化プロジェクトなんて案件も手掛けていそうなものですが、自分たちの組織には手が回っていなかったのでょうか。医者の不養生のコンサルタント版。そもそも、他人のフリを見ただけで我がフリが直せるなら、コンサルティングサービスなんて成り立たないのかもしれません。組織になると、「我」が何者か分からない。
しかし、新規顧客が増えていた好景気な状況で「既存顧客への対応が不十分」という課題に気付けたのも凄いし、それを経営課題と認識して改革をしようと決断できたのも、やっぱり流石と言うべきなのでしょう。
なにより、それを隠さず紹介してセミナーにしちゃう正直さと、「改革は泥臭いものだ」と真正面から発信する姿勢は好感が持てます。正論を言うだけで改革ができるなら、苦労なんてしません(※5)。
第一歩は「ヤバさ」の醸成から
改革とは基本的に面倒なもので、進めるには関係者の主体的な協力姿勢が欠かせません。特にデジタルマーケティングなんてものは、色々な部署との連携が本質のような存在。別部署の人に主体的に協力してもらうなんて、なんとハードルの高いことでしょう。
最初にケンブリッジが始めたのは、「ヤバさの醸成」(谷風さん)です。新規案件を忙しく捌いている人たちに声をかけていったそうです(※6)。
「この好況、いつまで続くんですかね?」
「いつまでもお客さん任せで大丈夫?」
うん、嫌がられそう(笑)
こうして好況を喜んでいた営業担当者を刺したあと、具体的に「ダメさ加減をちゃんと言語化」(谷風さん)というプロセスを経て、「イケてる組織は仕組みとデジタルでやれている」(谷風さん)と、他社の事例を紹介していきます。関係者に「改革できそう」という意識を持ってもらい、何を目指し、どう改革するかという議論に主体的に協力してもらうためです。
(出処:配布スライド)
しかし、こうしたコミュニケーションで協力体制が作れたのには、色々と都合のよいタイミングだったという要因もありそうです。セミナーに同時接続していた、ケンブリッジの白川 克さん(※7)は、営業のリードを担当していた過去を振り返って「当時は改革を諦めていた」と話していました。
一度は諦めていた改革が、2年前には着手できた。それには、次のような背景があったと言えそうです。
・リーマンショックで不景気になった時のトラウマが鮮明
・「オリンピック後」という具体的な景気減速が予想できていた
・デジタルマーケティングの事例が増え、営業も「うまくできている会社はある」と知っていた
確かに、これだけ条件がそろっていれば、営業担当者にも本気で協力してもらえるかもしれません。オンラインセミナーでも少し話に上がりましたが、営業の人に改革の協力してもらうのって大変なんですよ。
基本的に改革というのは会社のためで、トータルで見れば利益のためです。しかし、営業の仕事は売り上げ数字を作ることなので、その手を止めて改革に協力するって「利益のために稼ぐのを止める」というようなもの。営業の感覚からすると、「直感に反する」(白川さん)のでしょう。
タイミングって大事ですねぇ・・・
コンテンツ作るなら今
セミナーでは、改革の事例紹介だけでなく「コンテンツ作りにビビるな」というお話もありました。デジタルマーケティングは顧客のデータを取るのが基本ですが、顧客が動いてくれないとデータが取れません(※8)。
営業が訪問して動きを誘発できないなら、コンテンツを撒いて顧客に動いてもらうのが大事。特にケンブリッジの場合、BtoBのコンサルティングサービスなので、相手の実名を知るプロセスが必要です。匿名のまま関心の高さをスコア化したリードから、コンテンツを通じてどこの誰かを知るステップを設計したりします。
ケンブリッジが作っているコンテンツ(出処:配布スライド)
マーケティング用のコンテンツとなると、事例やサービスの紹介、特徴やユーザーの声といった情報が必須です。これらを知っている営業やサービス開発担当者の協力が必要になる訳です。が、改革に協力してもらうのが難しいのと同じで、コンテンツ作りにも協力してもらうのは難しい。「それはマーケティングの仕事でしょ。今忙しいんだけど」なんて言われる光景が目に浮かびます。
そう考えると、新型コロナウイルスで色々と異常事態になっている状況は、家に居て暇している(かもしれない)営業などにヒヤリングして、コンテンツ作りをするいい機会かもしれません。ついでに課題感を聞いたり、マーケティング事例を紹介したりと言った雑談ができたら、マーケティング改革の第一歩ができたりして。ヤバさの醸成だけは、すでにできている訳ですから。
マーケティングコンテンツを作るなら今なのかもしれません。
セミナー終了の挨拶をするケンブリッジのメンバー。
視聴参加者からの質問も盛り上がり、予想通り時間をオーバーした
余談
谷風さんがデジタルマーケティングを近大マグロの養殖に例えて話していて、面白かったです。コンテンツは「餌」で、リードは「魚(マグロ)」、リードライフサイクルの各ステージは「生け簀」といった感じ。
多用しすぎると支離滅裂なジャーゴンになりかねないですが、想像しやすい言い換えができると、マーケティングに詳しくない人でも会話がしやすそうです。いろいろな部署が協力して回すマーケティング。それぞれの部署が同じ言い換えを使って会話できると、仲間感が出て連携がスムーズになるかも。
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※1:ウェビナーとも言ったり。Web + SeminarでWebinar。どっちが流行るのだろう。個人的にはオンラインセミナーがしっくり来る
※2:社名長い。以下、ケンブリッジ
※3:同じアイキャッチで「準備中」にセミナーが登録されているので、また開催されるのかもしれません。リアルセミナー風ですが、オンラインです
※4:MAツール「Marketo Engage」の導入事例でも紹介されています。
※5:苦労しないんですよ・・・
※6:営業に「熱心なお客様に支えられてます」と言われたそう。「支えられてます、って何よ」(谷風さん)
※7:日経xTECHのコラム『テクノ大喜利、ITの陣』でもお馴染み
※8:データを取ってみるまでは顧客が居るか居ないか分からない。シュレディンガーの顧客