カピタンという夢 ~マタドール、セルヒオ・ラモス~ 中篇
予兆
大いなる禍根と未来への礎を築いた後、モウリーニョは去った。最終年の12-13はチームが分裂状態にありながらもCLは準決勝まで到達している。ドルトムントとのアウェイでのファーストレグは1-4で大敗。このときラモスは久々に右ラテラルとして出場していた。中央のペペがレヴァンドフスキをマークしきれず、まさかの4ゴールを献上してしまった。
迎えた2ndleg、超満員のベルナベウで大歓声の強大なバックアップを受けたマドリーは試合開始とともに猛攻を仕掛ける。イグアイン、Cロナウド、エジルと決定機を立て続けに迎えるも誰一人として決めることはできない。
ラモスはCBに戻り、ファーストレグで破壊的なパフォーマンスを見せたレヴァンドフスキをかなりアグレッシブ(暴力的)にマークし、ゴールを割らせなかった。しかしマドリーは圧倒的に攻め込んでいながら、ゴールを奪えないまま時が経ち0-0のまま80分を超えてきていた。
残り10分を切ったところで、途中出場のカカ―の起点からこれも途中出場のベンゼマがようやくゴールをゴールをこじ開ける。さらに87分、ベンゼマの見事なトラップからパスを出し、上がりっぱなしだったラモスが左足を振り抜きゴールを破る。
奇跡の大逆転突破まであと一点。地鳴りのような声援が鳴り響くスタジアム。ボルテージは最高潮に達し、ベルナベウは巨大な龍が咆哮するかの様な熱と音量となり、ドルトムントを飲み込まんとしていた。ドルトムント会長は逆転される恐怖で見ていられず、途中退席するほどであった。
しかしアディショナルタイムのラモスのヘディングも枠を外れ、無情にもタイムアップ。2-0で勝利したものの、二戦合計3-4でCLから姿を消すことになった。またしてもファイナルには到達できなかった。
しかし敗退となったものの、ベルナベウはチームに大きな拍手を送った。最後まで勝利を諦めないマドリディスモを見せたこの試合は、スタジアムとの一体感を含めエモーショナルで記憶に残るもので、涙に暮れたラモス共々この試合なくしてデシマはありえなかったと断言できる。
(この試合を見たことがないマドリディスタは、以下のURLハイライトでも構わないので是非とも一度ご覧いただきたい)
夢の結実、伝説へ
13-14。カルロ・アンチェロッティが就任し、クラブは嵐のような期間から平穏を取り戻していた。カシージャスが依然としてカップ戦のみの出場となっていたこともあり、アンチェロッティはラモスを実質的なリーダーとしてみなしていた。イスコやカルバハルといった大量に新加入したスペイン人の若手から、最高額の移籍金で加入したベイルのサポートを頼んだと後に語っている。
リーガではやや、波がありながらもディ・マリアを中盤にコンバートする4-3-3が軌道に載ってからは強さを発揮した。最終的には3位となったのは、バランスを見つけるのに時間がかかったことCR7が膝のケガで離脱していた時期があったこともあげられる。
CLではその当時まで苦手とされていたドイツ勢、シャルケをアウェーで1-6で屠り(ドイツで観戦したが衝撃的強さであった)、準々決勝ではドルトムントに雪辱を果たし、準決勝に到達した。相手はバルセロナ時代に何度も苦杯を舐めさせられたペップ率いるバイエルン。
ホームで1-0で辛勝し、乗り込んだアウェーゲーム。この試合は4-4-2で挑みソリッドな守備からのカウンターが猛威を振るった。しかしなんといっても試合の趨勢を決めたのはラモスの前半での2本のヘディングのゴールだった。昨年の覇者にして優勝候補筆頭のクラブを打ち負かしたことで、大きな自信を得て12年ぶりのファイナルへと向かった。
ファイナルの説明は不要だろう。リスボンの地で同じ街のライバルによって、なんとしても手にしたいものは取り上げられる寸前だった。「92:48」によって彼はあらゆる人を救ったのだ。致命的なミスを犯したカシージャス、敵の会長の真横で大喜びしたペレス、そしてこの時を12年も待った世界中のマドリディスタ達。リスボンの地で闘牛士は伝説に昇華した。これ以上のゴールは、この先のマドリーの歴史の中でも存在することがあるのだろうか。
「永遠に歴史に残るゴールだろう。あれは、あの結果で歴史と物語を終わらせるためのチームのハードワークと多大な犠牲心によるものだ。僕がゴールを決めなければならなかったが、セルヒオ・ラモスのゴールとしてだけでなく僕たちはチームとして歴史に残るだろう」
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