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駐禁と亀
頭上には、赤と青の目に悪い顔。その真ん中を通る斜線が、いかにも私を非難しているようで委縮してしまう。
駐車禁止。国が制定し、我々市民に課しているルール。まかり間違ってそれを犯そうものならば、私のか細い生命の糸はぷつりと、いとも簡単に切れることだろう。
亀。一匹の亀を、私はその標識の下に置く。
私は車をもっていない。それどころか、免許も持っていない。仮免試験の当日、教習車のシフトレバーを『涼宮ハルヒの憂鬱』の古泉一樹のねんどろいどに換装し、自動車学校界を永久追放になったからだ。
「だから私は駐車禁止を犯すことが出来ない」
その先入観を逆手に取った、亀である。
そう、これは私の反逆。この国を牛耳っている政府への逆襲なのだ。
私は亀の甲羅の上に、古泉一樹のきゅんキャラを置く。
さあ、勝負だ……!
その時、黒光りするミュータントタートルズに乗ったインスタントジョンソンの群れが時速60キロで左車線を走行し、そのまま3回転トゥループを決めた。観客席が歓声に震える。
100点!100点!100点!
審査員席に座るバーグハンバーグバーグ社長、長島の叫びが夏の高い空に響く。
「おつかれちゃ〜ん」
ドップラー効果によって徐々に低くなっていく彼らの声を聴き、私は思う。
日本のお笑いは、まだ終わっちゃいねぇ……!
私は亀と古泉を拾い上げると、駆け付けた警官に罰金12,000円を支払った。それが元で私は破産し、今は亀田製菓の地下労働施設でぽたぽた焼きのおばあちゃんとともに柿の種を収穫している。
そう。私が置いた亀は、ミシシッピアカミミガメ。日本の侵略的外来種である。
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