佐倉雅3rdアルバム『病人〜やみんちゅ〜』世界最速レビュー
「聴いた者が精神をきたす」という類の曰く付きの音楽というものはこの世界に一定数存在する。
しかしそのどれもが単純な空耳の域を出なかったり、録音環境によるちょっとした事故だったりするわけで本当にガチでヤバイ音源というのは極めて稀なのではないだろうか。
さてそこに来て佐倉雅3rdアルバム『病人〜やみんちゅ〜』である。
Jホラーの金字塔である映画『リング』(1998年)は呪いのビデオという都市伝説をもとに恐怖が徐々に世界を侵食していく様子を描いた作品だった。
その元凶である山本貞子は自らの怨念をビデオテープという媒体に収め、その呪いのビデオを観た者を1週間後に死へと誘い、逃れる方法はただ一つ「呪いのビデオを第三者に見せる」という恐怖と絶望の連鎖をうみだした。
本日8月21日に本アルバムが無事にリリースされるという事は今まさにそれと同じ現象が起きようとしているのではないかという不安に駆られながら私は筆を取っている。
佐倉雅3rdアルバム「病人〜やみんちゅ〜」
🌸1.悪口大王
昨年11月発売の5thシングル。
オープニングに相応しい爽やかなロックナンバーに悪口を題材にあるあるで誰もが共感できる歌詞を乗せた攻撃的なナンバーになっておりライブでも人気が高い一曲。
🌸2.遺書
昨年11月発売の5thシングルのカップリング。
悪口大王が他者への口撃であるのに対してこちらはタイトル通り徹底的な自己批判の歌詞が暗くハードコアな音と共に押し寄せる。
救いようのない歌詞の合間にあるセリフが聴く者の胸を締め付ける。
🌸3.通り魔天国
今年2月に発売し即完売した6thシングル。
孤独であるが故に周囲に止める者が居らずノリで出してしまったジャケットのヤバさから現在はチャンミヤビ商店デジタルコンテンツ販売からも削除されている。
秋葉原通り魔殺人事件をモチーフに他人から排除され抱えた孤独と行き場のない憤りが殺意に変わり決行の時を迎えるまでの心情が連なる歌詞が炸裂する。
佐倉雅の楽曲の多くは過去の実体験に対してその時々の解釈、受け入れ方、新たな視点を歌詞に反映させたものが多くを占めるが2ndアルバム『享年十七歳』収録の「自殺の練習」がそうであったように実際にあった事件をモチーフにした楽曲もある。(大津市中2いじめ自殺事件)
奇しくもアルバム製作後半に差し掛かった7月末に加藤智大死刑囚(39)の死刑が執行された。
🌸4.いのちの電話
いきなり不穏な電話呼び出し音から始まるホラーな雰囲気から始まるナンバー。
Twitterで「自殺」や「メンヘラ」と入力すると自動的に表示されるいのちの電話広告からインスパイアを受けたという。
心を病んだ者の心にある助けて欲しい、死にたくないという本音の散りばめ方が秀逸であり、サビに「フリーダイヤル0120」というワードを持って来るあたりさすが佐倉雅と唸る楽曲である。
歌の中で描かれている救いを求めた先の職員の対応が経験者にしかわからないリアルさがある。
🌸5.精神薬のうた
そのタイトル通り、精神薬/睡眠薬を処方される者にしかわからない苦悩とあるあるな日常が並ぶ。
聴いてるこちらまで鬱になるような自己批判的な歌詞の一方で随所に入って来る合いの手、コールの明るさがマッチして不思議と心地がいい。
楽曲提供は佐倉雅とかっこいいバンドのGtきょん氏であり正統派メタルな音を楽しむ事が出来る。
🌸6.心理検査の歌
精神病の辛さや闇をテーマにした曲は一定数存在する。
しかし精神病であるが故に通院する過程、そしてその通院先で起きる心理検査に焦点を当てここまで細かく曲に出来るのは佐倉雅が正真正銘ガチであるからこそでありメンヘラ業界の中でも唯一無二の楽曲に仕上がっている。
現在メンヘラ一年生達へ、そしてこれからメンヘラになる予定の全ての方にメンヘラ教本として是非聴いて欲しい一曲である。
楽曲提供は佐倉雅とかっこいいバンドのBaダンジョー氏でありメタルコアをベースにしたメロディアスな音を楽しむ事が出来る。
🌸7.一生友達作らん宣言〜remix〜
昨年の生誕記念として発売された佐倉雅とかっこいいバンド名義ミニアルバム『毎日しんどい』よりremixされた楽曲である。
『毎日しんどい』収録verが完全にバンドアレンジであり荒々しさと武骨な音を全面に出して行ったのに対して、本作収録verは全面的に音圧の調整を施しつつアレンジを加えボーカルを新録することにより歌詞そのものの印象もガラッと変わって生まれ変わったように思われる。
同じ歌詞でもバンドアレンジでは「友達を作らない」というテーマが孤独と怒りという形で表現されていたのに対して新録されたverでは怒りだけでなく若干のユーモアと哀愁がいい具合に足された事により佐倉雅の魅力のひとつである「等身大のダメな女の子感」が新たに表出されたように思う。
🌸8.偶数月の15日〜remix〜
こちらも佐倉雅とかっこいいバンド名義ミニアルバム『毎日しんどい』よりremixされた楽曲である。
こちらも全体的にremixが施されボーカルを新録したことにより印象が大きく変わった一曲である。
わかる人には一瞬でピンと来る「障害者年金」の受給をテーマにした楽曲‥おそらく日本初なのではないだろうか?
ちょける佐倉雅が好きな方は01:38や03:00あたりでノックアウト間違いないと思われる。
🌸9.みやびちゃん行進曲
🌸10. みやびちゃん行進曲(カラオケver)
初期の頃から会場限定販売され現在は完売している楽曲のサプライズ収録。
ライブで披露される事がない「佐倉雅公式テーマソング」という位置づけでありながら佐倉雅の楽曲の中で1番THE正統派アイドルな楽曲となっている。
なぜならば‥作詞が佐倉雅ではない唯一の楽曲だから。
佐倉雅3rdアルバム『病人〜やみんちゅ〜』はそのタイトルの通り精神病をテーマに生活においてそこに付随する悩み、怒り、焦燥感、絶望感等が全体に散りばめられた作品となっている。
それは過去2枚のアルバムにも共通したテーマでもある。
しかし過去2枚のアルバムが過去の体験談を元に作られた曲が多くを占めるのに対して、本作は特に「現在」を歌にし始めたという印象を受ける。
心理検査、精神薬、いのちの電話‥客観的に自分自身を捉え、これらのネタを自虐的を挟みユーモアを織り交ぜたネタにすることでこれまでの苦労や苦悩を(消化/昇華)させる過程を踏み始めているのではないかと思われる。
佐倉雅3rdアルバム『病人〜やみんちゅ〜』は一般の健康な人間が聴くとそのテーマの重さから精神をきたすおそれがあるかもしれない。
それは間違い。
しかし佐倉雅の不思議なところはその重くて暗いテーマをあっけらかんと明るく、時にブチアゲハードに歌いあげる事で一種の集団催眠状態の興奮へと誘い、聴く者の心を魅了するのである。
私は佐倉雅はメンタルを病んだ者達の代弁者であり、その闇をステージライトという光の下に曝すべく生まれたダーク・ヒロインなのだと考えている。
佐倉雅は同じ病を抱えている者、同じ痛みと苦しみを知っている者なら強く共感出来るであろう悲痛な胸の内を歌詞を歌に乗せこれからも世界に放ち続けていくだろう。
お薬を飲みながら─。
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