地域の子どもたちと、小さな田舎町の可能性を考える。
加藤朝彦
僕の住む北海道喜茂別町は人口が2000人に満たない小さな田舎町だ。子どももひと学年に10名程度しかおらず、高校も2010年に閉校してしまった。そんな状況もあり、若い人が少ない。65歳以上の高齢者も4割を超え、まちづくりに携わる人たちの年齢層も上がる一方だ。
5年ほど前に東京から移住してきて以来、地域おこし協力隊やカフェのオーナーという立場でまちづくりに携わっている。そんな活動のなかで見えてきたことがある。この町に住んでいると、都会で当たり前のように受けられたサービスや体験に触れる機会が少ない。例えば、子どもの習いごとの種類は限られているし、芸術文化に触れる場所も多くない。以前、地域の子どもたちと話した際、「働く」ことへのイメージが乏しいなと感じた。地域にある仕事や働き方にも限りがあるし、都会のようにいろいろな仕事をしている大人たちと触れ合うこともないから当然のことだと思う。
そこで、僕は今年の夏に一般社団法人を立ち上げた。縮退していく地域における新しい経済システムの構築と、それを持続させていくための教育機会の創出し、都市部と田舎の機会格差を是正すること目的としている。
その事業のひとつとして、9月から町内の中学校で会社経営やものづくりを体験する授業を担当させてもらっている。中学2年生に架空の会社を作ってもらい、その会社で商工会のホームページの制作を請け負うというもの。実際にサイトを構築するチームや町のPRコンテンツを考えるチーム、自分達の活動を広報するチームに分かれ、11月末の成果発表に向けて活動中だ。もちろん仕事として進めているからには、その対価もある。自分達の学校生活が豊かになるものを報酬として提供する予定だ。
僕はこういう活動をきっかけに、もっと地域の子どもたちにまちづくりに関わってきてほしいと思っている。それは、いろんな価値観の人と触れ合って欲しいから。そして、僕も新しい価値観を取り入れたいから。お互いに凝り固まった価値観を解くほぐしていければ面白い。
喜茂別の外へ行ってしまう。それはもう避けられないが、自分の生まれ育った町で経験したことが、なにかしらのかたちで彼らの心のなかに残ってくれていたら、いつか「喜茂別に戻ってきたい」と思ってくれるかもしれない。そんな想いの種をひとつでも残せたらいいなと思っている。
加藤朝彦
一般社団法人HATCH代表理事。2017年に東京から喜茂別町へ移住。その後、町内にcoffee&sharespace tigrisを開業。IT業界で培ったデザインシンキングとテクノロジーの知見を社会課題解決の分野に応用しながら地域活動を行なっている。