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固有の場所を持たない、ポップアップの現代アートギャラリーをはじめて

友川綾子

みなさんこんにちは! gallery ayatsumugiディレクターの友川です。ayatsumugiは2022年1月に初の展覧会を開催し、2年半ほどの活動歴を持つ現代アートのコマーシャルギャラリーです。特徴としては「固有の場所を持たない」こと。なぜこうした活動を展開しているのか、ここでごく短くダイジェスト版で紹介させていただきます。


地域アートプロジェクトの時代から、アートマーケット拡充の時代に

ここ15年ほど、ヨコハマ・トリエンナーレ、越後妻有、瀬戸内国際、札幌国際など、さまざまな芸術祭が興ったことにともなって、アーティストの活動の場も各地に拡張されてきました。旅暮らしのように、アーティスト・イン・レジデンスを渡り歩く人もいるほどです。一方、近年の文化庁は、アートマーケットの拡充に舵を切り、作品を販売する場であるアートフェアの開催を支援するようになりました。

アートプロジェクトで活躍してきたアーティストは、マーケットで人気の「絵画」や「彫刻」といったメディアで制作しない人も多く、コレクターやギャラリストら、マーケットにおけるプレイヤーとの繋がりを持たない人も多くいます。

これはちょっとやばいと思いました。日本各地のアートプロジェクトで育まれてきた、土地に根差したアートが、マーケットの経済原理を前に立ち消えてしまうのかもしれません。そこで私は、アートプロジェクトの作家をマーケットにつなぐために、ギャラリーを設立することにしたのです。

(設立までの私のキャリアなどはこちらにぼつぼつ書いています)

日本のアートマーケットは伸び代しかない(という言い換え)

国が舵取りをしたら、確実に状況は変化します。が、足元の日本のアート市場はめちゃくちゃやばいです。世界市場における存在感は皆無。お金という血液が足りなすぎて貧血状態。どうりで、日本のアーティストはお金に苦労するわけです。アメリカ、ヨーロッパ、中国では、一般にアーティストが職業として成立していると見られますが、日本では違うのは、単に「アートを買う人が少ない」から、とも言えます。

「アート市場活性化を通じた 文化と経済の好循環による 『文化芸術立国』の実現に向けて」と題されたワーキンググループでの報告書に記された図はこんな感じ。課題だらけです。

文化庁 文化審議会 文化政策部会 第1回 アート市場活性化WG 資料

2019 年における世界のアート市場は 7 兆円程度。一方、我が国のアート市場は推計 2,580 億円程度で、全体のなんと3.6%です。

将来は違うのかもしれませんが、冷えている市場に新規参入することに、メリットなんてないわけです。でもまあ、私の場合はアートしか好きなことがありませんし、作品にダイレクトに触れることができたり、美術史を編んでいく一助となることに喜びを感じてしまうタイプだったために、市場の悪さがギャラリーを「やらない」理由にはなりませんでした。ビジネスパーソンとしては頭が悪いです。

ギャラリーは続かなければ、意味がない業態

販売する作品の証明書(真贋を保証するため。余談ですがマーケットには贋作がたくさん流通しています)を発行し、購入者のアフターケアを行い、作家の継続的な活動支援を行うギャラリーは、長く続けることが正義です。一度はじめたら、気まぐれに辞めるわけにはいきません。

でも、前述したように、市場は芳しくないわけです。どうしたか。

なら、固定費を削ろう!

生き残るために、家賃を払わないという決断をしました。いまや銀行でさえ店舗を持たない時代。展覧会をやりたいなら、その時に場所を借りたら良いわけです。風の時代!

そうして「固有の場所を持たない」ギャラリーとして、gallery ayatsumugiは活動をスタートしました。これまで、自主企画の展覧会を7回、外部企画展覧会のゲスト参加を1回、その他さまざまな活動を行ってきています。やってみて、良かったことと悪かったことがありました。

【良かったこと】
・「場所を持たない」ことを、今っぽい!面白い!と応援してくれる人と多く出会えた。
・空間と作品とのシナジーで特別な体験を提供できた。
・良質なアート体験を提供できたことで、作家やayatsumugiのコアなファンになってくれる方が現れた。
・アーティストとのコミュニケーションの時間を確保しやすい。(場所のメンテナンスや運営に時間を使わなくてよいため)
・企画のためのリサーチに時間を使える
・資金を広告・プレスリリースなど、宣伝・広報活動にまわしやすい。
・顧客とカジュアルに会える時間が多い。
・新規開拓にも時間を使いやすい。

【悪いこと】
・展覧会を開催するのに、通常のギャラリーより(およそ)3倍ぐらいの負荷がかかる(オーナーさんとの調整が特に大変です)。
・展覧会企画の起点がつかみづらい(場所が先?アーティストが先?)
・アーティストに信用してもらいづらい。
・展覧会は今のところ、ワンオペ状態なので、長期開催だと、ちょっと辛い(助けてくださる方募集中)

未来ビジョン

世界のギャラリーはメガギャラリー化しています。日本のギャラリーも今後、M&Aが進むことが予想されます。gallery ayatsumugiもそうなるかもしれません。資本主義の波には抗えないでしょう。

こうした変化は、実はアーティストにとってはより厳しい現実ともなりえます。メガギャラリーという形態になると、どうやらこれまでのギャラリーが大切にしていた、アーティストとともに歩むという存在から変わっていってしまうようなのです。今後は、アーティスト自身がビジネスへの理解をしていないと、生き残っていけなくなる時代が来るでしょう。

そんな未来予想もありながら、gallery ayatsumugiはまだまだひよっこ、弱小です。いまこの瞬間に、できる最大限のことをやっていくだけ。応援いただけると嬉しいです。


友川綾子

gallery ayatsumugiオーナーディレクター。
3331 Arts Chiyodaなどを経て、アートを伝えるフリーランサーに。2021年、日本とアジアの感性を世界に発信するため、現代アートのコマーシャルギャラリーgallery ayatsumugiを設立。著書に『世界の現代アートを旅する』。


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