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『鳴く虫と郷町』〜まちの歴史と人々が紬ぎ出す現代の虫聴き〜

鹿嶋孝子

私が育ち、今も暮らす伊丹市は兵庫県南東に位置し、大阪国際空港(伊丹空港)があるまちです。
面積約25km²、人口19.8万人(人口密度は兵庫県第2位)、大阪、神戸のベッドタウンで都心部に近いエリアで、清酒発祥の地と言われ(奈良との説もあり)、江戸時代には酒造りの町として繁栄しました。酒造家たちによる町人自治が行われ、俳諧文化も流行したそうです。
中心市街地である阪急とJRの伊丹駅周辺(伊丹郷町)には、国指定重要文化財の酒蔵や城跡、音楽や演劇、芸術の文化施設、ライブラリー・オブ・ザ・イヤーで大賞を受賞した図書館があり、市内には野鳥の楽園「昆陽池公園」など自然も豊富で、歴史、文化芸術、自然が共存しています。
近年では、幅広い世代の市民や事業者がプレイヤーとして活躍し、様々な催しが活発ですが、まちのサイズ感、歴史や文化の背景、町人自治の風土も大きな要素だと思います。
それを象徴する一つに『鳴く虫と郷町』があります。
2006年に始まった『鳴く虫と郷町』は、江戸時代の庶民の秋の楽しみ方である「虫聴き」を現代風にアレンジした企画で、毎年9月に10日間、酒蔵、文化施設、商店街や街路樹に鳴く虫を置き、声を聴いたりイベントを開催し、秋の訪れを楽しむプロジェクトです。
きっかけは、伊丹市の公共文化施設を管理する財団法人の職員(当時/中脇健児氏)が「まち」に出てきていたこと、伊丹に昆虫館(伊丹市昆虫館)があることになりますが、中脇氏が前年(2005年)に『ふだん使いの音楽プロジェクト 伊丹オトラク』を始動させ、まちの人と繋がりを持ったことで、昆虫館の「秋の虫展示」を酒蔵で開催した初年の翌年にまちなかに広げ、市民や事業者との協働へと繋がりました。
ギリギリスを河川敷で取るイベントに参加、虫を置く、イベントを企画実施、里親となりスズムシを育てる、運営メンバーになる等、市民や事業者が様々な形で関わり、主催には市民や事業者との実行委員会も名を連ねます。
メイン会場の酒蔵では多数の鳴く虫が展示され、一歩中へ入ると虫の声の大合唱に酒蔵の雰囲気も相まって江戸時代にタイムスリップ。まちなかでは、「この声はカネタタキ」「マツムシ鳴いている」などの会話が交わされ、『鳴く虫と郷町』ならではの光景が見られます。
メイン会場のリニューアル工事で、昨年と今年は少し変更しての開催ですが、世の中が落ち着かないときも虫は変わらず鳴いています。私も市民、事業者として運営に関わっていますが、できることをできる形で続けていきたいと思っています。
鹿嶋孝子
兵庫県伊丹市。フリーランスでWebや印刷物の制作、イベント企画等を行う。『ふだん使いの音楽プロジェクト 伊丹オトラク』『鳴く虫と郷町』『猪名野神社の市』他に携わる。ローカルメディア『ITAMI ECHO』始動に伴い法人設立。

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