プロット道具セピア

では物語ってみよう(5.提出用プロット)

 ネタ帳、自分用プロットに引き続き、いよいよ提出用プロットの書き方です。さあ、やっとワープロソフトの出番。

 便宜上、提出用プロットとしていますが、この場合誰に提出するのかというと出版社の編集さんに出すわけですね。ならばアマチュアの方はここから先は作らなくていいのか……うーん、いいと言えばいいです。自分用プロットまで作れば、書けてしまう人もいらっしゃると思います。とくにあまり長くない物語(原稿用紙換算で100枚だとか)の場合だったら、前回までのプロットで着手してしまっていいんじゃないかな。
 ただ、ある程度長い物語を書きたい場合、あるいは骨組みをきっちり決めてから原稿執筆に入りたいという人は、ここから先の作業もしておくことをオススメします。そのぶん時間がかかるわけですが、頭の中の物語の構図が明確になるので、書き始めた後の迷いが少なくてすむはずです。

 まあ、とりあえず、私の提出用プロットを公開いたします。前回と同じ『カブキブ!』二巻の現物です。まず1枚目はキャラクター表になってます。


 

 画像なのでちょっと読みにくいかな。ごめんなさい。これはもうシンプルに登場人物の説明をしているだけです。私の場合はシリーズものでも、毎回こうしたキャラクター説明はつけています。自分でも微妙に忘れてるところとかあるので(笑) ……あっ、漢字の間違いを見つけてしまった……見逃して下さい……。ここは読んでいただければわかると思うので、2枚目と3枚目に行きます。あらすじの説明になります。




 全部貼ると長いのでここまでにしておこう。
 まず、私はこの段階で章立てをしてしまいます。『カブキブ!』では序幕、二幕、という言い方を使っています。歌舞伎では序幕というのは一幕目のことになりますので、次が二幕になるのですね。他の作品だと普通に数字を置くことが多いです。1章あたりの長さがどれくらい必要なのかは、作家さんによっていろいろです。わりと短めに区切っていく人もいるし、あまり区切らない人もいる。章立てをしないという人もいると思います。絶対に必要なわけではありませんが、私はあったほうが書きやすいです。だいたい、1章が30ページくらいかな。長いと50ページになる場合もあります。とくに均等にする必要はないので、クライマックスシーンが入る章は長くなるのが自然だと思います。

 さらにプロットで視点も決めます。その章が誰の視点でどのように語られるか、ということです。例えば除幕はトンボの視点で語られています。ここは三人称です。「トンボは~した。クロがやってきて、トンボに~と言った」という形の文章。トンボの視点で見た光景を、客観的に記述していく形です。
 これに対して、2幕ではクロの一人称になってます。クロというキャラクターが「俺は来栖黒悟、高校二年生!」というふうに語る形式です。「オッス、オラ悟空!」形式、とも言う。私だけかもしれないけど。一人称はキャラクターが直接読者に語りかける形になるので親近感があり、読みやすいとされています。ただ地の文がキャラクターの性格にすべて引っ張られていくので、子供っぽいキャラクターだったら子供っぽい地の文になり、理屈っぽいキャラクターだったら理屈っぽい地の文になる、という制約を受けます。

『カブキブ!』は基本的にクロの一人称で話の大筋が進み、間にその他のキャラクターの三人称が入ってくるという構成になっています。すべてをクロの一人称にしないのは、単調になってしまうというのもありますが、それ以上にクロのいない場面を書けないからです。クロがいない場所でクロが語るのは無理なので(笑)。クロはこの作品の主人公ですが、キャラクターが多く出てくる群像劇ですと、主人公のいない場面というのもままあります。そういう時には誰かしらの三人称になるわけです。また主人公であるところのクロを、他のキャラクターがどう思っているか……というのもクロ自身が語るより他のキャラクターの視点で語られた方が自然です。私は視点のバランスを考えながらプロットを構成するようにしています。視点が変わりすぎると読者さんが混乱するので、同じ章の中では変わらないほうがいいと思います。

 ……もしかして、人称と視点はまた別のところで改めて語った方がいいのだろうか……。ある程度小説を書いている人ならすでに理解していると思うのですが、書き始めの人はいまいちはっきりわからないかな? 実は私も昔は明確にはわかってなかったのです。魚住くんシリーズの前半は、結構視点が飛んでいたりする(笑) 別途に説明が必要だったらちょっと考えてみます。その辺のリクエストをよかったらコメントに書いてください。

 さて。視点が決まったらその章の中でなにが起きるかを書いていきます。まさしくあらすじ(粗筋)を書くわけですね。私は割とあっさりめに書きますが、ここである程度詳しく書いても OK です。プロットの分量は人それぞれで、プロでもすごく長くて30ページになる人、ぺらりと1枚の人、といろいろです。自分が執筆に入りやすいプロットならば、問題ないのです。

 プロットの中に、セリフを書いてしまう場合もあります。そのほうがわかりやすい場合はどんどん書いてしまいましょう。必要ならば、会話を書いても構いません。会話でキャラの関係性を現すこともできます。

 私の場合、1冊は8章くらいで成り立つことが多いです。ひとつの章に必ずひとつのエピソード、つまりなにがしかの事件が起きるわけですから、1冊の中に8エピソードが入ってくる計算になります。もちろん小さいエピソードも含めてです。さらに、一冊の中には必ず山場、クライマックスが必要です。『カブキブ!』二巻の場合、山場を二カ所作りました。最初の山場が三幕の最後の段落、つまり『外郎売』の勝負のところです。そしてもうひとつの山場が、ここにはないのですが、物語後半に設けられています。

 補足として書いておきたいことは、本文中に入れ込んでもいいですし、ここではフセンを貼ったような形にレイアウトしています。画像の黄色い部分ですね。キャラの心情変化など、とくに重要な部分を書くこともあります。ここは自分のためというより、編集さんのために書いています。編集さんをプロット受け取ると、それを編集会議に持って行きます。編集会議で、このプロットが通るかどうか……つまり、正式な依頼になるかが決定されます。会議がないにしろ、担当さんは編集長・上司にプロットを見せて相談するでしょう。中には担当編集者に一任されるケースもあるでしょうが、いずれにしてもプロットというのは、プレゼン資料のような面があることを、私は意識して書くようにしています。

 ちなみにプロットは一太郎で作って、 PDF 化して送っています。他者に読んでもらうものなので、レイアウトもある程度整えます。ここにキャラクターの相関図などを添える場合もありますが、それは事件ものなどのとき。妖琦庵シリーズだと、添付資料が多くなります。

『カブキブ!』を実際お読みになった方は気づかれたかもしれませんが、実際の本は、すべてプロットどおりになっているわけではありません。原稿を書きながら、必要に応じて、エピソードを削ったり、つけ足したり、順番を変えたりしていきます。すべては臨機応変です。ただ、大きな流れが変わることは、私の場合はほぼありません。
 もし、原稿執筆に入ってから「むぅ……このプロットはなんか違う……」と思ってしまった場合は、プロット作り直して再提出します。めったにないことですが、先月発売された BL 小説『threesome』はそうなりました。おかげで約十日ほど時間をロスしましたが、違うと思ったまま書き続けることはできないので、これはもう仕方ないです。仕切り直しが必要な時は、思い切ってやったほうがいいと思います。締切は当初の予定からは遅れてしまいましたが、最初からぎりぎりの予定では組んでいないので、さほどご迷惑はおかけしないですんだようです。それでもやっぱり締切は守るのが基本です……最近、遅れがちですみません……。

 さあ、これでプロットの説明がひと通り終わりました。

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