答辞
高校の卒業式で読んだ答辞を発掘した。
高校に対する愛を感じる。我ながら良い答辞だ。
あと半年で大学生活を終えるが、振り返って、高校3年間があってのこの4年間だったなと思う。
答辞
少しずつ、空気が暖かくなってきました。寒く、長かった冬も、今日が別れの春だと意識すると、もう少し「寒い」と言っていたい、などと思ってしまいます。
さて、高校3年間を振り返る、というのが答辞の定石ですから、それに習おうと、今回、私も3年間を想い返しました。
私がこの3年間の最初に立てた目標は「同じ学年の人全員と友達になる」というものでした。入学直後の「高校生活について」という作文に書いた目標です。
私がこの作文を書き上げて、提出したのかどうかは、記憶に定かでありませんが、高校生活を全力で駆け抜けたいと、まじめに悩んでいたことだけは憶えています。
現時点で、この目標は達成されずじまいですが、高校生活を振り返ってみると、同学年だけでなく、先輩後輩、学年を超えて、多くの人と関われた3年間だったなと、改めて感じます。
私が1年生で、学友会会長に就任した時、当時の3年生で、以前、会長を務めていた先輩に「前年度の真似はしちゃいけない。」と言われたことがあります。
「一度成功した方法でも、活動に関わる人が違えば結果も変わるから、ひとのアイデアに頼らず、その、時、状況に合わせて、自分の頭で、新しいことを考えなければうまくいかない。」という意味です。
このことが象徴されるのが行事です。69期はどのクラスも、係や演目を決める際に、積極的に手が挙がる、という雰囲気ではなかったように思いますが、一度誰かが手を挙げると、そこからは早い。周りの学友も、それぞれが自分の才能を惜しみなく発揮するので、誰かが一人で頑張ってしまう、という話はあまり聞きませんでした。たくさんの人が関わり合う行事だからこそ、それぞれが頭を使って行動しなければ、行きたい方向には動けない、ということを学びました。
沖縄への修学旅行では、海でのプログラムや夜のレクリエーションはもちろん楽しみました。ただ、それだけでなく、平和講話での、言葉の1つ1つに耳を傾けていました。その夜、部屋で講話をきっかけにした、私たちの将来と、この先の未来について語り合ったのは忘れられない思い出です。また、東京に帰ってから自分の気持ちを発信している人もいて、その思索の深さに驚きました。
パワフルで激しく、ではなく、それぞれが根底に大きなエネルギーを持っている、これが69期だったのではないでしょうか。それぞれの「自分」が活きる。この学年の持つそんな雰囲気はとても素敵でした。
そんな、修学旅行をはじめとする、学友会活動や学業の環境を整えてくださっていたのが先生方です。
中学を卒業し、入学したばかりのころ、今までに比べ、話す機会がない高校の先生たちを「距離が遠くて冷たい」と感じていたことを覚えています。
1年生の時、記念祭の展示を決め、作り上げていく途中で、クラスの意見が半分に割れてしまったことがあります。このままでは当日に間に合わない、どうするんだ!と喧嘩になりかけたときも、先生方はその場から離れず、けれど、じっと黙っているだけでした。こう話すと、やはり冷たいじゃないか、なんて思われてしまいそうですが、実際のところ、先生は、委員や係のクラスメートと話をし、話し合いがうまくいくよう、陰で働きかけてくださっていました。その後も紆余曲折ありましたが、結果、大成功。私のクラスは学年3位入賞を果たしました。その経験は、その後の記念祭や合唱コンクールにも活かされたように感じます。
体育祭の朝練習や部活の監督のために遅くまで付き合ってくださった先生がいます。わざわざ時間を割いて勉強の相談に乗ってくださった先生は、さらに、たくさんいます。顔を真っ赤にして、本気で叱ってくださった先生がいます。
どんな場面にも先生方はすぐそばにいて、まっすぐ、前にすすめるようにしてくださいました。自由にのびのびと、思い出を私たち自身で作っていけるようにしてくださり、3年間、本当にありがとうございました。
在校生のみなさん。この先の豊多摩の伝統づくりはみなさんにお任せしたいと思います。この学校の70年は深い愛に支えられてきました。私に「豊多摩愛」なるものを、教えてくださったのはOB、OGの先輩方です。部活のコーチングのために、毎週に何日も足を運んでくださったり、豊多摩にたくさんの草花を咲かせ、そして、豊多摩の歴史を教えてくださったり、色々な場面で支えていただきました。
また、この高校に入学を許され、卒業まで、高校生として3年間を過ごせたこと、この学校で思い出を作れたのは保護者の方々の深い愛情があったからこそと、心から感謝しています。
そんなたくさんの「豊多摩愛」に触れてきた私はもうすっかり、豊多摩ラバーです。
I Love Toyotama.
私たちは今日で学校を去りますが、思い残すことはありません。
先ほど在校生のみなさんの表情を見て、また、心のこもった送辞を聞いて、70期、71期のみなさんは、この豊多摩高校を、より一層素晴らしい学びの場にしてくださる、と確信しました。
私たちがたくさんの人に支えられて経験した3年間を、みなさんにも感じてもらえるよう、私たちも卒業生の一員としてみなさんの充実した高校生活を見守りたいと思います。
最後に、私が幼いころから続け、この高校生活にも大きな影響を与えた、ボーイスカウト運動の創始者の言葉を贈りたいと思います。
「自分のカヌーは、自分で漕げ。」
この3年間はカヌーの漕ぎ方を教えてもらう期間だったのではないでしょうか。
卒業したその先は「やりたいことを自分の力で達成していかなければいけない世界」が待っているようです。自分のカヌーを漕いでいくには、自分個人の進む先をまっすぐ見つめ、周囲の水をしっかりと捉えていかなければいけません。
とはいえ!この先何年経とうと、私たちは同じ豊多摩高校の卒業生です。大勢で群れるハトを見れば、銀杏の香りが匂えば、モグラの絵を見れば、入り口までが遠すぎる建物と出会えば、この豊多摩を思い出すことでしょう。いつも心に豊多摩があれば、どうでしょうか、少しは不安や寂しさも和らぐかもしれません。
以上、東京都立豊多摩高等学校69期生、3年間の感謝とこれからの生活への期待を込めて、答辞の言葉とさせていただきます。
平成29年3月11日
69期 学友会会長
卒業生代表
枝迫 雄大