深夜のガチャ食堂
ミニチュアとの出会いは、シルバニアファミリーが最初だったと思う。手のひらに収まるほどの大きさのうさぎやくまの人形に洋服を着せて、彼らが住んでいたり働いていたりする小さな建物の中で繰り広げられる物語を創造する。人形も建物も個別に販売されているので、どれをどう買ってもいいのだけれど、スターターセット的にいうと赤い屋根の大きなおうちは定番中の定番だった。それが特に欲しいというよりは、シルバニアをやるならまずは家がないと、みたいなノリでねだった記憶がある。
むしろ本当に気に入っていたのは、それからずっと後になって買ったパフェやケーキのお店屋さんの建物。ショーケースにケーキを並べたり、ティータイムの様子を再現したり。中でも夢中になったのは、配膳シーンの再現。グラスにパフェを詰めてお盆の上に乗せ、うさぎの人形に持たせるのが至難の業だった。バランス感覚が必要な技なのだった。
そんな幼少期の思い出が蘇るきっかけになったのが、昨今のガチャブーム。ゲームセンターに限らず、駅ナカやショッピングモール、家電量販店などにガチャコーナーがどどんと登場しラインナップもかなり豊富だ。ガチャガチャ専用店舗まで現れ、日本ならでは文化だと外国人観光客がこぞって訪れるスポットとしても話題らしい。
ブラック企業に勤めて仕事に疲弊していた頃、身体がボロボロで心が鈍くなって何も楽しみが見いだせなくなっていた時でさえ、唯一といっていいほど胸を高鳴らせてくれたのがガチャだった。深夜、駅で見かけたガチャを回す。欲しいものが出ると嬉しい。そうでもなかったものが出ても、なんだか少しだけ達成感がある。今にも壊れそうな危うい心を確かに支えてくれていた。
特に好きなのが、楽屋弁当、地元アイス、地元パン、喫茶店、手土産といった食べものシリーズ。本物と横に並べても遜色ないほど精巧再現されているのがウリだ。一回回すのに大抵500円くらいする。昔は300円でも高級ガチャだと思ったものだったけれど、今は100円なんてほぼお見かけしない。立派な大人の趣味の域である。
食べもの×ミニチュアときたら私の大好物。学生時代は食べ歩きが趣味だったが、仕事が忙しくて美味しいものを食べに行く時間もお金もない。仕事が終わる頃にはお店も全部閉まっていて、やり場のない虚しさだけを抱えていた。それでもガチャだけは、仕事の帰り道、仕事の合間、どんなに遅い時間帯でもどんなに時間がなくても、いつでもさくっと回せて、カプセルをひらけば驚きや楽しみがあった。ずらっと並ぶカプセルマシーンを前にして、今日はアイスか、それとも弁当か、ご当地グルメもいいな、なんて選んでいる時間は、食券の券売機の前でどれを食べようか選んでいるような感覚で、あの頃の私にとってはさながら深夜まで空いている食堂のような存在であった。真っ暗な交差点の角で煌々と光を放って私を待っていてくれた深夜のガチャコーナーの温かい光を、私は忘れないだろう。
仕事を変え、深夜のガチャコーナーに行くことはもうなくなった。でも私は変わらずガチャの新作はチェックしているし、道端でガチャコーナーを通りがかれば必ずのぞいてしまう。そこにはトキメキがあることを知っているから。食べもののミニチュアはこうしている今も進化を続けている。そろそろガチャ専用のコレクションケースを用意したいなと思っているところだ。これからも私のガチャ活は続く。