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ケサランパサラン

サクラのイメージがもう消えてしまった季節、白い綿毛が宙を漂うのを幼稚園の廊下で見かけた。ほかの園児たちが皆それを見て「ケサランパサランだ」とはしゃいでいたが、それはかつてぼくが彼らに教えたことで、ぼく自身はもうその正体が野薊という植物の綿毛であることを知っていた。

年長組のぼくたちは、年少組の子たちの手をつないで、幼稚園から道路をこえてバス乗り場に行く。道路は車が通って危ないので、先生がいつも「さあ、お兄さんたちが年少組のみんなの手をつないで」と言う。ぼくたちは何人かいる年少組の子うちから適当に手をつなぐ。適当といったけれど誰と手をつなぐのかは重要なことだ。ぼくたちの中には年少組の子たちに対して人気ランキングのようなものがあった。いつも鼻くそをほじっているあの子がランキング最下位だった。ぼくはその子の名前を知らない。今日はケサランパサラン騒ぎに乗じてぼくは一番人気のさとうたいき君の手をひくことになった。

ぼくは同じマンションに住むこう君とゆう君といつも遊んでいた。いつもこう君が遊びを考えて、マンションの下でかけっこしたり、キャッチボールしたりした。
さとうたいき君はいつもこう君が手をつないでいた。そしてだいたいぼくとゆう君のどちらかが二番人気のさいとうたいき君の手をひく。ぼくは彼が二番人気なのは名前が一番人気のさとうたいき君に似ているからだと思っている。

さとうたいき君のお祖父ちゃんはこの街の市長さん。おかあさんたちがうわさしているのを聞いたから知っている。ぼくは今、さとうたいき君の手を引いて道路を渡っている。そのことが少しだけ誇らしいと思っている。こういう気分になったのは皆にケサランパサランを教えてあげたとき以来だと思う。だから今日ぼくはこれからバスの中でこう君とゆう君にケサランパサランが野薊という植物の綿毛なんだよって教えてあげようと思っている。

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