ゲキバカとわたし。
ゲキバカが終わりました。
桜の開花宣言がありました。
3月も終わるので
そろそろちゃんとゲキバカとわたしを振り返ってわたしのゲキバカ大千穐楽をおしまいにしようと思います。
2006年春、上京。
わたしは東京に上京することだけ決めていました。
事務所は決まったけれど
することは何にも決まってませんでした。
家探しに上京していたとき
わたしの師匠から聞きました。
師匠と柿ノ木さんはお友達でした。
「6月に劇団コーヒー牛乳が舞台をやるらしい。カッキーの連絡先を教えてあげるからお前直接交渉してみろ、出してくださいって頼んでみろ。」
そこで
ろくにお話もしたことのなかったカッキーさんを新宿アルタ前に呼び出し
さしのみをしながら
来月東京に出てくるので、6月の舞台に出してください。と直訴しました。
それがわたしの上京初舞台
劇団コーヒー牛乳「マイト」です。
舞台はとある中学校。主人公は教師の坂本金八先生。
実は他の星の王子様で、宇宙人たちが金八先生を迎えに来る
というお話です。なんじゃそりゃ。
わたしの役はおさげ髪に眼鏡の転校生。
クラスの男子を敵視しマサチューセッツ工科大学入学を夢見る中学生の役でした。
このとき共演したのがまだ大学生で初舞台だったシンバこと吉田真由美氏。
彼女は今やバンクーバーを拠点に大活躍の俳優であり監督。今も海外作品やオーディションのことなど、何かあるたびに相談に乗ってもらったりします。
この公演が終わったあと
わたしはぽっかりしすぎて後にも先にもこのとき一度だけ、生まれて初めて夜眠れなくなるという経験をします。
病院でサフランを処方してもらいました。
不眠にサフランが効くんだねえ。
先生に「煎じて余ったらサフランライスにするといいよ」って言われた。
2007年「0号」
わたしは生まれて初めてヒロイン、というお役をいただきました。
初演を含めて「千代子さん」をわたしは3回、演じることになります。
一族の長、ラスボス、女剣士。それまで強さを全面に出す役がほとんどだったわたしにとって
ただただ純粋で馬鹿正直な千代子さん。それはそれは歯痒く小恥ずかしい気持ちがあったのですが
カッキーさんに「三枝はそういう人間だしそこが見たい」と言っていただけて
え。そうなの?わたしってそうだったの??って
自分が知らない自分の面をたくさん気付かせてもらいました。
カッキーさんはいつも「え、わたしがこの役やっていいの?」というような他ではきっと配役されないようなお役をわたしにさせてくれました。
それからザンヨウコ氏という素晴らしい俳優さんと出会えたのもこの作品。
魅力的でさらに面白くてそんなこと両立する女性がいるんだって衝撃でした。
2008年「0号」再演。
自分の持っている、自分ではあまり出したくないところを昔より素直に出せるようになったのがこの再演0号。
2011年「ローヤの休日」女囚版。
ゲキバカの作品でも最も大好きな作品のひとつ。
今人振り付けのこの作品のオープニングシーン、繰り返されるパフォーマンスシーンが大好きなんです。
心を掴まれるってこういうことなんだなあ。
ゲキバカメンバー中心の男囚版と女性ばかりの女囚版。わたしは監獄の署長の役でした。
衣装の杏里ちゃんに、舞台上に出るたびに衣装を全て変えたいとわがままを言い、衣装はもちろんヘアスタイルも全て変えるという露出狂のわがまま署長をやらせていただきました。
そして忘れもしません本番直前に起こったのが東日本大震災。
地震が起きたときわたしは稽古前に衣装を探しに行った渋谷109の地下にいました。あわてて上がった渋谷の街中は地面が波打っていました。
中止も余儀なくされたのですがカッキーさんが震災対応真っ最中だったお姉さまに言われた一言が「やりなさいよ」だったそうです。おかげで無事、やり遂げることができました。
生まれてはじめて、真剣に避難訓練をしました。
そしてなにより、そのタイミングにも関わらずお客様がたくさん足を運んでくださったこと。ありがたい言葉をたくさんかけてくださったこと。忘れません。
2012年「シェイク!!」
ロミオとジュリエットを上演予定で
なぜか出来上がった舞台セットは「墓標」ではなく「土俵」だった。
じゃあ仕方ないから土俵でやってしまえ。という作品。
新人スタッフに弄ばれるベテラン大女優(そして芝居は超下手くそ)という最高な役でした。いつかチャンスがあるのなら、もう一度チャレンジしてみたい役です。舞台上でしょうしょうこと藤松祥子氏演じる新人さんにネタを無茶振りされてベテラン大女優は素直に応じるわけなのですが、ていうかその設定もどういうことだしそのネタって当時の照明スタッフさんの持ちネタで、それを舞台上で、持ちネタの主でもないわたしがやるって今思えばカッキーさんはまじ何考えてるのかわかんない。笑
嬉しかったことは、ホリプロスカウトキャラバンの井森美幸さんをイメージしたダンスが採用されたことです。
この作品でわたしは生まれて初めて舞台俳優の女子のお友達ができます。まっつんこと松葉祥子氏。
本番後のアドレナリンが収まらずまっすぐ帰れないわたしに付き合って、劇場近くのモスバーガーでお茶をしてくれました。
2014年「0号」
3回目の0号。
わたしの人生が終わるとき、きっと思い出す作品です。
実はオファーをいただいたときとてもとても迷いました。声かけてくださったのは本当に嬉しく光栄なことだけれど、わたしはもう千代子さんの年齢ではなかったですし、わたしが演じたいと言う気持ちとお客様がその姿を観て納得してくださるかは全く別問題だと思ったからです。
それでもゲキバカが快く受け入れてくれたことはとても勇気が湧いたし、そしてわたしの俳優人生で最も大切な作品のひとつになりました。
この作品でわたしは田中良子氏という人生のお友達ができます。良子さんはいつもコンビニのゆでたまごの上に鏡を置いてメイクをしていました。きっと周囲は演劇モンスター田中良子というイメージなのだと思うのですが、わたしからすると稽古中以外は今まで会ったことないタイプの不可思議人間で見るたびに興味が湧き続け、本番が終わったらお茶してください、とナンパをしました。
そして
東京公演の千秋楽直前、おばあちゃんが天国に行きました。
わたしの演じた千代子さんはおばあちゃんと同じ時代を生きた人です。
おばあちゃんと千代子さんがどうしても重なってしまって
お芝居というのはそもそも嘘の世界なのに
おばあちゃんの人生、と重ねるほど
嘘をつくこと、つかないこと
俳優としてその世界に誠実に生き抜くこと
みたいなものがぐわあとわたしの中に刺さって刺さって
なんでしょう
俳優って
えげつない職業だなあと
思い知らされた作品です。
2016年「ごんべい」
いろんな俳優さんが演じてきた九尾狐という役を良子さんとダブルキャストというとんでもない作品でした。
昔、初めて観た九尾狐は小さな身体から雷みたいなエネルギーを放出していました。
猛者ばかりのゲキバカメンバーに加えてわたしのふたりの息子金之助と銀之助はきっしゃんこと岸本武亨君と後にゲキバカに入団する和也君。パワフルで素晴らしい二人の俳優のあとを必死で食らいついて行った思い出。ふたりはいつもわたしをからかって遊んでくれました。笑
千秋楽は大阪で、打ち上げの翌日朝から東京で仕事だったわたしは息子たちと離れがたく一人でめそめそしていたことを覚えています。
このとき五代目を演じていた大力さんに言われた一言はずっと覚えていて今回九尾狐を演じるとき大事に大事にしていました。
そして大阪公演に向かう前にアメ横で新調した1,000円のサングラスは今も愛用しています。
2021年「ローヤの休日」
出演しないのに作品ビジュアルに参加させてもらいました。
金髪ロングヘアバージョンも撮ったのですがどうみても某俺か俺じゃないかの方にしか見えなかったんだよなあ。
本番も観に行けてやっぱりローヤの休日は大好きだなあと思いました。
2024年「ごんべい」
ひさしぶりのゲキバカは解散ロード最終幕の大千穐楽。
参加できたのはほんとうにほんとうに光栄なことです。
稽古中にわたしはきっと、ゲキバカに永遠に片想いしていていつかみんなと対等にお芝居できる俳優になりたいって思ってたんだなあと気付きました。
千穐楽が終わり、大入袋をいただく時間にハルニ君がさりげなく「きっと両思いですよ」って言ってくれたのはまじ忘れねえからなありがとう。
8年前よりお芝居がまた別の感覚で好きになれていて楽しさもしんどさも面白さも全部ひっくるめて楽しめる気持ちがあってそれを体感できて嬉しかった。
そしてやっぱりゲキバカメンバーは素晴らしい俳優さんの大集合だなあ最高だなあって毎日感動していました。
そしてとにかくなにより
いまだ舞台の世界がコロナやインフルエンザに振り回されている中で誰ひとり欠けることなく、千秋楽まで駆け抜けることができたのは本当に最高で
しあわせなことで
ゲキバカがこれまで頑張ってきたことをきちんと観てもらえて
それが本当に最高。
結局ゲキバカメンバーひとりひとりについてほぼ何も書いてないねえ。
伝えたいことはたくさんあるけど
恥ずかしいからXのALTに全部書いといた。https://twitter.com/eda13a
今までたくさんたくさんお世話になりました。
元ゲキバカメンバー全員に幸あれ。
グッドラック。
カッキーさんはいつも笑いながら、三枝は本当に不器用だなあと言います。
わたしも自分で本当にそう思います。
そう思うことを素直に受け入れられるようになったのも、そんな自分もちゃんと好きでいられるのもカッキーさんのおかげですし、ゲキバカのみんなとお芝居ができたおかげです。
だからわたしはこれからも頑張って俳優をしていきます。
ありがとう。
ラブ。
わたしとゲキバカ
おしまい。
2024年3月31日。
三枝奈都紀