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イークラウド編集部が解説する「空飛ぶクルマ」の現状と課題 〜なぜ“クルマ”なのにタイヤがないのか〜

こんにちは、イークラウド編集部の山本です。今回、HIEN Aero Technologiesがイークラウドで実施しているクラウドファンディングの募集ページ制作を担当しました。

おそらく一般の方と変わらないレベルの知識量から制作を開始しましたので、「もともと持っていた疑問」や「制作を進める中で気づいたこと」について、今回はご紹介できればと思います。

主な疑問と気づきとして、ポイントは3つあります。

  1. 空飛ぶクルマの現在地はどうなっているのか

  2. なぜ「空飛ぶクルマ」にはタイヤがないのか

  3. ヘリコプターでいいのでは…?

それぞれ詳しく解説していきます。

1. 空飛ぶクルマの現在地はどうなっているのか

新しい技術に関するニュースというのは、派手なデモンストレーションによって過剰な期待値を生み、人々のイメージが本来の「現在地」から大きく乖離しがちです。

例えば車の自動運転では、2021年にホンダから世界初となるレベル3の自動運転技術を搭載した「レジェンド」が発売されたとき、「アメリカや中国が最先端だと思っていたのに、いつの間に!?」と思った方がいるかもしれません。

ホンダが技術的に優れているのは間違いないのですが、Waymo(Googleの自動運転車開発部門が分社化)や百度(Baidu)は無人タクシーを実用化するだけの技術を持っており、「市販か商用か」「どの段階でプロダクトを出すか」といった開発方針やマーケティング戦略の差で見え方が変わってきます。

一つのニュースだけで評価してしまうと、「現在地」を見誤ってしまう可能性があるということです。同じことが「空飛ぶクルマ」にもいえます。

2021年、アメリカのジョビー・アビエーション(Joby Aviation)とアーチャー・アヴィエーション(Archer Aviation)、ドイツのリリウム(Lilium)が上場しました(いずれもSPAC上場)。

当時のニュースを見てみると、ジョビーは「2024年から米国の複数の都市で、空中ライドシェアサービスを開始する計画」、アーチャーも「2024年にエアタクシーサービスを開始する予定」、リリウムも「2024年に商業運航を開始する予定」と書かれています。

計画どおり2024年中は難しそうですが、2025年には実験的でも商業運航を始めるメーカーが現れそうな気配ではあります。

折しも国内ではスカイドライブ(SkyDrive)が大阪・関西万博での商用飛行を断念したというニュースが流れましたが、ANAとの共同参画を予定しているジョビーも商用飛行を行うかは現時点で明確にしていません。

どれだけ目を引くデモ飛行で先行しているように見えても「実機ができ、実際に飛び、人を乗せ、法規制をクリアし、限定的に運航し、安全性が確認される」という積み重ねがあってこその実用化です。

ちなみに、サンフランシスコで無人タクシーを運行していたGM傘下のクルーズ(Cruise)は人身事故を起こし、運行許可を取り消されてしまいました。

飛行機が事故を起こしたとなれば、心理的な面も含めて車の事故とは比較にならない結果や影響が予想されます。カッコいい機体を飛ばせばいいという単純な話ではなく、開発段階から安全性を前提とした慎重な姿勢が求められるのが空飛ぶクルマの実情です。

2. なぜ「空飛ぶクルマ」にはタイヤがないのか

ところで、先ほどから何度も「空飛ぶクルマ」という単語を使っていますが、「空飛ぶクルマ」のニュースを見るたびに「クルマなのに(走行用の)タイヤがない。走らないのになんでクルマ…?」と思ったことがある方はいるのではないでしょうか。

私もその一人でした。経済産業省は以下のように説明しています。

“空飛ぶクルマ”とは、「電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」である(※)。諸外国では、Advanced Air Mobility(AAM)や Urban Air Mobility(UAM)と呼ばれている。

※日常的な移動手段として利用するイメージで「クルマ」と称しているが、航空法上の航空機に該当し、必ずしも道路を走行する機能を有している訳ではない。なお、空飛ぶクルマに無人航空機であるドローンは含まれない。

経済産業省「空飛ぶクルマの運用概念

たかが名称、されど名称。航空機の話をしようとしているのに相手の頭の中では車がイメージされていたら、話がかみ合わないのは当然です。

この問題を理解している人は「空飛ぶクルマ」ではなく「eVTOL」(イーブイトール:電動垂直離着陸機)という言葉を使うのですが、いかんせん認知度が低く、一般向けには「空飛ぶクルマ」を使わざるをえないというジレンマが発生しています。

展示会では「次世代エアモビリティ」と呼ばれることもあって個人的には違和感ないのですが、ここも経済産業省は「次世代空モビリティ」を使用しており、混乱は深まるばかりです。

国を挙げて推進していかなければいけない分野ですが、現状は海外勢が先行しています。国内の盛り上がりをつくり、政策面・資金面で強力に後押ししていくためには、旗印となる言葉の統一が喫緊の課題なのではないかと感じています。

3. ヘリコプターでいいのでは…?

そもそも論的な話をしてしまうのですが、なぜヘリコプターという確立されたモビリティが存在しているのに、その進化系ではなく新たな“次世代エアモビリティ”の開発が進められているのでしょうか。

ヘリコプターではなくeVTOL(空飛ぶクルマ)が必要とされた理由として、主に以下の3点が挙げられます。

  1. 低コスト化:機体の製造コストと保守費用の削減

  2. 操縦システムの簡略化:モーターの回転数制御による操縦の簡易化

  3. 低騒音:都市部での運用を可能にする静音性の実現

例えば、「マンハッタンからJFK空港までの5分程度のフライトを高価なヘリコプターの代わりにeVTOLで提供する」といった使われ方が想定されています。

ただし、eVTOLも課題を抱えています。特に「バッテリーが重くて航続距離が短くなってしまう」という問題は、HIEN社の御法川CEOその人がヘリコプターの電動化でも直面した課題です。

ジョビー、アーチャー、リリウムなどの主要企業が公表する航続距離はカタログスペックであり、実際の商用飛行では10分程度が限界と考えられています。これはバッテリー性能の限界によるものであり、各社の努力だけでは解決が難しい問題です。

この状況を踏まえ、各社は異なるアプローチを模索しています。例えば、ジョビーは燃料電池を搭載したeVTOLの開発を進めており、トヨタの水素技術が活用されていると推測されます。また、ホンダはHIEN社と同様にガスタービンハイブリッドeVTOLを開発しています。

このように、ハイブリッドシステムの導入はeVTOLの可能性を広げる取り組みですが、ヘリコプターの全ての用途を置き換えることを目指しているわけではありません。

ヘリコプターは「過剰性能」「高コスト」「運用の複雑さ」という課題があり、都市交通としての爆発的普及は難しいと考えられています。eVTOLは、これらの課題を解決し、都市における空の移動手段として新たな可能性を切り開こうとしているのです。

最後に

今後、空飛ぶクルマが実用化され、世界中の空を飛び回るようになることは間違いないでしょう。しかし、それが5年後なのか、10年後なのかはまだまだわかりませんが、HIEN社がその解を探そうとしていることには注目しています。

商用飛行は来年には始まりそうですが、過疎地や海上を飛ぶような制限の多い環境で、10分弱の遊覧要素の強いものになるのではないでしょうか。

本格的な実用化にはクリアしなければならない課題が山積みですが、資金を集め、人材を集めたからといって簡単に突破できるものではありません。組織が大きくなればなるほど動きは鈍くなり、運営コストがかさんで急速に資金を圧迫していきます。

その点で、精鋭メンバーで着実に実績を出していこうとするHIEN社の姿勢、そして最初からガスタービンハイブリッドという最適解に挑む開発方針に納得感がありました。

個人的には、大学発ベンチャーを推したいという想いがありますし、国産航空機が世界の空を飛んでほしいという想いもあります。そういった想いを乗せて、HIEN社に飛び立ってほしいと思って募集ページを制作したのでした。

プロダクトや独自性、市場の話など詳しく解説していますので、まだご覧になっていない方はぜひご一読ください。

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