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大きな課題に挑戦する覚悟はあるか。成功因子は根拠のない自信と巻き込み力。ANOBAKA 萩谷聡|投資家の素顔 #05

スタートアップ起業家の誰もが通る、資金調達。
起業家には個性的な方が多いですが、ベンチャーキャピタリストもまた、いろいろな経験を経ており、その知見や個性を生かして起業家を支援している方が多数いらっしゃいます。

この記事では、ベンチャーキャピタリスト個人に着目して素顔を明らかにしていきます。パートナー選びに困っている全ての起業家が、この記事を通して会いたいと感じるキャピタリストを見つける一助になれば幸いです。

第五回は、ANOBAKA萩谷さんにお話を伺います。萩谷さんならではの投資家としての在り方や起業家との向き合い方を伺うことができました。

◆萩谷 聡
2013年3月東北大学大学院理学研究科修了。在学中は自身でWebサービスを立ち上げ、運営。2013年KLab株式会社に入社後はゲーム事業部にてモバイルゲームの運用、新規ネイティブゲームの立ち上げに企画として従事。2015年4月よりKLab Ventures株式会社に参画し、複数の投資先ベンチャーの支援を実施。2015年10月に株式会社KVPに参画し、30社以上の投資実行、支援を実施。2020年ANOBAKAに社名変更、同社パートナー。

理系大学院在学中にWebサービスの立ち上げを経験、ITに可能性と魅力を感じた

波多江:
学生時代は大学院まで行っていると思いますが、当時は理系キャリアみたいなことも考えてらっしゃったんですか。

萩谷:
理系キャリアももちろん考えていましたが、実は院生くらいのタイミングで事業っぽいことを自分でやっていたんです。カフェとか飲食店とかを紹介するメディアみたいなものを作って、そこから飲食店の従業員採用に繋げていた感じです。飲食店の求人メディアですね。

そこでの経験もあって、メーカーに入って研究開発するよりはITの領域で事業を作っていくほうがやりがいを感じると思ったので、ベンチャーを中心に就職活動しました。

KLabでのモバイルゲーム立ち上げ・運用経験を経て、起業家と伴走して成長できると感じ全く知らないVCの世界へ

波多江:
まず新卒でKLab、そこからKVPだと思いますがその辺りのお話伺ってもよろしいでしょうか?

萩谷:
事業とかビジネスを作れる人間になりたいと思っていたので、僕も学生の時に事業っぽいことをやっていて。KLabが、その当時モバイルゲーム事業で、ユーザーの獲得方法や継続利用してもらう方法を最先端で学べると感じたのと、トラフィックもすごくあったので、ITを学ぶという意味で、すごく良い環境だなと思い入社を決めました。

モバイルゲームの運用から入って、ガチャゲームの新規立ち上げに携わりました。運用も立ち上げも一通りやって、ある程度学んできた実感もあり、モバイルゲーム以外の事業もやっていきたいと思うようになりました。

当時のKLab Venturesというベンチャーキャピタルで代表の長野が人を探しているということで声がかかりました。そのときは正直、ベンチャーキャピタルのことをあまり知りませんでした。知ってたのはジャフコくらいだと思います。

長野からいろいろ説明を受けても、正直めちゃくちゃ不安でした。タイミング的に転職も多少検討していて、他の会社からも内定を頂いていたのもあって。

子会社VCをやるか、他の新しいところで事業立ち上げをやっていくか悩みました。せっかく新卒で入った会社にちゃんと貢献しないで辞めるのは自分としては良くないなという気持ちと、いつか起業したいという気持ち、どちらもありました。

起業家と伴走して成長できるVCという仕事は自分に合いそうだなと思い、まずは半年くらい思い切ってやってみようと始めたのがきっかけです。

『聞く』ー起業家が本当に実現しようとしているビジョン、原石を見落とさないために

波多江:
2015年に投資家のキャリアをスタートされて、50社以上の投資を担当されてきたと思いますが、起業家の方との向き合い方で大事にしていることはありますか?

萩谷:
やっぱり、『聞く』ということでしょうか。起業家が本当は何をしたいのか、ビジョンや、実現のためにどういう行動をするのかをしっかり聞いて、やりたいことを理解する。分からなければ分かるまでとことん質問をする、というのは結構心がけていますね。

そうでないと、起業家が本気でやりたいと思っている、本当に素晴らしいことを見逃してしまう可能性があると思っています。イノベーションの種になるようなことがないか、話の中で探っていくことを意識しています。

投資側としても、起業家がチャレンジしようとする業界をそれくらい理解することによって支援したくなる気持ちも大きくなりますし、気がついたらその課題を自分事に思うようになっていって、最終的に解像度が上がり投資決定するというのが多いですね。

これは、起業家にとっても良いことなんです。何も分からないところに「なんとなく良さそうだから」と投資されるより、ちゃんと業界のことを理解してくれて支援してくれたほうが絶対起業家としても安心感が持てると思うし、日々のコミュニケーションの質も全然違います。

業界のあるべき姿を大きく描き、沢山の関係者を巻き込んでいく力がマスト

波多江:
多くの起業家の方と向き合ってきたと思いますが、特に刺激を受けた起業家の方はいらっしゃいますか?

萩谷:
CBcloudの松本さんは、経営者で一番刺激を受けた存在だったかもしれないです。

◆CBcloud株式会社
配送クラウドソーシング事業を展開。荷物を届けたい人とフリーランスドライバーを繋ぐマッチングプラットフォーム「PickGo」等。

松本さんは同い年で、物流というレガシー産業であれだけの大人を巻き込んで、壁を突破していくというところは本当にすごいなと思っています。

お義父様と一緒に運送会社をやっていらっしゃって、どういう事業をやっていきたいというようなお話もされていたようで。お義父様が他界された後に、企画書が出てきて「これは僕の使命だ」と思ったそうです。

このままだと、ECは伸びているけど物流・運送会社の方が少なくなって、業界構造的に破綻するというのがありました。ドライバーの方が多重構造でなかなかお金が稼げない状況があって、そこに新しいイノベーションを起こさなきゃいけないという使命を持ってらっしゃいました。

そういう、業界のあるべき姿を、できるできないに関係なく、大きく描いているところはやっぱり素晴らしいなと思いました。

同じようなことでいくと、最近ではBuzzreachですね。Buzzreachは、治験業務に十数年携わっていた方で、製薬企業、病院、CROなどの第三者機関と関わるのですが、それが今まではかなりアナログで行われていました。

◆株式会社Buzzreach
製薬企業やアカデミア、医師主導で行われる治験を含む臨床試験・臨床研究の様々な課題を解決する機能が搭載されたSaaS型管理システム「puzz」を提供。

たとえばガンの新薬を試してみたいという人がいるけど、そこに行き着くまでにかなりの時間がかかったり、逆に製薬企業もそういうニーズのある方になかなかリーチできないために、薬の開発が遅れる。そこをITの力で滑らかにしていきたいという思いがあったそうです。

起業家が業界のあるべき姿を語った上で、実際に関係者を巻き込んでいけるかどうかというのが見えたので。業界の人たちを巻き込んでいけるかは一つ大事なポイントだと思っています。特に、産業DXのような領域では巻き込む力はマストだと思います。

業界の解像度が高くていろんな関係者を巻き込んでいける経営者かというところは共通して見ています。

それともう一つ、大きなペインがあるかどうかは結構意識していますね。どこから登るかみたいな切り口というか、お客さんがどれくらい課題に思ってすぐにでも欲しいのか、みたいなところを見つけられているのかを見極めるようにしています。

ネクイノを一緒に担当するジャフコ高原さんに刺激を受けた

波多江:
これまでの投資家人生で、影響を受けたキャピタリストの方はいますか?

萩谷:
キャピタリストだと、ネクイノを一緒に担当させていただいている、ジャフコの高原さんですね。すごく尊敬しています。

◆ジャフコグループ株式会社
日本最大のベンチャーキャピタル。 東証プライム上場。数多くのベンチャー投資及びバイアウト投資を手掛けている。

◆株式会社ネクイノ
ピルのネット診察サービス「スマルナ」の運営。マイナンバーカードと健康保険証をリンクさせるセキュアな個人認証システム「メディコネクト」、学生向け婦人科領域個別オンライン相談事業、医療機関、介護施設等へのコンサルティング事業等を展開。

僕らはシードVCなので、どちらかというとPMFをしっかり目指して、その先のシリーズA・Bに繋いでいくところが、ミッションの一つだと思っています。一方でネクイノはシリーズAだったので、ジャフコさんがリードしてくださっていました。その担当が高原さんでした。

社外取締役に入って取締役会をどう運用していくか、組織をどう作っていくかや、事業のリスクファクターだったりを、経営陣と議論しながら大きな組織を作っていって、事業を拡大させていくところを見ることができました。シード投資家だとそこまでノウハウがない方も多いので、とても刺激になりましたし、勉強になりましたね。

シードのタイミングでも僕とかにもヒアリングにいらして、「あの会社いいよね、どう?」みたいな感じでご興味を持ってくださっていて、シリーズAで実際に投資する前も相当具体的なヒアリングや事業計画を自分たちで作ったり、いろんな想定ケースを作ったりして取り組まれているのは素晴らしいなと思いました。

100社以上の投資先から成るANOBAKAコミュニティでは、シード、シリーズA・B各フェーズのノウハウを得られる

波多江:
ANOBAKAの最近の注力領域とか強みや実績など、アピールしたいところがあればぜひ。

萩谷:
基本的に、IT領域全般に投資しています。トレンドが頻繁に変わるので、敢えてフォーカスしないようにしていますね。本質的に伸び得る領域とそれを実行できる経営者なのか、というのを都度見極めて投資していくスタンスです。

直近で強いて言えば、引き続き産業DXの分野は、この10年大きなトレンドなので投資し続けます。あとD2Cとかサブスクリプションコマース。うち、B向けC向けの投資率が半々くらいなんですよ。

僕たちとしてはC向けでは、D2Cだったり、サブスクリプションコマース、エンタメ領域に注力していて、その領域で成長している投資先も多いことから、ノウハウも活かせるので。あとはWeb3とか、クリプトみたいな領域も結構投資を開始しています。そこの解像度が高い経営者や、関係者を巻き込んでコミュニティーに入っていける経営者には投資していきたいですね。

強みとしては、一つはコミュニティ。投資先は100社以上で、同じくらいのステージの経営者から、シリーズA・Bに進まれている先輩、あるいはIPO直近の経営者とか、そういういろんな投資先が集まっています。コミュニティを上手く活用するための勉強会やイベントは積極的に実施しています。

このような、ANOBAKAから出資を受けることで享受できるというメリットは今後も形作っていきたいと思っています。

また、シリーズA以降の投資家さんなどとのネットワークも結構あるので、相性が良い事業会社さん、VCさん、VCの担当者さんをできるだけ早めに繋いで、アップラウンドに繫げる支援もしています。

大きな夢を自分の言葉で語れる人、それは才能です

波多江:
こういう起業家にはぜひ会いたいと思う人物像はありますか?

萩谷:
日本をより良くしていきたいとか、1兆円企業を作るとか、大きな夢を持っている人と話したいですね。流行りだからやるとかじゃなく、大きな課題に対してみんなで頑張っていこう、みたいな感じで。

シード期から投資も受けてやっていくと大変なので、何年もその事業にコミットし続けるという覚悟が重要だと思います。そういうのをしっかり熱量高くできるのは、それくらい大きなことを、根拠なき自信みたいなものを持ちながら言えるっていうのが、結構才能だと思ってます。

そういう、大きなこと言う人が好きですね。

例えば、Morghtの土井さんとかですかね。とても視座が高いです。

◆株式会社Morght
寝返りを科学し、からだの痛みにアプローチするD2C寝具ブランド「NELL」を展開。

同年代でも頭一つ抜けている感じがします。上の人の話をちゃんと聞いて吸収するけど、ただ聞くだけじゃなくて違うと思ったことは聞かないという感じです。

聞かないスキルも一方で大事だったりします。本質的な物事を考えながら自分の芯はちゃんと持っていて、必要なところは吸収していける人、やっぱり素晴らしいなと思います。頑固ということじゃなくて、自分の中で見えている世界があるからこそ、どちらを選択すべきか判断できるという感じですかね。

実績を作るまでの追加ファイナンスにも。まとまった金額をスピード感持って集められる株式投資型クラウドファンディングに期待

波多江:
株式投資型クラウドファンディング(以下、株式投資型CF)についてですが、これまでの投資先で株式投資型CFを実施されたのは、イークラウドでいうとGame Server Services(以下、GS2)さんですよね。他に株式投資型CFと相性が良い領域とかお考えお伺いしてもよろしいでしょうか?

萩谷:
そうですね。本当にGS2はありがたいというか良かったなと思います。個人投資家が株主になると、ケアとか色々大変なんじゃないかということを考えることもあると思いますが、実際やってみると特に問題ありませんでした。それで、あれくらいまとまった金額をあのスピード感で集められるというのは画期的だなと感じました。

◆Game Server Services株式会社
スマートデバイス向けゲームに最適化したサーバー機能をサービス化し、使用したいコンポーネント単位で契約・利用できる「Game Server Services(GS2)」を提供。イークラウドの株式投資型CFにて、3分で約2,000万、合計約6,400万円を調達。

検証すべきことが色々とあり、少し時間がかかる事業はとても相性が良いと思います。ベンチャーキャピタルが投資している会社でも、実績を作るのに時間がかかることもあり、その際に追加のファイナンスなどで株式投資型CFを活用するのはありだと思います。

あとは、波多江さんを始めとするイークラウドのメンバーの方がちゃんと窓口にいて、定例会議に参加しているというのも安心できます。スタートアップやベンチャーキャピタルの理解もありながら、個人投資家の方々との間に入ってくれる安心感は大きいです。

基本C向けとは相性が良いと思いますが、B向けでも現場の人が使うようなソリューションやサービスだとイメージしやすくて良いのかなと思います。

波多江:
ありがとうございます。
株式投資型CFには資金調達に加えていくつかの特徴的な効果が出てきています。

1つめは、主にC向けサービスで、トラクションの獲得などマーケティング効果があるという点。

2つめは、主にB向けサービスで関係者の巻き込みができる点。事業をより理解してくれる関係者を個人投資家として巻き込むことで、アンバサダーになってもらう効果があります。

3つめは、夢のある技術投資領域。技術を確立して、社会実装をしていく道のりは長いこともありますが、多くの株主が技術を応援すること自体が社会実装の後押しになります。

資金調達の手段でなく戦略的な活用事例が出てくると良い

波多江:
逆に株式投資型CFのここが課題だなと感じるところはありますか?

萩谷:
そうですね。僕は基本的にイークラウドのような株式投資型CFは良いと思っています。強いて言うなら、株主が多すぎてなかなかうまく管理できていなかったり、株主間契約結んでいなくて対応が大変というような印象が残っている投資家が一定まだいるんだと思います。既にアップデートされている部分ではあると思うのですが、理解できていない投資家も一部いるのかなと。

その辺りをもっと払拭できて、より戦略的に株式投資型CFを活用するような事例が増えるとマーケットイメージも相当変わりそうですよね。単純に資金調達手段の一つとして選びましたというよりかは、VCから調達もできるけど戦略的に株式投資型CFでしたという方が増えると良いですね。

波多江:
ありがとうございます。今後、ANOBAKAさんと一緒に戦略的に株式投資型CFを活用する事例を作っていきたいと思っています。

自分のアイデアを箱にしまわず、とにかく色んな人に会ってどんどん話してください!

波多江:
最後に、起業家の方へのメッセージをお願いします!

萩谷:
気軽に、ANOBAKAにどんどん連絡してください。

コロナ禍でなかなかリアルに会う機会が作りにくく、動きにくくなっている方もいると思いますが、逆にこれをチャンスだと思って、オンラインで積極的に面談をしてみてください。

常に窓口は開いているので、いろんな人の話を聞きながら事業アイデアややりたいことを箱にしまわず、どんどん外に出していただけるといいと思います。

併せて、一次情報をしっかり取って行動量を上げていってほしいです。本質的な課題が何なのか、ニーズがどれだけあるのか、どれだけスピーディーに検証できるかがシード期だと何よりも重要です。そこで僕たちが必要であればどんどん使ってくれればいいと思っています。

Meetyなどを使って、気軽に相談してください!

波多江:
どの領域かに限らず、大きな夢を持っている起業家はオンラインオフラインで積極的に会いに行くと良さそうですね!
萩谷さん、ありがとうございました!

◆萩谷さんに相談したい方はMeetyで相談
https://meety.net/matches/kWYpNxUzFLGG

◆株式投資型CFも気になるという方
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