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経済学解説③ 乗数効果~「103万の壁」の議論で国民民主党が主張していることを理解してみよう~


1.はじめに

いつも閲覧ありがとうございます。KIKIYASU経済学を運営している経済学習STADIOです。本回は、乗数効果の話です。その際に、減税政策を例にとってみようと思います。

2024年11月現在、「103万の壁」が議論をよんでいますので、こちらに関連させてみることで、単純モデルながら経済学の意義を感じられるかなと思います。これにより、受験勉強のモチベーションになればと感じています。

関連のさせ方についてですが、7.5兆円の減税がなされたらという話をします。この数字は、「103万の壁」を取り払い、国民民主党が主張している178万円まで基礎控除を引き上げることがもたらす減税分が約7~8兆円らしいので、これの平均を用いたということです。

ただ、どうして7.5兆円なのかという計算根拠が、財務省からマスメディアなどへ、そして国民へという形で示されてはいないと管見の限りはですが捉えております。そのため、国民民主党などはこの数字になるのか疑わしいという趣旨の発言があることも申し上げておきます。

また、次項以降に乗数効果を測る際に置いた数字は、筆者のような財務省外の人間にはデータがありませんので、ざっくりと肌感覚で、この数値で便宜上やってみようという利用をしています。したがいまして、数値自体が何らかの主張ができるわけではありません。

つまり、現実を反映した上での数値ではありませんので、ご了承ください(あくまでも、このような数値例で求めよという問題が、公務員試験・資格試験・大学編入試験で課されたら、このように解くよねという話だと思って読んでもらえたら幸いです)。

2.租税乗数の確認

そもそも乗数効果とは、政府支出・投資・税などの変化によって、どのくらい波及効果が起こって、国民所得(要は実質GDP)を変化させるかということを意味します。

例えば、減税されれば、消費者は可処分所得(いわゆる手取り)を増やすので、その分、消費が伸びます。確かにそれを丸々貯蓄する人もいると思いますが、一国全体の人全員がその行動をすることは現実的ではありませんので、消費が増えていることは、まず間違いありません。

また、そのことが分かれば、企業は投資をして増産体制を築こうとするので、投資も増えていくでしょう。こうして経済の循環によって実質GDPが伸びていくのですが、どのくらい伸びるかを測る算出式が乗数効果の乗数ということになります。

これは、⊿Y(実質GDPの伸びる分)、⊿T(税の変化分)、乗数の関係は、⊿Y=租税乗数×⊿T(式1)となるわけです。

そして、租税乗数については、外国が存在し、税が所得に比例して増えると想定すると、以下となります。

租税乗数;-c÷1-c(1-t)+m(←式2とします)

次の項では、この式にある、文字の説明をしつつ、便宜上の値を入れていきます。

3.限界消費性向、比例税率、限界輸入性向

租税乗数の分母にも、分子にもあったcは限界消費性向といいます。意味は、1単位所得が増えたたときに消費に回している割合を示します。例えばc=0.8になるのは、1単位が1万円だとして、1万円(1単位)増えたら80%にあたる8000円を消費している(2000円を貯蓄している)ときです。

そして、今回、このcについては、0.9という数字を使ってみます。103万円の壁撤廃が恒久減税といっていますので、長期の消費傾向の数字を使ってみようという感じです。このとき、クズネッツという経済学者が、アメリカではありますが、実統計データを分析し、長期的には0.9だと導いています。この点が、公務員試験等でも出題されますので、意識付けの意味合いも入れてc=0.9にしてみます(こんな感じで、強い根拠数字ではない点は、先に述べた通りです。悪しからず)。

次に、比例税率のtです。モデルのように単純な1つの税体系というわけでは日本がないため、当てはめられる直接的な数値もありません。そこで便宜上、Y(実質GDP)とこのtをかけて、tYとすると税収額になる点を考慮し、ここでは、実質GDPに占める租税負担率(2021年度28.9%)を参考に、t=0.29を利用します。

最後に、限界輸入性向mは、1単位所得が上がったときに輸入に回している割合を示します。こちらも直接的な数値はないので、便宜上、mYで輸入額が出るという簡略化した考え方&過去10年度の実質GDPに占める輸入総額の割合が18%くらいという点を用いまして、m=0.18とします。

4.モデルにおける計算結果

では、上の式2にc=0.9、t=0.29、m=0.18を代入して、租税乗数を求めましょう。

-0.9÷1-0.9(1-0.29)+0.18=-0.9÷0.541≒-1.66
このように、租税乗数が約-1.66と出ました。

そして、式1の租税乗数に-1.66と、税の変化分-7.5(兆円)を代入し、⊿Yを出してみましょう。

⊿Y=-1.66×(-7.5)=12.45兆円

ということで、12.45兆円の実質GDP上昇となります。日本において、2023年度の実質GDPが約558.1兆円でしたので、この数値は、約2.2%の経済成長分となります。リーマンショック後やコロナ禍初年度の次の年だから成長したということを除けば、21世紀以降の日本ではこれだけの伸び率は記録していません(もちろん、数値の置き方や上述のとおりですし、他の要因を一切考えていない、あくまでもモデルのお話ですが)。

5.解釈

今回は、所得増えた分の90%くらい消費に回し、輸入品は増えた所得分の18%くらい買っていて、国民所得の30%が税として取られるような国において、7.5兆円の減税をしてみると、他の変化要因がない場合なら、12.45兆円の国民所得増を生むという計算結果が出ました。

そして、日本がこのような国であるならば、12.45兆円の国民所得増がもたらしたことによる税収の伸びが生まれます。加えて、予算の無駄やインフレによる上振れ(上のモデルは、物価一定の世界を想定していますので)も考えれば、財源論で危惧ばかりしなくても良いように思われます。そこを、国民主党は主張しているというわけですね。

実際は、もっと複雑なモデルを組んでどのくらいの効果なのかを検証します。それは、c、t、mのリアルな数値を入れたり、貨幣市場を考察対象に加えたり(これを、IS-LM分析といいます)、物価も変動させたり(AD-AS分析)します。また、経済政策の情報が入ると他も変化する可能性があるので、それを織り込むという研究もあります。

こうした応用のためには、もっとデータを持っていないと分からないといえます。この点、国民民主党は、最新データを見せていただかないと……と主張していましたね。それは、ざっくりモデルから精緻化モデルでの議論が必要との認識だったわけです。

ちなみに、こうして国民民主党の考えが追えるわけですが、別に当方は特定政党に肩入れしているわけではありません。

6.おわりに

いずれにせよ、今回の基本的な計算からは、政策議論を考察できる一端は感じられるかなと思います。例えば、上のケースのc=0.9から0.95へとより消費する世界にすれば、もっと国民所得は伸びます(国民の将来不安をいかに和らげ、旺盛な消費活動をさせるかは大事なわけですね)。

無味乾燥な数字を代入して解くだけと思っていると、試験勉強の経済学がツマラナイと感じてしまうかもしれませんが、こうして少し世の中に接続すると、基礎モデルなので、これだけで現実の実際を全て語れるわけではありませんが、何のために、この基礎をやっているのかは分かるかなと思います。

もちろん、資格試験だろうが、公務員試験だろうが、大学編入試験だろうが、乗数効果は、乗数の算出式を覚えておき、c、t、mなどの値を問題文から読み取り入れて乗数値自体を把握した上で、変化分とかけることで、実質GDP(国民所得)の変化分が求まることをおさえておくことが試験合格への到達点ではあります。したがって、「面白さ不要、奥深さに感じ入る内容もいらない。ただ、覚えるだけだ」と割り切ることも一つの勉強方法ではあります。

他方、この処理の延長に、より精緻化したモデル設定をして、より具体的な政策効果の議論ができるものだと思うと、学習へのモチベーションが高まったり、「精緻化を徐々にしていく積み上げの科目だから、単元の最初からしっかり理解していかなくては」と経済学学習の見通しが得られたりするかなと考え、今回ご紹介しました。

閲覧、ありがとうございました。また、別の記事でお会いしましょう。

〜執筆者紹介〜

経済学習STUDIO
 公務員試験・経済学検定・各種資格試験・大学編入の経済学・経営学系科目の情報発信をします。中の人は、大学や資格予備校で経済学を教えてきたミヤンです。自身も、公務員試験合格経験があります。2024年1月に出版した電子書籍はこちら。また、市販教材で独学で経済学を学んでいる方に、月額で質問し放題サービス(質問交換制)の「KIKIYASU経済学」を行っています。今後も、様々な学習ツールを整備していこうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。


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