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経済学系統の大学編入試験対策②~東北大経済学部の過去問分析~

いつも閲覧ありがとうございます。
経済学習スタジオです。

本回は、経済学を利用した大学編入試験に関するお話のうち、東北大学経済学部の過去問分析をしていきます。

このとき、大学編入受験者の多くが、石川秀樹氏の『速習!ミクロ(マクロ)経済学』や茂木喜久雄氏の『らくらく』シリーズを利用している現実を鑑み、その辺りで対応可能かという視点にも言及します。

今回も、大手予備校で難関国立大学編入に向けて経済学や経営学の指導し、合格へ導いた経験を活かし、お伝えして参ります。

編入試験を検討中の方は、是非一読いただき、参考いただければ幸いです。


早速、過去5年間の東北大学経済学部の過去問について、出題の単元・キーワードが分かる形で整理してみましょう。

1.令和5年度の過去問

令和5年度は、大問1~4の全てを解いていく形式でした。
各大問について、5~6問あります。

・大問1は、異時点間の消費問題でした。2期間という定番ではなく、3期間というところが、公務員試験などの参考書だけで勉強して臨みますと、難しいと感じさせる問題でした。ただ、問われていることを素直に立式することに専心すれば、解くことができる難易度でした。

・大問2は、IS-LMの問題です。こちらは、全て文字で式を扱わなくてはならないため、抽象的かつ計算が面倒に感じますが、それさえクリアすれば標準的な問題と言えます。とはいえ、「貨幣市場の利子率と投資関数の利子率の違い」や「リカード=バローの等価定理」なども問われており、6問の小問を使ってマクロ経済学から広範囲の出題となっています。

・大問3は、国際ミクロの問題です。自由貿易と関税をかけたケースでの余剰分析ができる知識を有していれば、割と素直に解くことができる問題でした。大問4と並び、公務員試験の参考書で学習していても、さほど苦しまずに取り組むことができたでしょう。

・大問4は、寡占市場の問題でした。具体的には、クールノー均衡共謀の計算問題ができれば大丈夫です。なお、こちらも大問2と同様、全て文字で置かれていますので、抽象的な計算をすることになります。ただ、それ以外は、標準的な切り口の問いなので、ミスなく解答したい問題でした。

2.令和4年度の過去問

令和4年度は、大問1~5あります。このうち、大問4以外は、記述問題でした。

・大問1は、国内総生産の定義でした。非常に基礎的な問題と言えます。確実に記述し、得点をすることが合格のために必要となる問題でした。

・大問2は、景気循環(ビジネスサイクル)を説明する経済理論の1つを取り上げて説明する問題です。
・大問3は、外部不経済が「市場の失敗」になる具体例と、政府による課税や補助金が「市場の失敗」を回避できるかの説明を求める問題でした。
・両問とも、1つを取り上げたり、自分で具体例が設定できるため、易しい問題といえるでしょう。

・大問4は、最適消費と課税の問題です。こちらは、数字も具体的に与えられており、取り組みやすい問題でした。小問は4つありました。

・大問5は、アロー型社会厚生関数の定義不可能性定理の説明、不可能性定理の意義や重要性を記述させる問題です。公務員試験対策の教材には載っていない論点であり、学部生中級クラスのミクロ経済学や厚生経済学のトピックスに触れておかなければなりません。

3.令和3年度の過去問

令和3年度は大問が4つで、そのうち、大問1つは1問のみで、後は3~5つの小問集合です。

・大問1は、外部不経済の問題でした。外部不経済の具体例、与えられた式を使った計算問題、死荷重の定義、外部不経済に対する政策などが小問で問われており、計算と記述の双方が求められています。難易度は基礎的なレベルでした。

・大問2は、失業についての問題でした。非労働力人口、自然失業率、循環的失業率などが問われています。用語をしっかり把握していれば、計算も小学生で扱う四則演算レベルですので、点取り問題と言えるでしょう。

・大問3は、ライフサイクル仮説に基づいた計算問題です。具体的な数値が与えられており、ライフサイクル仮説がどういったものなのかまで分かっていれば回答は容易と言えます。こちらは小問形式ではなく1題型でした。

・大問4は、期待効用仮説の問題でした。こちらも、大問3同様に具体的な数値が与えられているため、計算も楽で、知っていれば簡単と思う問題と言えます。ただ、出した値が何を意味するのか(リスクプレミアムなど含めて)を解っていないと足元をすくわれることになります。また、公務員試験系の教材だと出題頻度が高くないことからあまり扱われていないことを考えると、苦戦した受験生が多かったかもしれません。

4.令和2年度の過去問

令和2年度の過去問は、大問4つで、いずれにも小問がついていました。数としては、3~4つです。

・大問1は、生産者理論です。固定費用や可変費用、限界費用などの各費用概念利潤を求める計算供給曲線の導出などができるかが問われました。いずれも、公務員試験系の教材レベルであり、標準的な問題でした。

・大問2は、ゲーム理論です。混合戦略ゲームツリーまで出題されていますので、やや応用的です。公務員試験系の教材だと全問解答するのは厳しいと言えるでしょう。

・大問3は、IS-LM分析の問題です。IS、LM曲線を出し、均衡利子率や均衡GDPを出すといった基本的な計算、租税政策でどのように完全雇用に至れば良いかというやや難易度の高い計算、リカード=バローの定理など経済政策的な知識を記述する問題が出ています。バランスよくマクロ経済学の知識を有しているかを問う標準的な難易度の構成と言えるでしょう。

・大問4は、経済成長論の単元に関わる問題です。まずは、生産関数の性質を説明する記述問題、次にソロー成長会計に基づく計算問題、そして、算出量が2倍となるまでの年数を問う計算問題が出ました。記述は丸暗記していると、どうして収穫一定というのかなどを上手く書けないかもしれませんので、対策が必要となります。残り2つの計算は標準的でした。

5.令和元年度の過去問

令和元年度は、大問が4つです。すべての大問に小問があります。数としては、2~3です。

・大問1は、生産関数についてです。珍しいことですが、令和2年でも同じ観点が問われましたが、収穫一定の意味するところの説明を小問で求められています。他には、「資本の限界生産物が逓減する」の意味することなどが問われました。生産関数で用いられるコブ=ダグラス型効用関数が意味するものが何かを理解できていれば簡単に答えられますが、用語定義をあいまいにして学習をしていると回答に戸惑うことになります。

・大問2は、代替効果、所得効果、上級財、ギッフェン財といった概念が分かっているかを問う記述問題でした。こちらも大問1と同様、用語を正確に理解していることが求められます。

・大問3は、ラムゼイ・ルールに関する論点です。ミクロ経済学で扱う公務員系の教材もありますが、財政学で問われる論点のため省かれている場合もあります。その場合は、解けなかったのかなと思います。聞いている難易度は標準的でした。

・大問4は、マクロ経済学における証明問題です。AD-ASモデル→IS-LMモデル→45度線分析とどんどんモデルを単純化していくという、普段の学習と逆方向という点に戸惑うと思います。その意味で、難問と言えます。

6.対策方法のまとめ

(1)出題傾向対応について

大問としてこの5年間、令和4・5年度を除き、ミクロから大問2つ、マクロから大問2つの構成でした。しかし、令和4年は大問が5つでミクロ③・マクロ②、令和5年度は大問4つに戻りましたが、ミクロ③・マクロ①と変化しています。若干、ミクロ経済学の出題が増えています。

ミクロ経済学では、パレート最適・情報の非対称性・独占辺りは出ていないですが、独占はH28なら出ていますし、油断はできません。ミクロ経済学の出題が重視されている傾向から、あまりヤマをかけない方が良いでしょう。

マクロ経済学は、投資の理論、マンデル=フレミング、マネタリストや合理的期待形成など反ケインズ派のマクロ経済学が出ていません。消費の理論がライフサイクル仮説のようにさらっと出た過去がありますので投資の理論は学習しておいても良いでしょう。一方、国際マクロや反ケインズ派のマクロ経済学は出ていないので、直前期にどうしてもやる時間がなければ捨てて挑むこともできるかもしれません(あくまで、自己責任で判断ください)。

(2)公務員試験レベル超えの準備を

続いて、東北大学の経済学編入において必要な準備は次の3点になるかと思います(もちろん、公務員試験レベルなどで1周学習した上での準備として、です)。

第1に、公務員試験レベルの教材をやや上回る教材も利用しようということです。なぜなら、各年とも大問の1~2つは公務員試験レベルでは苦しいからです。お勧め本を挙げると、ミクロ経済学としては、神戸大学の経済学編入試験で定番となっている芦谷政浩氏の『ミクロ経済学』(有斐閣)です。マクロ経済学は、井上義朗氏の『読む マクロ経済学』(新世社)です。

第2に、公務員試験レベルでも良いので、財政学の「財政に関する理論」と公務員の総合職レベルの問題にも触れておこうということです。前者は、リカード=バローやラムゼールールなどが出ているからです。財政学のおすすめはLECという資格予備校の『過去問 解きまくり 財政学』です(第2編だけやるようにしましょう)。後者も、第1と同様、難問対策です。対策本としては『経済学ゼミナール 上級編』(実務教育出版)が良いでしょう。

第3は、学習時に、用語定義をしっかり把握することにこだわるということです。かなり用語を説明する記述問題が出ていますので、その言葉を「なんとなく」ではなく、きちんと自分の言葉で説明できる力が求められます。

受験をされる方は、是非とも、参考にしてみてください。

〜執筆者紹介〜

経済学習STUDIO
 公務員試験・経済学検定・各種資格試験・大学編入の経済学系科目の情報発信をします。中の人は、大学や資格予備校で経済学を教えてきたミヤンです。2024年1月に出版した電子書籍はこちら。今後も、様々な学習ツールを整備していこうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。



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