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湿度
湿度
ざわざわとした電波を感じて僕が二日酔いの体を半分だけベッドから離すとそこには、暗い部屋の中テレビに向かい画面の光に照らされて、ちんまり正座した裸の彼女がいた。
「……何観てるの」
「“追悼"」
ドラマか映画か何か?と聞くと、画面から一ミリたりとも目を離さずに「違う」と彼女は否定した。
“追悼"は毎日どこかで亡くなった人の死因と生い立ちを一人一人ドキュメンタリーで紹介していくだけのチャンネルだ、そうだ。
「今日は多いから一人一人の尺が短いのよ」
逆光を受けて、白く輝く砂浜のような彼女の背中の輪郭を見ていたら、僕はまた彼女に入りたくなった。
後ろから彼女の首に巻き付くと、彼女は僕の意思を受け取ったようで、すっくと立ち上がり、音もなくそのままこちらに倒れてきた。
僕が彼女に入っている間は、彼女は小さく息を吸ったり吐いたりするだけでとりわけて大きな変化を見せない。暫く僕がそんな作業に没頭していると、彼女がうっすら笑った。
「どうしたの」
「昨日列車に轢かれて死んだ旅人のことを思い出して旅人に成り切っていたの」
と言って彼女は自分の右手を首に当て、横にスライドさせた。「首が吹き飛んでいたらしいわ」
「僕は…今目の前にいるのは、黒い髪と綺麗な顔の確かに存在する一人の女の子だと認識してもいいの」
「結構よ」
僕はなるべく目を閉じないように努めて彼女を見つめた。持ち主から解放された首を演じる彼女の口は、だらしなくぽかんと開いていた。
僕から垂れた汗の雫が彼女の頬に、額に、口の中にも落ちていく。濡れていく、まるで彼女自身が汗をかいたように。
線路の上で、彼女を犯すイメージが浮かび、僕は果てた。
「次はバラバラに切断されてコインロッカーにしまわれた赤ん坊にするわ」
僕はそのまま彼女に倒れるように覆いかぶさって顔を枕に沈めた。くくくくと耳元で彼女は笑った。テレビからはノイズ、砂嵐。そして笑いながら言った。
「どうしたの、あなた肩が震えているわ」
僕は彼女に恋をしているのだ。