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【要点と感想】ジョン・ケネス・ガルブレイス『大暴落1929』(原文:1955, 翻訳:2008)
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【著者のプロフィール】
ジョン・ケネス・ガルブレイス(1908-2006)はカナダ出身の経済学者です。ハーバード大学教授としてアメリカ経済に長く影響を与え、民主党政権の政策アドバイザーも務めました。産業組織論や経済政策に関する多くの著作を残し、その平易かつ洞察力あふれる文章で広く知られました。また、ケインズ経済学の影響を受けながらも、自身の理論を多くの分野に応用した実務家としても評価されています。
以下では、本書の章ごとの要点を説明し、その後に感想を書きます。要点には含まれていない詳細を知りたい方はぜひ本を手に取ってみてください。
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第1章 夢見る投資家
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要点
・1920年代のアメリカは高度な繁栄を謳歌していましたが、その一方で農業が疲弊し、黒人や貧困層、南部やアパラチアなどの地域格差も大きかったため、必ずしも「誰もが裕福」という状態ではありませんでした。
・それでも製造業や金融業は力強く伸び、産業生産指数や自動車生産台数などは記録的な上昇カーブを描きます。企業利益は上がり、株価も割安だったため、投資家が大量に株式を買うようになりました。
・フロリダでは中頃から「土地ブーム」が起こり、安易に価格が高騰しては崩壊する「バブル的」現象が見られました。土地が値上がりしているうちは誰も問題を感じませんでしたが、暴風雨(ハリケーン)でインフラが破壊されると投機熱が急速に冷えていきます。
・株式市場でも「値上がりを当て込んで買えば大儲けできる」という投機意識が強まり、少ない自己資金で株式を買う“信用取引”が横行し始めました。
ポイント
1)20年代アメリカでは景気は好調だったが、実は脆弱な要素を抱えていた。
2)フロリダの不動産バブルは、投機ブームがいかに脆いかを象徴的に示した。
3)株価上昇を安易に信じ、皆が信用取引に走り出すと「もう上がり続ける」という幻想が強まってしまう。
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第2章 当局の立場
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要点
・1920年代の政府は大きく介入を避けるスタンスでした。クーリッジ大統領は株式市場に懐疑を示さず、「経済は健全」だと言い続けます。一方で当時の中央銀行(連邦準備理事会:FRB)も、大胆な金融政策で株式投機に歯止めをかけることを躊躇しました。
・特に公定歩合の引き上げや国債の売りオペによってブームを沈静化させる手段は理屈としてはあったものの、銀行や一般企業まで苦しくする恐れがあり、FRB内も議論が割れます。結局、どの対策も「強硬策には踏み切れず、生ぬるい対応」で終始。
・銀行家たちには「強固な一枚岩」というよりも、それぞれ自社の利益を守る思惑がありました。ナショナル・シティ・バンクのミッチェル会長のように積極的に融資拡大を擁護する人が、事実上政府の警告を骨抜きにしていきます。
●ポイント
1)FRBは「道義的勧告」を出すなど中途半端で、実効性のあるバブル抑制策を講じなかった。
2)政治家や当局は一枚岩ではなく、投機抑制を唱える声もあったが、ブームが盛り上がる中では効果を発揮できなかった。
3)銀行家・ウォール街の有力者は一見協調しているようでも、個別の投機を後押しする行動が多かった。
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第3章 ゴールドマン・サックス登場
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要点
・投資信託(会社型投資信託)が急激に数を増やし、株式市場の加熱に拍車をかけた点が詳しく述べられます。本来は資金を広くプールして分散投資する仕組みが、レバレッジを使うことで大量に自社株を発行し、さらなる買いを誘う「バブルメーカー」になっていた。
・なかでもゴールドマン・サックスは、短期のうちに資金を何倍にも膨らませる連鎖構造を作り上げ、また自社株の買い支えを通じて株価を維持する「自作自演」を行い、市場を大いに煽りました。
・こうした投資信託はレバレッジ効果が一旦うまく回るうちは利益を加速させますが、下落が始まると同じテコの作用で下げ幅が雪だるま式に拡大し、あっという間に大損失を被ります。
●ポイント
1)投資信託は、本来は分散投資を狙う健全な商品であったが、レバレッジの濫用でバブルを加速させた。
2)ゴールドマン・サックス・トレーディングは当時、新時代の金融を体現するようにもてはやされたが、短期間で数百%の拡大という無理筋を推し進めた。
3)「投信が株を買い支えるから下がらない」という期待が裏目に出て、むしろ崩壊時には急激に下落を促進した。
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