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PG&EのCEO、Patricia Poppe対談+解説 (24年8月21日)


【動画】

【概要】
この動画では、PG&EのCEOパトリシア・ポッピー氏が、破綻状態だった同社の再建や気候変動への取り組み、愛を軸にしたリーダーシップによる組織改革、グリッドの最適化と電気自動車活用の可能性などについて詳しく語っています。

【話者のプロフィール】
パトリシア・ポッピーは、アメリカ合衆国の実業家で、PG&E(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)の最高経営責任者。ミシガン州を拠点とするCMSエナジーとコンシューマーズ・エナジーでCEOを務めた後、2021年にPG&Eのトップに就任。パデュー大学で工学を学び、スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得。組織改革やオペレーション改善に長けたエンジニア出身の経営者として知られている。

【動画の結論・要点】(詳細は後述)

  • 破綻状態だったPG&Eの再生には、徹底したオペレーション改善が中心となる。

  • 気候変動がもたらす山火事リスクに対して、電線の地下化などインフラ強化による安全確保が不可欠。

  • リーダーシップにおける「愛」は、安全意識の徹底と従業員の主体性を高める大きな要因となる。

  • 脱炭素とコスト抑制を同時に実現するため、電気自動車やスマートグリッドなどの新技術を活用する必要がある。

  • 投資家との対話を通じた競争意識が、公共事業のビジネスモデルを効率化し得る。

【動画の詳細】
この動画では、ノルウェー政府系ファンドのトップであるニコライ・タンゲン氏が、PG&E(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)の最高経営責任者(CEO)パトリシア・ポッピー氏を招き、同社がかつて破綻に追い込まれた背景や再建の手法、そして気候変動がもたらす山火事リスクへの対策などを掘り下げています。以下では、動画の要点を段落ごとにまとめつつ、専門用語を補足して説明します。

まず、PG&Eはアメリカ合衆国カリフォルニア州北部と中部を中心に、天然ガスと電力を供給している大手公共事業会社です。2019年には度重なる大規模な森林火災が原因で大きな損害賠償を抱え、破綻(法的な倒産状態)に至りました。パトリシア氏は2021年にCEOとして就任し、安全を最優先にしてインフラを強化し、被害を受けた地域への補償と再発防止を急ぐ「Make it right, do it fast(すぐに改善し、すばやく行動する)」という考えを徹底しながら組織改編を進めています。この言葉は、ゼネラルモーターズのCEOであるメアリー・バーラ氏から、さらにその源流として投資家ウォーレン・バフェット氏から伝わったアドバイスだと紹介されています。

パトリシア氏は自らを「エンジニア出身で問題解決を好む人間」と位置づけており、以前在籍していた自動車業界で学んだリーン生産方式(トヨタ生産方式をベースにした無駄排除と現場力向上のオペレーション手法)を、電力事業でも大規模に活用できると考えています。具体的には、「問題を見える化し、標準的な作業手順を決めた上で、従業員一人ひとりが自発的に改善を提案・実行する」という流れを重要視し、社員を全面的に巻き込む手法を採用しています。

CEOとして最初に取り組んだことの一つが、現場作業員を擁する労働組合のメンバーとの直接対話でした。これは、会社の組織運営において「トップダウン」だけではなく「ボトムアップ」の仕組みを重視する姿勢を象徴的に示しています。また、実際に被害の大きかったパラダイス(Paradise)という地域を訪れ、山火事跡の惨状を目にすることで、「被害者への補償・生活再建を急ぎ、安全対策に全力を注ぐ」決意を再確認したと語っています。

さらに、独自の経営哲学として「リード・ウィズ・ラブ(愛をもって導く)」を掲げています。これは、単に感情的なモチベーションを高めるためのスローガンではなく、実際の安全対策で必要な「作業を止める勇気」や「困っている社員を助け合う文化」、そして「顧客が安心して電力・ガスを使えるように、インフラを堅牢化する」という行動を徹底するための考え方としています。また、社員がどれほど仕事に喜びを感じているかを測る「Joy(ジョイ)調査」を実施し、「自分が会社で愛されていると思うか」という質問も加えています。安全に直結する現場作業や専門的な運営ほど、互いを思いやり・指摘し合う文化が重要だという思想です。

動画の中盤では、PG&Eが現在進めている山火事対策として、送電線を地中に埋める(地下化)プロジェクトについて詳しく語られています。樹木の剪定(せんてい:木を刈り込むこと)を毎年大規模に行うよりも、電線そのものを地下化するほうが長期的にはコストを削減できるケースが多いと分析しています。カリフォルニア州での過去の火災被害の大きさを考慮すると、年間で1~2ビリオンドル(数千億円規模)にも及ぶ樹木管理費を投資に回すことで、結果的に顧客の電気料金上昇を抑える効果も期待できると述べています。

また、脱炭素社会の実現において、EV(電気自動車)を活用した電力の需給調整や、双方向充電(車から電力を戻す仕組み)への期待についても触れています。特にカリフォルニアでは太陽光発電設備が普及し、日中に余剰電力が生じやすい一方、夕方や夜間に需要が急増する“ダックカーブ”と呼ばれる需給ギャップが課題になっています。EVを活用して日中の余剰電力を車に充電し、必要に応じて家やグリッドへ再供給することで、電力使用ピークを低減できる可能性があるといいます。これは効率的なエネルギー利用をもたらすだけでなく、最終的には電気料金の抑制にも寄与すると主張しています。

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