量子コンピューターの登場でビットコインは破綻するのか?
巷では、量子コンピューターの登場でビットコインは破綻する、という意見があります。それは本当でしょうか。この記事で深掘りしたいと思います。
量子コンピューターがビットコインに与える最大のリスクは、現在のビットコインのセキュリティを支えている暗号技術が量子コンピューターによって破られる可能性があることにあります。具体的には、以下の二つの側面があります。
量子コンピューターを使ったマイニングの問題
量子コンピューターの登場は、ビットコインのマイニングを容易にするというメリットがあります。量子コンピューターは、従来のコンピューターに比べて圧倒的に高い計算能力を持っているので、ビットコインのマイニングに必要な計算を非常に短時間で行うことができます。具体的には、SHA-256というビットコインのマイニングアルゴリズムを高速に解くことができるため、マイニングの効率が飛躍的に向上するでしょう。
中央集権化のリスク
しかし量子コンピューターを使ったマイニングには問題もあります。量子コンピューターが導入されると、従来のコンピューターを使用しているマイナーよりも圧倒的に早く計算を完了し、新しいブロックを追加することができるため、ネットワーク全体のバランスが崩れる可能性があります。従来のマイニング機器(ASICなど)は競争力を失います。
結果、量子コンピューターを持つ少数のプレイヤーが、ほとんどのマイニング報酬を独占する可能性があります。量子コンピューターが非常に高価である場合、それを持つ少数の大企業だけがマイニングを行うことができるようになります。これにより、ビットコインネットワークの分散性が失われ、中央集権化が進む可能性があります。ビットコインの基本理念である「分散型ネットワーク」に反する事態が起こることが懸念されます。
ネットワーク攻撃の可能性
量子コンピューターがマイニングに利用されることで、51%攻撃(ネットワークの過半数の計算力を持つ者が不正にトランザクションを改ざんできる)が現実的な脅威となる可能性があります。量子コンピューターを持つ者が計算力の大部分を握ることで、ビットコインネットワーク全体に対する支配権を持つ可能性が高まります。
ここで、たとえ大企業がトランザクションを改ざんする能力を持っても、大企業が実際に改ざんするはずがないのではないか、という疑問が浮かびます。それは次の理由からです。
評判リスク: 大企業はそのブランド価値や信用を非常に重視します。ビットコインネットワークで不正な行為を行うと、企業の評判が大きく損なわれる可能性があります。このような行為は、顧客やパートナー企業からの信頼を失う原因となり、企業の長期的な利益を大きく損ねる可能性があります。
法的リスク: トランザクションの改ざんは、重大な法的制裁を受けることにつながります。特に大企業は法的な責任を強く意識するため、違法行為に手を染めることは非常にリスクが高いと考えられます。
経済的動機の欠如: ビットコインのネットワークを攻撃することで得られる短期的な利益は、企業の持つ長期的なビジネスモデルや利益に対してリスクが高すぎる場合があります。むしろ、ネットワークが健全であることにより、企業の保有するビットコインの価値が維持・増大する方が望ましいと考えるでしょう。
大企業でも51%攻撃のリスクは残る
以上のように、大企業が意図してトランザクションの改ざんを行う可能性はとても低いと考えられます。しかしそれでも次のようなリスクは残ります。
内部不正の可能性: 企業が直接改ざんを行わなくても、内部の不正な従業員や、企業のリソースを悪用する第三者が計算力を利用して51%攻撃を実行するリスクはゼロではありません。
利害関係者の違い: 企業の一部の利害関係者や短期的な利益を狙う者が、ネットワークに対する攻撃を試みる可能性もあります。このようなケースでは、企業全体の利益と一部の利害関係者の動機が必ずしも一致しないことが考えられます。
このように、内部不正や第三者による悪用のリスクは依然として存在します。このため、量子コンピューターによる計算力の集中は依然としてビットコインネットワークにとっての潜在的な脅威と見なされています。したがって、計算力の中央集権化を防ぎ、ネットワークの分散性を保つための対策が重要となります。
大企業にマイニングの能力が集中したとしても、一社だけでなく、複数の会社(例えば10社)の能力を全部合わせてやっと51%攻撃の能力に達するならば、以上の問題は回避できる可能性が高いと思われます。
ハッキングと改ざんのリスク
量子コンピューターの登場がもたらすもっと大きなリスクは、量子コンピューターが公開鍵暗号技術を破る能力を持つことにあります。
ビットコインのトランザクションは、プライベートキーによって署名され、公開鍵によって検証されます。量子コンピューターは、公開鍵からプライベートキーを短時間で逆算することが可能です。これが現実になると、攻撃者は他人のプライベートキーを盗み、勝手にビットコインを移動させたり、トランザクションを改ざんしたりすることが可能になります。
このリスクを軽減するために、ポスト量子暗号と呼ばれる新しい暗号技術の開発が進められています。
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