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米国防費、2兆ドルの無駄遣い? パランティアが描く改革ビジョン

【動画】
Bloomberg Odd Lotsポッドキャスト

【概要】
この動画では、パランティアのCTOシャム・サンカー氏が、米国の防衛調達システムの問題点と改革案について語っています。現在の調達システムは官僚主義的で非効率であり、政府が単一の買い手となっているモノプソニー(買手独占)構造が技術革新を阻害していると指摘します。サンカー氏は、複数の軍事プログラムによる競争の復活や、民間企業の参入促進などを通じて、システムの改革を進めるべきだと提言しています。

【話者のプロフィール】
シャム・サンカー(Shyam Sankar)は、データ分析企業パランティアのCTO(最高技術責任者)。2006年にパランティアに入社し、同社の技術戦略を主導。AIと意思決定支援システムの専門家として知られる。2023年に発表した「The Defense Reformation: 18 Theses」で、米国防調達システムの改革案を提言し、注目を集めた。スタンフォード大学で学士号と修士号を取得。

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【動画の要約】
米国の防衛産業が直面する構造的な課題について、パランティアのCTOシャム・サンカーが詳細な分析と改革案を提示しています。現在の防衛産業が抱える問題の起源は、1993年の「ラストサパー」と呼ばれる国防総省での会合にまで遡ります。冷戦終結後の平和の配当を求める声を背景に、この会合で防衛支出の67%削減が決定されました。この劇的な予算削減は、防衛産業に大きな構造変化をもたらしました。51社あった主要防衛企業は統合を余儀なくされ、現在ではわずか5社にまで減少しています。

この業界再編の影響は、単なる企業数の減少にとどまりません。最も深刻な問題は、防衛産業全体の画一化と革新力の低下です。冷戦時代の米国では、防衛産業は驚くほど多様な構造を持っていました。例えば、自動車メーカーのクライスラーはミサイルも製造し、フォードは衛星事業も手がけていました。さらに興味深いことに、シリアル製造大手のゼネラルミルズは、食品加工技術を応用して魚雷や砲弾、誘導システムを生産していました。このように、一般消費者向け製品の売り上げが実質的に国家安全保障を支える構造が存在していたのです。

当時の防衛産業の特徴は、民生技術の積極的な軍事転用にありました。商業市場での競争を通じて培われた技術やノウハウが、自然な形で防衛装備品の性能向上やコスト削減に活かされていました。しかし、現在の状況は大きく異なります。主要防衛企業の収入の86%が軍需に依存しており、これは商業市場からの健全な刺激を失っていることを示しています。対照的に、中国の防衛企業は軍からの収入を27%に抑え、残りを民生品から得ています。

サンカーは、この状況をガラパゴス諸島の生態系に例えています。政府という単一の買い手(モノプソニー)に依存する米国の防衛企業は、競争的な商業市場から隔離された環境で独自の進化を遂げてしまいました。その結果、より競争的な環境では生存が難しい状態に陥っているというのです。この問題は、新技術の開発や採用にも深刻な影響を及ぼしています。例えば、サンカーは自社が開発した人工知能チャットボットを、ある軍用車両のマニュアル検索システムとして無償提供しようとしましたが、「要求仕様書にない」という理由で却下されました。

F-35戦闘機の開発は、現行システムの問題点を象徴する事例です。90年代半ばに構想された同機は、空軍、海軍、海兵隊の全ての要求を満たす「万能」な戦闘機を目指しました。しかし結果として、開発費用は2兆ドルに膨れ上がり、可動率も30%という低水準に留まっています。サンカーは、より効果的なアプローチとして、複数の競合機種(F-35、F-36、F-37)を同時開発し、既存のF-18やF-16、F-15にも革新の機会を与えるべきだったと提言しています。

こうした問題を解決するため、サンカーは包括的な改革案を提示しています。その中核となるのが、複数の競合プログラムの同時進行です。歴史的な成功例として、1950年代に海軍の原子力推進計画を30年にわたって主導したハイマン・リコーバー提督の事例が挙げられています。リコーバーは、議会の支持を得て革新的なプログラムを推進し、現在も米国の非対称的優位性の一つとなっている原子力潜水艦を開発しました。

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