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【要点と感想】末永雅春・三隅隆司(2006)『神と悪魔の投資論 リスクと心理のコントロール』+感想
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【著者のプロフィール】
末永 雅春(すえなが まさはる)
1961年生まれ。同志社大学経済学部卒業後、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に入社。個人・法人の資産運用助言業務、ディーラー、商品企画、エクイティ部長などを歴任し、現在はSMA(セパレートリー・マネージド・アカウント)運用サービスの立ち上げ・運営にも携わる。三隅 隆司(みすみ たかし)
1962年生まれ。一橋大学大学院商学研究科修了。同大学院教授。専攻は金融システム論や行動ファイナンス。とくに不良債権問題の行動経済学的分析など、学術的側面から資産価格論や投資家行動の研究を行う。
以下では、本書の章ごとの要点をまとめ、その後に感想を書きます。さらに詳しい内容を知りたい方は、ぜひ本書を実際にお読みになってみてください。
第1章 コアマネー運用時代の幕開け
1. 年金の破綻懸念と時代の変化
著者は最初に、日本の年金問題や長引く低金利などによって「リスク無縁時代」はもう終わったと説きます。かつては銀行預金や郵便貯金にお金を置いておけば、5%超の金利が保証されたり、元本割れの心配などほぼなかったため、わざわざ株式投資のようなリスクを取る必要がありませんでした。ところが、
公的年金ですら破綻リスクが公然と論じられるようになった
銀行の破綻リスクが表面化しペイオフ解禁が実施された
金利が極端に低く、預金だけで資産形成しにくい
という状況から、資産を運用する必要性が否応なく高まっています。
2. 無謀な前提だった「年金の予定利率5.5%」
かつて国の年金制度は5.5%という予定利率を前提に運用計画を立てていました。しかし、長期にわたって5.5%の運用リターンを得るのは非常に難しい数字だと著者は強調します。たとえば「マンハッタン島」の購入例などを用いて、5.5%がいかに長期複利としては大きいかを示し、
元本保証と5%以上の利回りが同居するなど、奇跡的高度成長を前提にした“ファンタジー”
日本人が安心して預けていた郵貯・銀行預金も、時代が変わり信用不安や低金利で通用しなくなった、
という事実をまず自覚するべきだと説きます。
3. コアマネーを自分で運用しなければならない時代
日本の高度成長と護送船団方式によって、国民は「リスクをとる必要がない」幸運な環境を享受してきました。しかしバブル崩壊以降、「何もせずとも増える時代」は終わり、むしろリスクテイクが前提になる。著者はここで「戦後日本の成功」は奇跡であって、今後は自らリスクとリターンを考えねばならない、と強調します。年金も含め、資金を預けっぱなしで保証される時代は終焉を迎え、「コアマネーを自分で運用する時代」に突入したのです。
第2章 リスクという名の神々
1. RISK=「見返りのある危険」
著者は「リスク」をただ「危険」と訳すのは誤解を生むとし、リスクにはリターンの上振れも下振れも含む両義性がある、と解説します。日本語の「危険」はDangerに近く、英語のRiskは「危険+見返り」のニュアンスを含むため、投資でいうリスクは「上下のブレ幅」のことを指します。
「株式=危険」ではなく、「株式にはRISK=リターンのバラつきがある」
「預金=安全」ではなく、「預金はリスクが比較的小さい(ただしリターンも小さい)」
という理解に切り替えるべきだと述べます。
2. リスクを“神”と呼ぶ理由
投資家にとってリスクはネガティブなだけではなく、むしろ「リターンを生み出す創造主」のような存在だといいます。リスクの本質を知らずに危険視するだけではなく、リスクを正しく理解しコントロールできれば、それはリターンをもたらす「神」になるからです。反対にコントロールを誤ると大きな損失を生む厄災になってしまうとも述べています。
3. リターンのバラつきをベルカーブで捉える
リスクは「リターンのばらつき」であり、期待リターン(過去の平均リターン)を中心として上下に分布します。一般に投資理論ではこれを正規分布(ベルカーブ)で近似します。
株価が上がるか下がるかは、1度きりのタイミングだと全く予測しづらいが、多数のデータを集めると一定の「ばらつきパターン」になる
ソニーやソフトバンクのように銘柄によって標準偏差(リスク)が大きい・小さいが違う
投資家がどれくらい「許容できるリスク」なのかを考える際に、こうしたベルカーブのイメージが役立つ
として、具体例を示します。
第3章 リスクコントロール―基本編
1. 投資信託でリスクコントロール
個人が少額で株式や債券の運用をするなら、投資信託が最も簡単なツールだと説きます。投資信託は、資金を集めて多数の銘柄に分散投資する仕組みがあるため、小口投資家でも「分散によるリスク逓減効果」を享受できます。
「どうやって儲けるか」ではなく、「損失をいかに許容範囲に収めるか」を考えるのがリスクコントロール
投資信託なら1銘柄に集中して大きな損失を負う危険をある程度回避しやすい
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