ギスギス感を解消するツール「公共善決算」
職場環境が「ギスギスしている」ということが最近、日本でよく言われています。
それを示唆する世界比較調査もあります。
「なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか」(沢渡あまね 著)という本も話題になっています。
比較にもとづく対症療法で、問題は解決できるのか?
日本の多くの会社に残る「旧態依然」とした社風、組織体制、仕事の仕方、コミュニケーション手法などに問題があり、それがギスギスの原因になっている、という理解が一般的かと思います。それらの問題を解決するために、「先進的」な他国との比較のもと、格差を埋めるための部分部分の対策が提案・実施されています。
しかしそのような対策で、はたして問題は解決するのでしょうか?
職場に余裕があり、従業員の満足度が高く、生産性が高い外国の模範例を参考にした「対症療法」で、日本の職場にあるギスギス感は解消するでしょうか? 組織は進化していくでしょうか?
ギスギス感があるのは、新しい時代の要請に合った次のレベルへの跳躍を前に、戸惑い、悩み、もがいていることの現れではないでしょうか? そういう不安定な過度期では、自分たちの文化的な土台を見つめ直すことが大切だと、私は思います。
海外との比較のアプローチは、往々にして二極化や対立を産みだします。日本の会社でこれまで培われてきた組織文化は、他の国と比べて遅れていて時代に合わない、と全否定してしまうか、もしくは外国のものは日本にはまったく合わない、と眼耳を塞いで、凝り固まってしまうかの両極端の二者択一になりがちです。自分たちが築いてきた土台をすべてぶち壊すか、もしくは土台に生じているひび割れや小さな破損を、見て見ぬ振りをするか。どちらも懸命なこととは思えません。
自分たちの土台のなかに隠れている宝物
私は、旧態依然といわれ、ギスギス感の要因となっている日本の組織文化のなかに、未来を切り拓く大切なものが潜んでいる、と思っています。まず自分たちの土台のなかに隠れている宝物に目を向ける、否定からでなく、まず肯定してみることから始めることを提案します。 まず土台を「保守」してから「革新」するほうが、より上手くいく気がします。
1)多数決でなく、みんなで合意的に物事を決める、ということ自体は、デモクラシーの成熟という観点では、とても価値ある文化です。一方で、その手法である「稟議」や「根回し」「談合」などは、時間節約やフェアネス、透明性の観点で、改善の余地があると思います。
2)終身雇用も、社員に様々な部署を経験させる人事も、原則的には人を大切にした制度であり、人に安心感や新鮮な気持ちを与える側面があります。もちろん、それに満足しない、合わない、そのなかでやる気をなくす社員もいます。この制度は、本人の意思に反する転勤命令や、左遷といったかたちで悪用されることもあります。多様な社員に敬意をはらい、多様なニーズを満たすため、制度を補填・補正・修正・規制していくことは必要でしょう。でもそれは、終身雇用や現在の人事の原則を全否定しなくともできます。
3)地域の自然や社会、先祖、年配者、経験者を敬う精神は、弱肉強食の殺伐とした資本主義市場経済のなかで、とても貴重な文化です。時代がもとめている、多様性があり、個性を大切にするフラットで自律的な組織への進化は、古き良き精神文化の上にも築くことができます。それができたら、世界に誇れるものになると思います。
日本の文化とも馴染む公共善エコノミー
公共善エコノミー(Economy for the Common Good)の核ツールである「公共善決算 (Common Good Balance Sheet)」は、組織のギズギス感をホリスティックに解消できるツールだと私は思っています。
「人間の尊厳」「連帯と公正」「環境持続可能性」「透明性と共同意思決定」という4つの価値と、「サプライヤー」「オーナーとファイナンスパートナー」「従業員」「顧客と他企業」「社会環境」という5つのステークホルダーからなる「公共善マトリックス」で、企業・組織を評価します。
4つの価値は翻訳語なので固く難しく聞こえますが、「いのち/生きがい」「結/助け合い/公明正大」「八百万の神/自然愛・畏敬の念」「隠し事のない寄り合い/話し合い」と日本的に言い換えることもできます。公共善エコノミーは欧州生まれのコンセプトですが、人間の共同生活におけるユニバーサルな価値を基準にしているので、日本だけでなく、世界のどの文化圏とも共鳴することができます。
5つのステークホルダーは、日本に根付く企業文化の代表である「三方よし」(世間よし、買い手よし、売り手よし)に通じます。公共善決算は、すべての関係者に360°の「気くばり」をすることを促します。
組織を内側から変えるホリスティックな処方箋
公共善決算のプロセスでは、企業が公共善マトリックスの20のマス目に沿って、自らを文章で表現し、自己評価をします。これにより自分のことを包括的に探求することができます。組織文化という土台の強みも弱みも、他者との比較というフィルターを通してではなく、多角的な視点から把握することができます。「遅れている」という外発的でネガティブな衝動ではなく、「何ができるか」という内発的でポジティブな動機が生まれます。すべてのステークホルダー(関係者)への思考とコミュニケーションも促せます。「ギスギス感」の原因も、多角的に把握できると思います。そして、その延長で生成される処方箋も、対症療法ではなく、ホリスティックなものになるでしょう。
公共善決算では、最終的に、企業が創り出す多面的な価値が、外部監査によって評価され、点数がつきます。しかし、参加している大半の企業にとっては、良い点数を取ることが第一の目的ではありません。すでに10年以上の実績がある中欧のオーストリア、ドイツ、スイスでは、決算のプロセスによって、組織が内部から変わること、より調和的に、より寛容になること、より魅力的になること、その結果、レジリエンスが高まることを経験しています。社員の定着率が高まったり、リクルートで優秀な若者が集まってきたり、顧客やサプライヤーとの結びつきが強まったり、融資をする銀行や投資家からの信頼が増したり、と言った経験もしています。それらは、金銭的決算の数字にもポジティブな安定感をもたらします。
ワークショップ「公共善エコノミーで日本の組織をアップデートする」
2025年2月11日に開催するワークショップ「公共善エコノミーで日本の組織をアップデートする」は、ギスギス感をホリスティックに解消する有効な1ツールとしての「公共善決算」の魅力とポテンシャルを、ダイジェストで体感的に学ぶものです。皆さんのご参加を、心よりお待ちしております。
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