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🎥NEWシネマ歌舞伎『四谷怪談』を観ました

2021年9月27日 
MOVIX柏の葉 にて

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結構、複雑

四谷怪談=お岩さんという、薄い知識しかなかった私。
けれど、この映画で、いろいろなことを知ることができたのは収穫でした。

作者は、4世 鶴屋南北(つるやなんぼく)。
江戸時代後期に活躍した歌舞伎狂言の作者で、
御年70歳の頃の作品だそうです。

登場人物の相関関係が結構複雑で、何となく理解→ほぼ理解まで、
時間がかかりましたが、勉強になりました。

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コクーン歌舞伎

ポスターにあるのは、4人の主な登場人物たちのスーツ姿。
(歌舞伎のこしらえではなく)
どんな演出なんだろうとこれでワクワク。


2016年6月に渋谷にあるシアターコクーンで上演された、
『四谷怪談』が収録されています。
シアターコクーンは、総客席数747席、
舞台から1階最後列の客席までが24m。
とてもコンパクトな空間の中、舞台と客席の一体感、
臨場感が体験できる劇場のようです。

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演出家・串田和美さんと十八世 中村勘三郎さんがタッグを組み、
1994年にコクーン歌舞伎は誕生しました。
「古典作品を現代の演出で再構築」するところが特徴だそうです。
以前、シネマ歌舞伎で「三人吉三(さんにんきちさ)」も観たけれど、
あれもそうだった。
歌舞伎であり、舞台劇であり、現在にも落とし込める物語でもあり・・・。
色を変え、形を変えて、歌舞伎の世界を広げていこうとする人々の、
熱量のこもった作品の一つであると思います。

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忠臣蔵

四谷怪談は、忠臣蔵の外伝という形で存在していることも
初めて知りました。

塩谷判官高定(えんやはんがんたかさだ)←浅野内匠頭
高師直(こうのもろなお)←吉良上野介

当時の江戸時代では、実在の人物をそのまま上演することが禁じられていたそうで、元禄時代に起こった赤穂浪士の討ち入り事件を南北朝時代に移し替える形でお話が作られました。
歌舞伎では、“時代”を変えることはよくあることだそうです。

お家のお取りつぶしで苦難しているお岩やその父 四谷左門。
それにお岩の妹 袖などが塩谷家側。
対する仇は、伊藤喜兵衛で高師直側。

喜兵衛の孫 梅が、岩の夫 民谷伊右衛門(たみやいえもん)に恋焦がれてしまうところから悲劇が加速していく。

四谷怪談_mainA_S_写真-明緒

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中村扇雀さん

観終わって、一番印象に残ったのは、私は扇雀さんでした。
扇雀さんは“お岩”と“佐藤与茂七(袖の婚約者)”の二役を演じられます。
扇雀さんのお岩には、存在感があって、自分の運命と立ち向かい必死に闘う線の太い女性を感じました。

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首藤康之さん

目力が半端ない!誰?
バレーダンサーの首藤康之さんでした。歌舞伎には初挑戦ということです。
塩谷浪人の小汐田又之丞(おしおだまたのじょう)が役どころ。
病気で臥せっていて、家臣である小仏小平(こぼたけこへい)の家に
身を寄せています。
小仏小平は、主人の病気を治し、仇討ちに加わらせたいという思いから「薬」を盗み、民谷伊右衛門に惨殺されます。
お岩の無理心中の相手としての濡れ衣まで追いかぶされて。
主人の病気を治すため、小仏小平は亡霊となってまでも、
伊右衛門に取り付き、薬を小汐田又之丞へ届けるのです。
その後、又之丞は薬のおかげで回復し、義士の一人として
仇討ちに参加できた・・・というエピソード。

首藤康之さんは、蒲団の上だけの演技で少ない出番ですが、
独特の雰囲気があってこちらも印象深かった。
又之丞が上半身を起こした姿のまま、蒲団の乗った台が、
舞台上を移動しつつ、話が展開していく演出も面白かった。

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お梅

お梅は伊藤喜兵衛の孫で、裕福な身の上のお嬢様。
惚れてしまったのは、お岩の夫 民谷伊右衛門。
相手が妻子持ちにもかかわらず、一念を貫き通そうとします。

喜兵衛は孫可愛さから、伊右衛門の妻であるお岩に、
その容姿を崩すという毒を「産後の肥立ちのためにどうぞ」と
善意を装って送りつけます。
伊右衛門に醜くなった妻に愛想を尽かさせ、
お梅のもとへ婿入りさせようとする策略です。
 
喜兵衛一家のこんな恐ろしい考えなど、意にも介さず、
只々伊右衛門との婚礼が嬉しいお梅。
そんな若々しく可憐な彼女こそが、この話の一番の恐ろしい所、
お岩さんの怖さどころではありません。

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こんな身の上にされて喜兵衛らにひとこと言ってやりたいお岩が、
出かける前の装いで、鏡の前でお歯黒をするおどろおどろしい姿と、
同じく鏡の前で婚礼前の化粧を施す嬉し気なお梅の姿が、
舞台上で交互に回転しながら現れます。

明と暗、対峙する二つの鏡見姿の演出も、人の恐ろしさやお岩の口惜しさを強調していて、何とも言えず胸に迫るものがありました。

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伊右衛門

「色悪(いろあく)」と呼ばれるキャラクター。
表面はイケメン、あるいは悪者には見えない姿なのに
いざとなると悪人の気質を現す、二面性を持つ役柄のことだそうです。

妻との復縁の願いを無下に断られ、自分の悪事を知られていることもあり、憤怒のあまり舅を殺す悪っぷり。

復縁した妻には、自分が手を下しておきながら、
舅を殺めた者への敵討ちを誓う嘘つき。

産後の様子が悪い妻、泣いてばかりの赤ん坊、貧乏な生活、
こんな生活にもだんだん嫌気がさしてくる。

喜兵衛一家からの婿入りの誘い話に一度はそんなことはできないと断るも、ズルズルと誘惑に誘い込まれていく。
お岩が事あるごとに父親の敵討ちの実行を催促してくるのも面倒だ。

『やだやだやだーっ』としまいには本性のまま、喚き散らし、お岩を捨てて立身出世も約束された楽な生活の方へ乗り換えようとする。

伊右衛門にしても、お岩にしても、腹の中に複雑な感情が渦巻いている。

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三角屋敷の場

通常上演時間の関係でよく省略されるのが「三角屋敷の場」。
お岩の妹 お袖と、お袖に横恋慕する直助権兵衛(なおすけごんべい)。
二人をめぐる因果にお袖の夫 与茂七が絡んで。

ここでも哀しい運命のために自らの死を選ぶお袖。
己の欲のために罪を犯し、運命に呪われるように、自決するにいたる直助。

映画では触れられませんが、お袖の夫与茂七は、伊右衛門を討った後、
高師直の館への討ち入りに参加することになります。

いつの世もはかり知れないことばかり。
救いようのない現実は、ふいに容赦なく襲い掛かってくる。

200年前、老境の鶴屋南北は、実際に起こった事件をモチーフにちりばめながら、この世にあがいて生きる人々を、生きていくことの困難さを、共感をこめて描いたのではないだろうか。

あのスーツ姿で闊歩する現在人姿の4人は、私たちのすぐ隣にいる人々だ。

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余談

お岩さんはネズミ年だそうです。
劇中、お岩さんの恨みの象徴のように大量のネズミが姿を現します。
私はネズミ年なのでドキッとしてしまいました。

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