トラウマを胸に生きる 〜保険業界が揺れた日〜
2007年、生保業界を揺るがした大事件が起きた。
俗にいう「保険金の不払問題」だ。
これを機に、保険業界は請求漏れを避けるためのさまざまな工夫を行うようになる。
以前、行動経済学の分野で「ナッジ」という概念が唱えられたことがある。
肩をポンポンと叩くような"軽めの誘導"を表した言葉だ。
生命保険会社はこのような「ナッジ」の取り組みを早くから取り入れていた。
保険会社が知り得た情報の中から他の支払可能性を探り、可能性が高いものは強い働きかけ、低いものは「ナッジ」のような緩い働きかけを行う。
ここを区別つけず、全てに強い働きかけをしてしまうと注意喚起だらけになり、かえって効果がなくなってしまうのだ。
こうして、「支払可能性の高さの見極め」と、「相手に不快感を与えない注意喚起の仕方」という新しい観点が保険業務に持ち込まれることになった。
前者は医学的な知識も踏まえる必要がある。どこまでいっても生命保険は医学と切っても切れない関係のようだ。
このように業界全体に深く刻まれたトラウマは、保険事務に更なる進化をもたらした。
まだまだ我々の学ぶことは尽きなさそうである。