「男の出世への強迫観念」を逆手に取る話
事務仕事の職場には女性が非常に多い。
知識や経験の蓄積がものをいうので、異動が限定的な一般職や契約社員と相性がいいのだが、今のところこういった契約形態の仕事は女性の割合が圧倒的に高い。
女性の割合が多いのは、おそらく社会通念によるものだろう。
「出世を目指して仕事に打ち込むのが男である」とか「上昇志向を失った男はモテない」という価値観は根強い。
身の周りで聞く話だと、役職定年や介護などで離職した中高年の男性が、社会復帰の意味も兼ねて契約社員として就職する例がごく稀に見られるぐらいだ。
男性で一般職や契約社員になるのは「出世競争に敗れた人」というイメージがついてしまっている。
ちなみに、雇用形態に関わらずだが、仕事で存在感を示すことができない男性に対する、女性からの仕打ちは容赦がない。
指示は無視するし、女子同士の集まりではボロカスに言うし、噂が波及して初めて仕事で絡む同僚女性からもなんとなく遠ざけられる。
前の仕事では八面六臂の活躍をしていた人間が、隣の部署に移ると成果が上げられなくなり、女性から無視され出すこともある。
女性はダメ男を遺伝子レベルで拒絶するが、男はダメ男とも仲良くなれる。
私の勝手な予想だが、女性は男性に対して無意識下で恋人としての魅力を品定めし、男は友達になれるかを見ているからだと思う。
バランスが偏っているのは恋人としては落第だが、友達は一つでも気にいるところがあれば良いので合格基準が全く違うのだ。
私はもともと偏った人間が好きな傾向にあるので、叩かれてる男性に近づき、仲良くなることで、いざという時に助けてもらえる選択肢を増やしにいっている。
その人のできる側面に焦点を当てれば共闘はいくらでもできるはずなのに、もったいないなあと思いつつ、自分が漁夫の利を得られるので黙っているのである。
人は、自分が叩かれて弱っている時に手を差し伸べてくれた人間のことは後々までよく覚えているものだ。
「あ、この部署にはこんな固定観念があるな」と気づくのは職場内のポジショニングを考えるにあたって重要である。
それによって他の人がスルーしている宝の山に気づけるからだ。
金融はハッキリいって斜陽産業なので、ポストも減ってゆき、出世願望が叶えられない男性はこれからますます増えてゆくだろう。
だからこそ、「周りの非難に流されず、その人の強みを見て仲間になる能力」は、ますます重要度が増すと思うのである。
最後に、私がこの発想に至った経緯について書いて締めくくろう。
同期で集まって飲み会をやっていた時のこと、男の同期の1人が私に「おい、あの店員をナンパしてみろよ」とみんなの前でけしかけた。
私はナンパの経験などなくて、女性店員にしどろもどろになってしまい、その場にいた女性の同期からは早く切り出せよとイライラした空気が漏れ出た。
その後、けしかけてきた男の同期はその女性店員にスマートなナンパの声かけをし、女性の同期たちの表情がパーッと明るくなってその場はお開きとなった。
要するに噛ませ犬にしたくて、その同期は私が上手くできないであろうナンパをしろとけしかけてきたのだ。
この時の屈辱から、私は男らしくない男に対して決して馬鹿にした態度は取るまいと心に誓ったのだった。