母とのお別れ
母が亡くなって、一日が過ぎた。
母は、いま一人霊安室で眠っている。
最近は、火葬場が混んでいて直ぐには葬儀が出来ず、6日間も
母一人、霊安室で葬儀待ち状態になる。
何だか気持ちが落ち着かない状態である。
昨日のことだった。
施設から朝いちばんに連絡があった。
仕事に行こうとイスから立ち上がろうとした瞬間だった。
急いで電車に乗り、施設に駆け付けたが。
母の部屋に着くと、すでに息を引き取っていることが
すぐにわかった。
顔を見た瞬間に、涙があふれ出た。
泣いても泣いても、止められない。
こんなに泣いたのは、子供の時以来のような気がした。
母の手を握ると、まだ温かい。
先週、面会に来たときのぬくもりと一緒だ。
冷たくならないように、母の手をずっと摩る。
だんだんと冷たくなる身体を受け入れたくない私は、
無意識に母の腕をずっと摩っていた。
次々と、孫たちも学校や会社から駆け付け会いに来る。
母のベットの周りをたくさんの孫たちが取り囲んで
にぎやかになった。
何だかうれしくなった。
母も久しぶりにみんなと会えて喜んでいるようだった。
施設のスタッフたちも次々と顔を見に最後の別れをしに部屋に入ってきた。
こんなにたくさんの人たちにお世話になったんだということを実感した。
母は、もともと人とお付き合いするのが好きではなかった。
自ら友達を作ろうとする性格ではなく、周りからどう思われようと気にしないマイペースな性格。
そんな母の姿を見て育った私は、なんだか周りに自慢できない存在でもあった。
施設で過ごして母はたくさんのスタッフにお世話になり、
たくさんの人の記憶に残った。
スタッフみんなが母の思い出を楽しく話してくれた。
母の存在が、たくさんの人の楽しい記憶に残っていることが
嬉しくてたまらなかった。
帰りの電車で娘と母の思い出話で盛り上がった。
娘にも母の存在がしっかり残っていた。
嬉しかった。
母が施設に入ってから、面会に行く毎に思うことがあった。
母は良い人生だったのかな。
いくら考えてもわからない。
そんなことは、自分で思うことだ。
母が亡くなり、最後にたくさんの人に囲まれてわかった。
こんなにもたくさんの人たちに愛されていたということは、
絶対にいい人生だったと思う。
そう思いたかった。
最後に、母に話しかけた。
『いい人生だったね。ありがとう。』