Vol.6 環境負荷を可視化:早稲田大学の教授が語るキャリアの選択と意義③
「ライフサイクル環境評価の研究者は何をきっかけに現在の研究を始めたのだろう?」という疑問にお答えするべく、今回は早稲田大学創造理工学部にて、環境・社会影響評価手法開発と活用の研究なさっている 伊坪徳宏 教授 のインタビューをお届けします。
研究のきっかけ
ー現在の研究を始めたきっかけを教えてください!
当時の指導教員に勧められたからです。
約30年前、材料学出身の私は、異なる材料を組み合わせた高機能素材である複合材料を開発しようとしていました。しかし、この複合材料は、異なる材料が組み合わさっているため、リサイクルが非常に難しいです。
そんなとき、山本先生から、「高機能かつ環境志向な材料を作りなさい」と大命題を与えられました。山本良一先生(東京大学名誉教授)は、院生の時に私の指導教員であり、エコマテリアルという概念を立ち上げた方でした。
そこで、「リサイクルできる高機能素材」をテーマに研究したことが、現在の研究を始めたきっかけです。
研究のやりがい
ー現在の研究をしていて、どのようなときに研究のやりがいを感じるのかを教えてください!
研究成果が社会で活用される時です。研究者としての成果が最も形として表れる論文は、レビューを受けてその研究の社会的・科学的な意義が外部に示されるので、論文を出すことは重要ですし、責務としてやっています。
また、我々は環境影響を社会を豊かにしながらどう下げていくのかに視点を置いているので、我々がつくっている評価手法を企業経営に導入してもらい、それを用いて経営判断に活用してもらう、そして将来的に環境負荷の低い製品・材料の開発を促進し、企業が変革したり、社会に受け入れられたりすることが一番のやりがいです。
現在のキャリアを選んでよかったこと
ー現在のキャリアを選んでよかったと思ったことは何ですか?
ネットワークができることです。自分が仕事としてやっている成果が直接社会の改善に活用され、それが目に見えることは良い点だと思います。
またLCA評価手法を作ることもそうです。論文が出ると、それを企業が活用し、実際に成果が出るということは重要ですが、うまくいかないものもあります。その場合、フィードバックを通して課題を発見し、次の研究に生かすことが大切です。
教育者としては、コミュニケーションを通して学生のやる気に火をつけることも大切です。やる気に火のついた学生は結果を出し、学会で発表します。さらに学生は国際会議や論文などの経験を通じてより成長していきます。そのような学生の成長を間近で見られるのはやりがいです。
加えて、研究を通して教育に活用できることも魅力です。大学で学んだことが社会で生かされることや、あるいは学生が大学での研究活動を通して見える景色が変わり、入学時には考えもしなかった就職先に行くこともあり得ます。このように学生の人生にとって、ポジティブな方向に導くことも、現在のキャリアを選んでよかったと思うところです。
最後に、相手の話を理解するためにコミュニケーションが大切であるのと同じで、目に見えないものを見えるようにする手法であるLCAにおいても、情報をわかるようにするための理解のプロセスが大事だと思います。
初めはわからないことでも、その道の専門家にお話を聞き、対話する中で理解できるようになってきます。なので丁寧に時間をかけて理解できるようになるプロセスが大事で、専門家のようなプロは、方法を確立し、それを世の中に浸透させていく必要があると思います。
おわりに
ー環境系のキャリアを目指す学生へ一言お願いします!
今がチャンスです!
環境のことに詳しい学生はほとんどいないので、就活では完全に売り手市場になっています。
環境に対して配慮したいのはどの企業も同じですが、環境のアナリストは、どの業界でもいません。
つまり環境コンサル、製造業、役人、研究者にも自分が志望すればなれるわけです。さらに言うと起業するのも一つの手ではあります。
環境に対する分野ではチャンスはいくらでもあるのです!
ただし、きちんと専門性を身につける必要はあります。専門性があればジョブ型採用により自分の学んだことを仕事に活かせるし、これさえあればどこにでもいけます。
学生はこのような専門性を身に着けるために一生懸命勉強してください。近い研究をしている学生と切磋琢磨して研究の面白さを見つけてください。労を惜しまず研究に励めば道は開けます。
努力して自分のいきたいところに行きましょう!
編集後記
今回の伊坪教授へのインタビューを通して、環境という分野のキャリアには専門性を身に付けることが非常に重要であるということがわかりました。
環境系のキャリアといえばエネルギーや資源業界やメーカーなどで「環境に良い」ものの開発を行う業界が思い浮かびます。しかし、伊坪教授のような環境負荷を定量的に評価する研究を行っている研究者がいるからこそ、「環境に良い」の指標が確立し、新しい技術や製品が生まれていくのだと知ることができました。
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