私とジビエ : 1 鹿をさばき始めたきっかけ
2020年11月の出来事。寝床に入ってまだ夢うつつの冬間近な11月の早朝、近隣にかけた罠を見回りしている猟師の隣人の声が聞こえた。「畑のネットに牡鹿がかかっていますよ!」と。
最近、鹿が畑に来るようになって、防御としてネットを敷地の周りにはっておいたのだが、そこに鹿の角にからまってもがいていたのだ。
相方のジョーはすぐさま行ったが、私は着替えるのにもたもたしているうちに銃声が聞こえて、駆けつけた時にはすでに鹿は絶命していた。
牡鹿は体格も良く、相当重そうに見えた。
友人は、獣害駆除の手当をもらう手続きのために、以下の手順をこなしていく。
鹿の尻尾を切り取る。
お腹に日付けをスプレーペンキで書き、定規を鹿の足元に添えて、大きさを表示。
そこに捕獲した本人が一緒にならんで、写真を撮る。
鹿単体でも撮影。
これらを、行政に提示することで、鹿やイノシシ一頭につき補助金を受け取ることができる。
獲物の大きさによっても金額のグレードがちがう。
猟師の免許及び銃の維持、管理にも、結構なお金がかかるわけだから、それくらいは最低でもリターンがなければ、貴族のレジャーでないかぎりは、狩猟免許など、所持するのはしんどいだろう。
本来なら猟師の維持は、山村の共同体でささえる物だったろうけれど、その地域そのもの、あるいは繋がりが消滅していると、それは行政が介入するしかないということなのか。
原始社会では、狩猟は、主要な食糧調達手段であったに違いなく、その獲物の分配などは、部族の長があらそいなく分配したにちがいない。
何せ、食い物の恨みほど、怖い物はなかったろうし。現代のような飽食時代とは、わけがちがう。
その分配の原型が、株式の原型なのではないかと思う節もある。狩猟生活、それは人間の共同体、人類史の元型なのだ。
結局これを期に、私はジビエの世界に入り込んでいくことになった。
(文:ユリ)