見出し画像

Tumbler #2024winter-4

年末の競馬の祭典にふさわしい幕切れだったのではないだろうか?

今年、秋冬の競馬界における最大のスターが出走取消となって俄然、
混戦模様となった第69回有馬記念。

”64年ぶりの牝馬の有馬記念勝利!”
とアナウンサーが叫ぶのを聞いて、(うそつけ!牝馬は2020年と2021年にも
勝っとるやんけ)と思ったのだが、そうではなかった。
多分アナウンサーは、”牝馬”の前に”3歳”と言っていたはずで、その”3歳”を
私が聞き逃したのだろう。

確かに”3歳牝馬”の有馬記念の前回勝利となると、1960年のスターロッチ
まで遡らなければならない。

コダマ、コマツヒカリ、キタノオーザ、オーテモンなど錚々たるメンバー
を引き連れて、出走12頭中9番人気だったスターロッチがヘリオスと共に
逃げる中、有力各馬がそのはるか後方でけん制し合い、スローペースと
なり、途中ヘリオスが脱落、単騎逃げの形になって彼女は、そのまま
スタミナに任せ2着オーテモンに2馬身差をつけ、レース史上初の
”4歳牝馬の勝利”(満年齢表記となった2001年の馬齢表記改訂前、
数え年で4歳は満年齢で3歳になる)となった第5回有馬記念。

スターロッチのその勝利から今年の第69回で64年ぶり、となる。

呼んでない呼んでない (ロッチ中岡氏)

スターロッチほど時間を遡るわけではないが、その昔、ダンスパートナー
という牝馬がいた。
1995年から1997年まで活躍し、当時、”牡馬にも勝つ強い牝馬”、という
”役割”ありきでターフに送り出されているように私には映っていた。

1971年に天皇賞(秋)(当時距離は春と同じ3200m)と有馬記念を制し
(5歳、馬齢は当時の表記)、牝馬で史上初の年度代表馬となったトウメイ
以来の、”牡馬をも打ち負かすとてつもなく強い牝馬”というふれこみだけが
先走っていた、という印象がダンスパートナーにはある。

確かに、牡馬と戦ってもその走りっぷりはヒケを取ってはいなかった。
”互角に戦っていた”とは思うし、強い牝馬だった事は間違いない。
GⅠレースもオークスとエリザベス女王杯(いずれも牝馬限定)
を制している

4歳(馬齢当時)時の鞍上、主戦は武豊ジョッキー。
春にダンスパートナーが制したオークスのタイムが、その一週後に行われ
たダービーより約2秒早かった事から、”出てたらダービー馬になっていた”
と一部で騒がれた覚えがある。

そのオークスより2秒遅いダービーを勝ったタヤスツヨシは、秋、京都新聞杯と神戸新聞杯をいずれも6着とふるわず、一時期流行っていた漫画・アニメにひっかけて、”ツヨシ!しっかりしなさい!”とスポーツ新聞の見出し
に書かれるなどしていた。

その秋の4歳(現3歳)牝馬のローテーションは、まだ秋華賞創設前であり、通常はエリザベス女王杯に出走するのがお決まりのパターンだった。
ところがダンスパートナーは4歳(現3歳)牡馬最後のクラシックレース、
菊花賞に出走してきたのである。

”しっかりしなさい!”と言われたタヤスツヨシももちろん出走した1995年
第56回菊花賞、単勝1番人気はダンスパートナーだった。
うがった見方かも知れないが、4.9倍というオッズに、”ひやかし気分”を
感じ取ってしまう。
タヤスツヨシは7.7倍で5番人気、このレースに勝利し、後の一時代を築く
幕開けとしたマヤノトップガンは6.5倍の3番人気だった。

私もウブだった当時、まんまと競馬マスコミの”牡馬をも蹴散らす女傑”
という踊り文句にだまされ、ダンスパートナーを軸に馬券を買い、
最後の直線、追い込んでいい伸び脚を魅せたものの5着に沈む姿を見て、
”ええじゃないか”と踊り明かした。

純度の高い炎で競馬に盛り、踊り狂っていた頃だった。

ちなみにタヤスツヨシはまたも6着。
6番目というポジションに何かこだわりでもあったんだろうか。

ダンスパートナーはその後、四位洋文騎手に乗り替わり、翌5歳(現4歳)に
エリザベス女王杯を勝ち、また牡馬混合のレースでは、京阪杯(GⅢ)を
制し、宝塚記念にその年と翌年2年連続3着と活躍してみせたが、
”牡馬を蹴散らす”までには至っていなかったと思う。
ために、”牡馬をも打ち負かす”と勘違いしたレッテルを貼られ間違った
使われ方をしていた、というネガティブなイメージが未だにある。

第69回有馬記念を制し、64年ぶりの3歳牝馬戴冠を遂げたレガレイラに、
私はダンスパートナーのイメージを重ねていた。

来週行われる予定の今年最後のGⅠレース、ホープフルステークス
(中山競馬場2000m)は2歳馬限定のレースである。
通常は牡馬のレースとなる事が多く、(混合競争に指定されたのは1993年、それまでは牡馬・騙馬指定レースだった)、混合レースに指定された1993年
の第10回以降、2022年の第39回まで全て歴代勝ち馬は牡馬であった。

昨年2023年第40回目で初めて牝馬が戴冠した。

それがレガレイラである。

”この牝馬は一流所の牡馬と走っても勝てる”
と陣営が考えたとしても至極当然ではある。
現に牡馬が主流とされるGⅠを勝ったのだから。

その後のレガレイラのローテーションは、何となく、どこか場違いな
違和感をうっすらと含んだものに私には感じられた。
これには、レガレイラのオーナーであるクラブの意向も大きく関係
してくる。

そのクラブの所有馬は、現役に限っただけでも
ジオグリフ、シャフリヤール、リバティアイランド、ローシャムパーク、
アスコリピチェーノ、チェルヴィニア、ブレイディヴェーグ、
マッドクール、レガライラ、etc、etc

今の競馬界にときめくスターホースがずらりと居並ぶ錚々たる顔ぶれだ。
当然、より多くのGⅠレースを制覇する為、またタイトルを各馬にできる
だけ多く獲らせる為にも、出走する馬とレースの選別が、クラブの収益的
にも名声的にも重要になってくる。

同一GⅠレースに、そのタイトルを獲れそうな馬を複数出走させるわけに
は行かない。同じクラブの所属馬同士でGⅠタイトルの奪い合いという
形にならぬよう、馬もレースも選別しなければならない。

当然の事と思う。
サラブレットは”経済動物”である。
そのレースを獲れるはずだったが別の馬にそのレースを勝たせたい為に、
獲れるはずのその馬を他の例えば海外のレースに出走させたり、
その采配によって獲るつもりだったものを他所へ持っていかれて、
結局所属馬がタイトルを獲れなかったとしても、配分をしないわけにも
いかないであろう。

存分に選別・配分をやれば良ろしかろうと思う。
自分達の所有馬なのだから。
ただ一方で”ブンカを気取るな”、とは思う。

”日本近代競馬の結晶”の血が、競馬発祥の地、イギリスの伝統あるエプソムダービーを獲っても、経済に全フリした行いしかできないのであれば、
いっそ”クラブ”とか気取ってないで”馬喰軍団”とでも名乗ってもらった
方が余程潔い。

”馬の為の采配”ではなく、”文化としての采配”をふるえるどころか、
差配するモノ達には”馬喰としての一分”すら無いのか、と思わされ
ながら身震いしつつ馬たちに声援を送り、
”イクイノックス、無理に凱旋門出る必要無くね?”と言うファン達の
間でこそ、競馬文化らしきものの醸成が感じられる事に、
救われる想いがする。

話が逸れた。
馬喰たちの采配によってそれぞれワリを食った馬たちの中でもレガレイラ
は最もワリを食わされた一頭ではあるまいか。
ワリを食わされたのは采配のせいだけでは無いとは思うが。

3歳牝馬であれば、春は当然、牝馬クラシック路線として定着している
桜花賞、オークスに出走するのが通常だが、デビュー後3戦目にして
2023年12月28日のホープフルステークスに勝ったレガレイラは、
そこから2024年4月14日の皐月賞に直行した。

1番人気(3.7倍)で6着の後は、オークスに行かずダービーへ。
2番人気(4.5倍)で5着。
(話題を作るとJRAから軍団に報奨金でも出るんだろうか?)

秋初戦、9月15日にローズステークス(GⅡ)というレースで一番人気
(1.7倍)で5着という背筋が凍りつくような調教を行った後、
エリザベス女王杯で一番人気(1.9倍)で5着。
不利を受けながら人馬一体となって最後まであきらめなかった壮絶な
走りは見事だった。

そして昨12月22日、有馬記念。

ここでもう一度今年のレガレイラのローテーションをおさらいしてみたい。

皐月賞→日本ダービー→ローズステークス→エリザベス女王杯→有馬記念

何かおかしいと感じる。
曲芸でもやらせたいのか?と思う。
有馬記念までの4走は、全て1番人気、2番人気、1番人気、1番人気で
負けている。

有馬記念出走はこの秋2戦、2戦とも牝馬限定レース敗退で何も得る所が
無かっただけでなく、株を著しく下げる事となり、どこへもやり場が
なくなってレースのにぎやかし要員としてしか使いようが無くなった
とまで、一部で言われていたレガレイラ。

最後の最後である有馬記念で、ホントに曲芸としか思えないような
事をやってのけた、と私はゴール後、気持ち良さげにコースを
並足でゆく鹿毛を茫然と眺めていた。

第69回有馬記念ゴールの瞬間、青い帽子がレガレイラ(JRA HPより)
ちなみに隣のピンクの帽子は、写真判定となるほどゴール前まで競り合ったシャフリヤール
レガレイラと同じ勝負服、つまり同じ軍団の所属馬である
軍団としては、どちらに有馬を獲らせたかったのだろうか?

3歳牝馬の勝利の記録に、桜花賞やオークス、秋華賞ではなく、
ホープフルステークスと有馬記念が記されている。
それでいて皐月賞、ダービーは馬券圏外に負けているのだ。
この事も曲芸みたいに思える。

12月は師も走るが、レガレイラも走る。
師走の中山が余程好きなのか。
来年はどんな走りを魅せてくれるだろう?

”冬の女王”とでも呼ぼうかと思ったが、それではまだ来年がある
レガレイラに失礼だ。

今、私の目には彼女が”曲芸師”に見える。

tumbler
曲芸師、不倒翁

Sujested by Mr.池ノ上

いいなと思ったら応援しよう!