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Hope,in a hopeless world #2024winter-5-8

2強対決と言われた1999年、第44回有馬記念。
2頭を預かる、白井調教師と尾形調教師。
レース終了直後、一方がもう一方に『おめでとう』と声をかけ握手を
交わしたという。

写真判定はまだ出ていなかったが、どちらが勝ってどちらが敗けたのか、
双方の見解は一致していた。

それは騎手も同じだった。

割れんばかりの大歓声の中、負けたと悟った騎手は馬と共に去り、勝った
と確信した騎手は馬を駆り、コースを周り始める。

ウイニングランに入った1頭と1人を、コールと大歓声の渦が包み込む。
馬上、握りしめた左拳が二度、三度と上げられる。
上がる度に、地鳴りのような歓声が波となってその馬と騎手に押し寄せる。
観客数はのべ約15万人だったという。

1999年第44回有馬記念ゴール後の掲示板

コールを連呼しながら歓喜に湧く観衆。
それは勝者にだけ送られた声援では無かった気がする。
どちらが勝っても、観衆は同じような声援を、コールを、拍手を、
惜しみなく贈ったのではないだろうか。

あれだけすごいレースを魅せてくれた事への感謝と敬意を込めて。
そしてその感謝は、今、賛美を受けている1頭にだけでなく、雌雄を
決すべく闘った2頭にだけ送られたものでもなかったように思う。

写真判定はまだ出ない。

綺羅星のような出走メンバー。
無冠の帝王ステイゴールド、菊花賞馬ナリタトップロード、その年の
天皇賞・春を制したメジロブライト、秋華賞馬ファレノプシス、
未冠の大器ツルマルツヨシ、皐月賞馬テイエムオペラオーはこの後、
超大物へと大化けする。

そして、アナウンサーがゴールの瞬間、何と実況していいかわからず
咄嗟に放ったように聴こえた”最強の2頭!”。

スペシャルウィークとグラスワンダー。

長い写真判定だった。
これには理由があったらしい。
実は判定はもう決定していたが、発表を遅らせたのだという。

それは今、ウィニングランをしている馬と騎手に配慮し、終わるのを
待って発表としたからだそうだ。(東スポ競馬記事)

満員の観衆からうねるようなどよめきが起こった。
白井調教師と尾形調教師は、つい10分ほど前とは逆の事をした。
10分前に『おめでとう』と言われた方が、同じ言葉を今度は言う側に
回って握手を求めた。
一度引き上げた馬と騎手は、表彰式と勝利ジョッキーインタビューの
為に、もう一度戻らなければならなかった。
その前に後検量の為、一旦検量室に向かわなければならない。
検量室に入った時、既に写真判定の結果は出ていた。

下は私がこのレースで一番好きな場面なのだが、残念ながら何度やっても
ピンボケの画像しかとれなかった。

後検量の検量室で握手を交わす二人。背中が武豊騎手、横顔を見せている的場騎手。

このレースについて画像を切り貼りしたり、駄文を書き連ねる事は
控えさせて頂きたい。

1つだけ記しておきたいのは、当時3歳(当時の馬齢表記では4歳)で
後にバケモノとなるテイエムオペラオーの、この秋のローテーションだ。

秋一戦目を京都大賞典(芝2400m3着)、2戦目菊花賞(芝3000m2着)、
3戦目ステイヤーズステークス(芝3600m2着)、
そしてこの有馬記念(芝2500m3着)。

この時からある意味既にバケモンだったのはわかるが、今なら
”〇す気か?”とファンから大バッシングを受けるだろう。
それともこの時から既に将来の”秋古馬3冠”を見据え、戴冠する為に
慣らしたとでもいうのだろうか?

それはともかく。

以下は10分54秒と少々長いが、レース映像から判定、勝利ジョッキー
インタビューまで一通りが納められている。
再生される方は、いきなりの大歓声から始まるのでボリュームの調整を
されてから再生して頂くよう願いたい。

なお、テレビ放送でのパドック解説で著名な競馬評論家の大川慶次郎氏が、
この有馬記念の5日前、高血圧性脳出血で逝去。
グラスワンダーの事は、”右回りならルドルフ級”と評価していたらしい。
旅立たれる前、生涯最後の予想は”グラスワンダーの勝利”だったという。

明けて2000年、5歳(当時の表記では6歳)となったグラスワンダーの状態
はまたしても悪く、尾形調教師が骨折を疑ったほど歩様が
乱れていたという。

春に向けて再始動は3月の日経賞(GⅡ芝2500m)に決定したが、
調整による状態良化は見られず、体重は530kgまでに増えていた。
(99年有馬記念の時は512kg、その前走毎日王冠の時は500kgであった)

結果は6着。

この結果に、春の天皇賞の出走計画は白紙となった。
だけでなく。

以降、引退までグラスワンダーの凱歌が競馬場に響く事は無かった。

日経賞の次走、京王杯スプリングカップ(GⅡ芝1400m)9着。
次走、宝塚記念(GⅠ芝2200m)6着。
ゴール後、歩様がおかしかった為向こう正面で騎手が下馬、馬運車でコース
を後にし、すぐにレントゲン撮影をした所、レース中の骨折が判明した。
すぐさま尾形調教師は、引退を表明した。

15戦9勝、GⅠ4勝。
稀に見る名馬だったといえる。

そのずば抜けた競争能力が、グラスワンダーの競走馬としての生命の躍動を奪ったともいえるのではないだろうか?

2024年第41回ホープフルステークス、スローで再生される
勝者クロワデュノールのどこかリラックスしているような、
楽そうに見えるストライドを伸ばす姿を観ながら、
(どこか似ている・・・グラスワンダーに、何かが)
と感じた。


(続く)





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