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Fixed Match -1 /2

先日10月13日に行われた第29回秋華賞、1番人気チェルヴィニアの差し脚
は見事だった。

ルメールさん、仕事をするところではきっちり仕事をする。
仕事をしない時とのメリハリが効き過ぎていて、もはや観ていて眩暈が
する。芸術の域に達しているといえるだろう。

横の馬にふたをされる形になってしまい、直線、最後の200mしか競馬を
してない2番人気、ステレンボッシュを尻目にチェルヴィニアから1と3/4
馬身遅れて、0.3秒差の2着に突っ込んできたのは5番人気のボンドガール。
鞍上・武豊。

針の穴ほどの可能性しかなくとも、この人はいく。
武騎手は多分、いや当然このレースも、勝とうと乗っていたに違いない。
そうでなければ、着差は1と3/4より開いていたと思う。
万が一にも勝ち目は無いとしても、勝つ為に馬を追う。
その”勝つ”事への”本気度”が、他のジョッキーに比べて桁外れに強い。
馬追う姿や位置取りを観ていると、いつもそう感じさせられる。

多分、この人にとって馬に乗る事以外の事は、どうでもいいとまでは
言わないが、あまり関心が無いのではないかと思える。
昔、テレビのインタビューで、金曜と土曜の夜は調整ルームでどう過ごして
いるのか聞かれ、翌日に乗る全てのレースのシュミレーションをやっている
と答えていた。

それも1レースにつき200通りものシュミレーションを重ねるのだそうだ。
そのうちその途中で寝落ちする事もあるという。

JRAの騎手はレース前日の金曜21時までに、東西両トレーニングセンター
か各競馬場の調整ルームに入らなければならず、その上で外部との接触・
連絡禁止、24時間缶詰状態で過ごさなければならない。

競馬法に定められた”公正なレースの施行”という名分に乗っ取った、
八百長防止の為の措置の一つ。
それが調整ルームという制度が用いられている主な理由だと解釈できる。

”金曜夜21時には、調整ルームに入りましょう、そこで日曜日最終レースが
終わるまで、外とは一切連絡を取らずにみんなで楽しく過ごしましょう”
などと、競馬法には一言も書かれていない。

あくまで”公正に”やんなさいよ、という事しか。

国というお上が催すテイでやるんだから、間違っても八と百の長い奴
なんかと髪の毛一本ほども関わってるような風評すら立たないように
やってね、という事である。

そのお達しを受けたJRAが、競馬法の条文を基に定めた”内規”によって
調整ルーム他、細々としたルールや制度を定めている。

調整ルームには、食堂は当然の事ながらサウナや娯楽室、筋力トレーニング
等行えるトレーニングルームや酒を飲む場も提供されているという。

どこまで”快適に”過ごせているか、というのと同じように、個人間で違いは
あるだろうが、”2日間缶詰状態で過ごさなければならない”というストレス
が、その調整ルームにおける快適さとトレードオフになるかいえば、
私はならないと思うし、快適さやストレスの度合いに違いはあっても、
調整ルームの快適さでストレスが多少軽減はされても無くなる事はない、
と考える。

年に何回か、というなら話は別だが、毎週2日間となってくると、
その2日以外の5日間との間に、これも個人差はあれど多少の”落差”が
生じてくると思う。

毎週となると、その少しの落差が、わずかかも知れないが週2日以外の
残り5日間にも影響を及ぼすはずだ。
ほんのわずかかも知れない。
だが週2日の為に、残りの5日間で少しだが確実に犠牲となる事があって、
騎手である限り、それがずっと続いていく、としたら。

多分多くの人は、そのわずかな犠牲というストレスを軽減しようと
するのではないだろうか。
最初は落差に対して、気持ちのスイッチを切り替える事で対処できて
いても、毎週毎週、何年も続いていくと、スイッチを切り替える事が
呼吸するのと同じくらいに自然な事になる人もいれば、スイッチを
切り替えるより落差を埋めて見えなくしてしまった方が楽だという
人もいるだろう。

私は圧倒的に後者が多数だと思う。
私もそうだし、その筆頭となれる自信がある。

そう、気持ちを切り替えるより落差を埋めてしまえば良いのだ。
問題を軽く見ているわけではなく、ストレスを軽くしたいだけだ。
わずかな犠牲というストレスを、ほんのわずかな取るに足りない事とし
て気にしないでいられるよう、ストレスを軽減する為のその行為は、
ほんのわずか少しの間、横道に逸れるだけの取るに足らない事・・・。

そんな風にごちゃごちゃ考えていたわけでもないと思うが、またも
妄想全開で申し訳ない、実際の心理作用がどのようなものだったのか
はわからない。

調整ルームに携帯等通信機器の持ち込みが制限(禁止ではない)された
のは、2011年5月、確か大江原圭騎手が調整ルームにいる時間帯に携帯
から思わずリツイートした事が発端だったと記憶している。
(比呂さん、脱水良くなりました?

※今年デビューした大江原比呂騎手(女性)は、圭騎手の従妹

今年デビューの新人騎手が体重調整もままならず水抜きをやって脱水
で馬に乗れず当日急遽乗り替わりになるという前代未聞ぶりは嫌い
じゃないですが、ボクサーなら試合前だけなのを騎手は引退まで体重
を調整してなきゃならない。水抜きまでしなければ調整できない体重に、
従妹さんの命をかけさせるのですか?
確かに命のかかった職業だと思いますが、かける所がズレてる気が
します。まだ若い、早いうちに・・・余計なお世話ですが。

思い切りのいいスタートダッシュは好きですが、失礼ながら比呂さん、
着やせするタイプとは思えませんし、6月のズイウンゴサイでの初勝利
以降、何かが弾けたようにメキメキ”力”つけてきている所を勿体ないと
も思いますが。
あと、追走時の背中の上下動、あれ何とかなりませんかね?
馬が不憫で・・・いえすいません、余計な事でした。
くどいですが、騎手が命をかける所は馬の背中であって、
体重計の前ではないと思います)

大江原圭騎手のリツイート以降、調整ルームへの通信機器持ち込みが
制限(原則持ち込み禁止、ダウンロードしたレース映像等見る為に
持ち込むのはOK、という事だった模様)されるようになった2011年、
その後も調整ルームからツイッターへの投稿は止まなかった。

2013年7月原田敬吾騎手、2015年3月クリストフ・ルメール騎手(あんた!
ローズステークスでレガレイラ飛ばしといてこんな事しとったんか?
いや知っとったけど)、2016年10月丸山元気騎手(時々お世話になっ
とりました。ゴール前の直線、どっから飛んできたんや?という所からの
差し、大外も馬群を割ってくるのもえぐるように伸びてくる内からも
来る時はどこからでも来るというあのえげつない節操のなさ、
今後も期待してます)。

彼らは皆、30日間の騎乗停止処分を受けている。

ところで、職場で後輩は何を見て育つか?
決まっている。

”先輩の背中”である。

昨年の2023年5月。
さすがに金曜21時から日曜最終レースが終わるまでの間にX
(元ツイッター)投稿する猛者はいなくなっていたが、
6名の新人騎手たちが、調整ルーム内にスマホを持ち込み、
動画閲覧やその6名同士の中でのLINE、電話機能での通話など
をしていた事が発覚。

後に彼らは”スマホ6”と呼ばれ、今や競馬界の伝説となっている。
(ネット競馬民の間でだけです)
彼らも騎乗停止30日間だった。

この時、株を上げた騎手がいた。
スマホ6に若手の女性ジョッキーの中でたった一人入らなかったその人は、彼らの先輩にあたる。
彼女だけは調整ルームにスマホを持ち込まなかったという事で、
”やはり覚悟が違う”と称えられた。

そのジョッキー、藤田菜々子騎手が10月10日、騎乗停止となり、
その直後、同ジョッキーから引退届提出、10月11日、JRAがその
引退届を受理、藤田騎手は藤田菜々子”元”騎手となった。

理由は、スマホの調整ルームへの持ち込み。
それだけではない。
持ち込んだそのスマホで”外部の人間と通信した”のである。

相手は厩舎関係者だという事なので、業界的には内部かも
知れないが、”調整ルームの外にいる人間と直接通信した”
という事が重大な過失となる。

正しいか間違っているかは別として、”公正なレースの施行”
をうたう競馬界においては一振りで三振、一発レッドカード
と言っていい。

グレーではあるが、これは単なる”内規違反”に留まらず、”法律違反”
として”犯罪”にすらなり得る可能性がある行為となってしまう。

競馬法というのは、法律なのである。

JRAに所属してはいるが、騎手はJRAの職員でも部下でもない。
一人一人が、JRAと契約を結んだ個人事業主である。

JRAが契約相手である騎手の素行によって、自身の業務に著しい損害
を受けたと考えれば、実際に起こる事はないだろうが、場合によって
は騎手を訴え、警察に引き渡す事だってあり得るのだ。

ましてや、例え疑惑でも八百長のイメージをユーザー、つまり私らの
ような競馬ファンに欠片も持たれたくない、という事で、だから八百長
疑惑に繋がるような行為、言動にJRAはことさら神経をとがらせている。

そうした背景から今回の藤田騎手の件、経緯と自分なりの考察を、順を
追って整理させてもらいたいのだが、とりあえずここまでで既に3000文字
を超え、4000文字に迫っている。

一旦ここで区切り、パート2で終わりとさせて頂きたい。

事件の経緯などもうご存知の方は、あえて時間を使って読む必要も
ない内容だが、次のレースに取り掛かる為に、一旦この件の自分なり
の考察を整理しておきたいのである。

天変地異でも起こらない限り、馬たちは走り続ける。
いよいよ次は菊花賞だ。
その前の気持ちの区切りとして。

お時間ある方は、またお付き合い願えればと思います。


<続く>



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