見出し画像

『filigree and shadow』 THIS MORTAL COIL


【私の音楽履歴書】  #43  THIS MORTAL COIL ②


Spotifyに「Spotifyまとめ2024」として今年一年に自身が聴いてきたその傾向がまとめられていた。
櫻坂46を推している身として1位は当然の結果なんだが、2位にThis Mortal Coilが入っていたのは自分でも意外だった。

今回とり上げるのはThis Mortal Coil(ディスモータルコイル/ 以下TMC) アルバム三部作の第二弾である。
昨年6月に第一弾『IT'LL END IN TEARS』を本マガジンで取り上げてから、気づけば早や一年半が過ぎていた。

第二作『filigree and shadow』(邦題/銀細工とシャドー)は86年にリリースされた作品だが、その時期はレコードとCDとの束の間の共存期間でもあった。
今でこそ、レコードのアナログ感とジャケットのアートワークが再注目されてはいるが、当時の私は、音源の主媒体としての意識は、既にCDに移行していた。
ただ本作は、国内盤発売当初レコード盤のみの発売であったと記憶する。そしてそれは私の住む四国の片田舎のレコード屋さんでも並んではいた。
しかし、既にアナログ音源に見切りをつけていた私は、どうしてもCD音源で聴きたくて、それを購入することはしなかった。
そして、当時大阪にあったWAVEに往復はがきで輸入盤CDの在庫確認をした上で代金を振り込み、ようやく手に入れた。
私の居住地に近い高松では、輸入盤CDショップが展開されてきたのは、その数年のちであったから、それが当時選択しうる一つの方法であった。
ネットショッピングが普及定着している今から考えれば、こんなアナログな方法は、まさに隔世の感ありといったところだろう。

さて、私が購入を見送ったレコードは二枚組であった。AB両面の二枚ということで、それぞれの面から計四つのテーマがあったということだが、それは後で知った話でもあり、その事自体は特に興味を引く話でもなかった。
一方、CDは当時の収録可能時間であったろう目いっぱいの74分余りを一枚に収めていた。

CDジャケット
LPジャケット

このTMCプロジェクトの三部作のうち、”一般的”な代表作としては、恐らく一作目の『IT'LL END IN TEARS』になるのだろう。
私もそのつもりで紹介してきた。
ただ、二作目、三作目がそれに劣るかというと、一概にそうとも言いきれない。
そしてこの二作目は、深遠さをも含んだものであったが、私にすれば「問題作」とも言えるほどの内容のアルバムとも言え、当時としてはその収録時間の長さもあり、一枚を通して聴くのがいささかしんどいな…と思ってもいた。当たり前だが人により好みは分かれるだろう。

4ADレーベルは、当時注目を集めていた「ワールドミュージック」にも依拠した音楽作品と、それに影響を受けているであろうアーティストが在籍、そして起用していた。
その一つとして当時話題となっていた「ブルガリアン・ヴォイス」を取り上げ『Le Mystere des Voix Bulgares'』(邦題/ブルガリアの神秘の声) を同じ86年に発表している。(日本発売は87年)
ブルガリア民謡を“女声合唱”で聴かせるのだが、その伝統的で独特の歌唱法は世界を驚かせた。
ビブラートに頼らない地声を柱にした”不協和音“で「こんなコーラスがあるのか⁉」と当時、私自身も戦慄を覚えた。
日本では、88年にはHONDA、キユーピー、AGF、日立などが、それぞれCM音楽として起用している。(YouTubeでは当時のCF映像と共に確認出来るので参考までに)

⚫ Kalimankou Denkou

4ADとしては、レーベル所属のアーティストではない音楽分野の紹介ではあったが、レーベルオーナーであるアイヴォ・ラッツ=ラッセルの視点と美意識を感じさせるものであったと言える。

そんな関係性も意識しながら本作品を聴くと、当時の音楽の志向〜トレンドの一端を知ることが出来るだろう。



本作もコクトー・ツインズのサイモン•レイモンドをはじめとしたレーベル所属のアーティストを中心に、アイヴォお気に入りのカヴァー曲などと、楽曲を繋ぐ、いわばブリッジといえるオリジナルのインストゥルメンタルで構成しながらほぼシームレスで聴かせていく。
ゆえに個別に紹介していくと、どうしても“ぶつ切り感”があり、その辺は難しいところなのだが、サブスク等で一枚を通しで聴くと作品の特徴はおわかりいただけると思う。

◇ Spotify

◇ YouTube Music

幸いSpotifyやYouTube Musicでもこの作品を聴くことが出来る。

「通し」で聴いてこそのアルバムであると、百も承知しているのだが、敢えて、私が特に好きな作品をピックアップしていきたい。

Velvet Belly  (1)

アルバムオープニング曲。エスニックなアレンジがここでも当時の音楽シーンのトレンドを物語っている。
国内外のアーティストに多大な影響を与えたバンドと言われているSiouxsie And The Banshees (スージー•アンド•ザ•バンジーズ) のMartin McCarrickの作品で恐らく自身によるチェロ演奏であろう。

The Jeweller  (2)

オリジナルはアメリカのサイケデリックフォーク・ロックバンドPearls Before Swine (パールズ•ビフォア•スワイン) 1970年の作品。
4AD所属のバンド Breathless(ブレスレス) のボーカル、Dominic Appleton(男声)とスコットランド•グラスゴー出身のLouise Rutkowski(女声)の歌声が幽玄の世界に響いている。

Meniscus  (4)

インストゥルメンタル。
Dif Juz (ディフ•ジュズ) は4AD所属のギターサウンドをメインにしたインストゥルメンタル•ポスト・ロックバンドで、そのギタリストDave Curtisの作品。
その彼の繊細なギターは言わば深淵の静寂を奏でている。
寂寞の世界に研ぎ澄まされたその音色だけが響いていく…TMCの真髄とも言える。


Tarantula  (6)

同じく4AD所属の Colour Box(カラーボックス) のオリジナル作品をカヴァー。
ここもDominic AppletonとLouise Rutkowskiの歌声が
オリジナルとは全く違うリアレンジで、TMC作品に仕上げている。

Strength Of Strings  (10)
Morning Glory  (11)

アメリカの伝説的なフォーク・ロックバンドであるByrds(バーズ) に所属していたGene Clarkの作品。
ここでもヴォーカルのDominic AppletonとLouise Rutkowskiのコンビネーションが光っている。

それに続く「Morning Glory」は、前作のメインとも言える「Song To The Siren」と同じくTim Buckleyのカヴァー。
この流れが本アルバム中で私が、最も好きなところだ。
Louise Rutkowskiの歌唱がとてもいい。

I want to Live  (13)

Gary Oganが彼の盟友Bill Clarkと組んだ時の作品のカヴァー。
Louise Rutkowskiが、姉のDeirdre Rutkowskiと共に謳い上げている。

Thais 1  (16)

ヘリコプターのプロペラ音と覚しき音が響く中、このアルバムも終章へと向かい始める。

Red Rain

サイモン•レイモンドとアイヴォ、そしてジョン•フレイヤーというTMCプロジェクトの中心メンバーによる作品。

Heavenly BodiesのヴォーカリストCaroline Seamanの歌声が時折バックに流れる中で、響き渡るサウンドが終わりへの儚さを呼び寄せる。

Thais 2  (25)

全25曲のラストに「Thais」と題したPart 2 の音で締めくくる長篇の本作となる。


尚、YouTubeの映像はそれぞれのクリエイター作成のもので4AD公式のものではないのであしからず〜
映像で変にイメージを固定化し影響を及ぼすのもどうかな?と思うので、自身のイマジネーションを尊重して欲しい…と〜


最後に主なカヴァー曲のオリジナルと彼らのオリジナル作品を一部紹介しておきたい。
この対比から、レーベルオーナーIvo Watts-Russellと共同プロデューサーであるJohn Fryerの統一した美意識によるTMCの世界観が浮かび上がってくる。

Pearls Before Swine『The Jeweler』


Dif Juz 『A Starting Point』

85年の彼らのアルバム「Extractions」から〜
デイヴ、アラン兄弟によるツインギターが彼らのサウンドの柱。

Colour Box 『Tarantula』


Gene Clark 『Strength of Strings』


Tim Buckley 『Morning Glory』


Gary Ogan and Bill Lamb 『I want to Live』


〜TMCの音楽を聴くと、蘇る感情は”懐かしさ"である。
当時の断片的な記憶は、美化し補正され自己正当化されているところは多分にあるだろう。でも、それでいい…
全ては時の流れ…
この”浮世の煩わしさ"に、今も昔も翻弄されながらも、ここに生きていることを、ただただ実感するのみだ。

いいなと思ったら応援しよう!