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『BROTHERS IN ARMS』 DIRE STRAITS

 【私の音楽履歴書】 # 31  DIRE STRAITS


ラウドネスのギタリスト高崎晃がレイジー時代に、ある雑誌に最近聴いている音楽として、ダイアー・ストレイツの1stアルバム『DIRE STRAITS』を上げていたと朧気ながら微かに記憶している。
彼と、ダイアー・ストレイツのフロントマンでギタリストのマーク・ノップラーのギタープレイスタイルは全く異なるものだが、彼の天性のギタリストスピリッツをして、イギリス発の、当時まさに注目を集め始めていたグループに自然と呼び込まれ惹かれたのであろう。

後から振り返ってみると、彼らのデビューシングル「Sultans of Swing」(邦題/悲しきサルタン) は、78年当時の洋楽シーンでは異質なものであった。ディスコ(ビー・ジーズ、ブロンディ…)パンクロック/ニューウェーブ(ザ・ジャム、クラッシュ…)等が主流の中では、明らかに渋すぎるのである。
そして、こんな音楽が「当たる」とは世の中わからないものだ…と子供ごころに当時は思っていた。
他人(ひと) とは違うものを聴いてるよ〜と言わんばかりのマセガキが精一杯背伸びをして、彼らをみていたのが実際のところなんだが、こうして歳を重ねて今も聴き続けている音楽に、マーク・ノップラーと彼らがいるということは、やはり自分の心の奥では彼らの音楽が響いていたということの証なのだろう。

当時の社会情勢は、はなたれ小僧だった田舎の少年でも、やはり不景気であったというのは記憶している。
そんなある種の閉塞感に満ちた社会に、音楽がもろに影響を受けるのは、今も昔も変わりはない。翌79年に、イギリスではサッチャー政権が誕生している。

⚫Sultans of Swing

 
 ダイアー・ストレイツは、今年もっとも期待されるグループとして脚光を浴びているイギリスのニューグループだ。マーク・ノップラー (リードギター、ヴォーカル) デヴィッド・ノップラー (ギター)  ジョン・イリスレー (ベース) ピック・ウイザース (ドラムス) といった 4人編成で、中でもグループの大きな個性となっているのが、マーク・ノップラーの味わい深いヴォーカルと硬質のトーンでサウンドに起伏をつくりあげるリード・ギターだ。グループがロンドンのクラブを中心に活動をはじめたのは、77年の秋のことで、翌78年の6月にはデビュー・アルバム『ダイアー・ストレイツ』を発表。それがまたたく間に話題になり、今年もっとも期待されるグループとして脚光を浴びるようになった。
 基本的には、パブ・ロックの流れを汲んだグループで、ブルース、ロックン・ロール、リズム&ブルース、そしてカントリーに至るまでアメリカの泥くさい音楽性を基盤にして、さまざまな要素、スタイルをとり入れて独創的な演奏をきかせてくれる。決して斬新な試みがみられるわけではないが、ヴォーカルとバックの演奏、そしてそれぞれの楽器を絡ませながら、見事なアンサンブルによってリラックスしながらも緊張感にあふれた音の空間を展開させる。またそれが、ときにはたまらないほどスリリングな歌心をひきだしたりもするのだ。そのアンサンブルの志向が、このグループのもっとも大きな魅力であり、今後の可能性だ。ときおり、J・J・ケールあたりの泥くささを感じさせるが、イギリス特有のユーモアの感覚でその感触をイギリスの土くささへとすりかえてしまう。しかも、その土くささの中にもどこかハードでタイトな都会的な感覚があるなど、新しい時代感覚が、このグループの存在感を新鮮できわだったユニークなものにしているようだ。
 ボブ・ディランの『ウォッチタワー』をも彷彿とさせるシンプル、ストレートで軽快なビートを生かし、そこにアクセントの強いギターがからんで起伏にとんだなんともいえないほどすばらしい演奏がきけるこの『悲しきサルタン』は、このグループの魅力が如何なく発揮された曲だ。そして現在ヒット・チャートを快進撃し、アメリカでも旋風を巻き起こしつつある。いや、やっぱりこの曲をしても、ダイアー・ストレイツの魅力を感じるには、断片にすぎないような気がする。

『悲しきサルタン』日本盤シングル ライナーノーツ 天辰保文氏の解説より引用

78年にデビューし幾度かのメンバーチェンジを繰り返しながら、88年に一旦の幕を閉じて解散する。
その後、散発的一時的に数度の再結成も行われた。

⚫Lady Writer


⚫Money For Nothing

当時、主要な音楽コンテンツとして、ミュージックビデオが隆盛を極める中、MTVを揶揄し皮肉ったこの楽曲がMTV Video Music Awardsで最優秀ビデオ賞を受賞するなど、なんとも皮肉な流れとなっていた。
歌詞には、今日(こんにち)的には如何なものか?と思われるスラング・差別用語が頻出し、マーク・ノップラーとバンドの独自のスタンスが垣間見れるが、それすら余裕と思わせるところに彼らの風格を感じた。
そしてマーク・ノップラーと同じニューカッスル出身のスティングが参加していることが何より特筆すべき点であろう。

⚫Your Latest Trick

『出没!アド街っク天国』(TX系) 番組内でのランキング紹介の際のBGMに採用される機会の多い楽曲との認識も強い。(前に紹介したカーズの「Drive」も同様)
オシャレなホテルの高層階のバーなどで流れている風の「さもありなん…」のイントロだ。

“我が道を行く”という彼らのスタイルだが、このアルバムは”狙ってきた“と思わせる商業的志向も感じられ、これが彼らの音楽として、わかりやすい側面はあったであろう。(いい悪いは別にして)


⚫Ride Across The River


⚫The Man's Too Strong


⚫Brothers In Arms

フォークランド紛争をテーマにした作品と当時から言われている。「Brothers」の表現に戦友の意味合いが多分に含まれているのは欧米の戦記物映画の例を上げるまでもない。
アルバムのラストにこの曲を据えるマーク・ノップラーの真意や如何に…
壮大なテーマの中で、深遠に鳴り響き、むせび泣く彼のギターの音色が儚く、物哀しい…


⚫Calling Elvis

91年に再結集したメンバーによる彼らの6枚目、そして最後のスタジオアルバム『On Every Street』が発売された。
そのアルバムリード曲のMVである。
このMVの初見では「あっ」と驚いた。サムネにも出ている通りメンバーのマリオネットが『サンダーバード』そのものだからだ。そしてなんとサンダーバードの映像がそのまま挟み込まれている。これには、幼年期に「サンダーバード」の何度目かの再放送を観てきて、多大な影響を受けている私には歓喜ものでもある。
“King of Rock'n Roll” エルビス・プレスリーを題材にしながら、アメリカではさほど評価されなかったというサンダーバードをぶち込むあたり、さすがはイギリスのバンドであるなぁ…と苦笑混じりに観てもいた。


⚫Sailing to Philadelphia

2000年に発売されたマーク・ノップラーのソロ・アルバム第二作の『Sailing to Philadelphia』からの同名アルバムタイトル曲。
アメリカの南部と北部の境界線「メイスン&ディクソン線」を題材にしたトマス・ピンチョンの小説『メイスン&ディクソン』からインスピレーションを得たという楽曲。
南北戦争が起こる約100年前に、天文学者のチャールズ・メイスンと測量技師のジェレマイア・ディクソンが作ったという境界線のテーマの歴史的背景は日本人である私には理解しづらいところではあるが、二人の対話形式の楽曲として、マークがディクソンの役回りとなり、メイスン役をジェームス・テイラーに依頼した。
ジェームス・テイラーといえばJ.D.サウザーとの81年のデュエット曲『Her Town Too』(邦題/憶い出の町)が私には印象が強い。

⚫Her Town Too



”いぶし銀“〜”渋さの極地”と評されるマーク・ノップラーのギターは多くのミュージシャンとの交流からも、そのスタイルが注目されてもきた。
そのボーカルからボブ・ディラン、そのギターからJ・J・ケイル、エリック・クラプトン〜と彼が影響を受けたであろうレジェンドたちと、後に共演、楽曲参加をしてきている。
スティーリー・ダンやブライアン・フェリーのアルバムのギタープレイは、例えクレジットがなくとも、彼のプレイ以外にはあり得ないとハッキリ認識出来るほどの名演だ。
ピックを使わない“指引き”〜フィンガー・ピッキングが奏でる独特の「音」は長年、私を魅了して止まない。
ダイアー・ストレイツとマーク・ノップラーの半世紀近い音楽の旅の歴史は今後も渋く、且つ鮮やかに輝き続けるに違いない。

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