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【Her Odyssey】1日目

●1日目

『スペードの2』

 顔にあたる風が心なしか涼やかになる。次に木々や苔の匂いがして、ボクはそろそろ森林に入ろうとしていることを知った。
 ボクはここまでずっと道なりに歩いてきたし、とりあえず獣道しかないなんてことはないようだ。少し迷ったけど、ボクはこのまま歩いてみることにする。街道に比べるとやはり足場は悪く、木の根のような硬いものを踏む感触が心地よい。

 さて、旅人か魔術師であれば知っていて当然ではあるが、森を歩くために一つやっておくことがある。
 それはこの森の樹木の一部を身につけておくこと。そうすることで格段に歩きやすくなるのだ。案内人を頼むなら現地の人が良いに決まっているだろ?

 幸いすぐに丁度良いサイズの木枝を拾うことができた。ナイフで丁寧に削り、それを杖にしてみる。……うん、良い感じだ。使い勝手を試そうと立ち上がると、ぽとりと何かが足下に落ちた。触れてみると少し冷たく、つるつるした――木の実のようだ。
 思わず拾い上げて、見上げる。髪を揺らすように優しい風が吹いた。
 どうやら木々の精霊も、この不躾な旅人の訪れを歓迎してくれるらしい。
 一口齧ってみると、柔らかな果肉の甘酸っぱい味が口に広がった。