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【Her Odyssey】19日目

『ダイヤの6』

 田園地帯を抜けて暫し。ボクの感覚でも歩きやすい道が続いている。
 集落という程ではないが、ちらほらと人も住んでいるようで話し相手にも事欠かなかった。泊まる場所を借りたりしながら、ボクたちはのどかな旅を続けていく。
 やがて、一つの小屋のある場所に出た。話を聞くと、どうやら子供が病に伏しているという。
 ボクは医者ではないが、魔術師ではある。何か役に立てることはないかと、少しだけでもと容態をみせて貰うことにした。
 こういうのは持ちつ持たれつだ。

 ベッドに寝かされた子供は、ぐったりと弱っていた。発熱と湿疹、たまに軽い咳が出る。症状は発作的に起き、伏してからもうずいぶん長いらしい。
「お医者様に診て貰っても、原因不明なのです」
 ボクは魔術を使い、この子の病気を診察した。結論から言うと、治してあげることはできなかった。
 魔術を通しても原因は不明。ただ、子供からは精霊の影響のようなものを薄らと感じた。土地柄のものなのか、それとも呪いのようなものなのか。

 せめて症状が楽になる薬草を煎じて渡す。これは現状維持しかできないから、解決策にはならないだろう。家族はお礼を言ってくれたが、申し訳なく思う。
 魔術師も無力な時は無力だ。寄り道にはなるが明日は少しだけ、周囲を調べてみるのもいいかもしれない。