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【Her Odyssey】25日目

『ダイヤのジャック』

 ボクは今、海の上にいる。
 この連絡船は風の精霊の力を借りて進んでいるようで、海面を滑るように穏やかに進んでいることだろう。 潮の香りのする風が顔にあたって気持ちが良い。
 ボクの腕の中で、キィ君も嬉しそうに鳴いていた。
 自分の足で歩かなくて良い旅路は、少し不思議な感じがする。
 穏やかな時間はしばらく続いた。

 やがて、がやがやと人の声がするのを聞く。
 話を聞けば、どうやら前方に巨大な鯨が居座っているらしい。もう少し早く気付けば良かったのだが、このままだと間に合わずにぶつかってしまうのだそうだ。
 船の乗組員は皆困ったように、口々に解決方法を模索していた。
 だからボクは、協力することにした。

 こうなると恐らく、なんとか迂回するしか道はないのだろう。
 ボクも舵を手伝い、力一杯に船の方向転換を行う。でも、やっぱり間に合いそうにない。

「鯨の方に動いてもらうしかないかも」
「キィ!」

 キィ君も賛成してくれたようなので、ボクは寝袋布を広げて呪文を唱える。
 今は海風が強いから、上手く乗れば飛べるはずだ。

「鯨のところに行ってくる。衝突しないで進めたら、ボクのことは放っておいてくれていいから」

 乗組員の皆はとても心配してくれたけれど、大丈夫だと言ってボクは飛ぶ。
 鯨のいる方向は見えないけれど、キィ君が示してくれるから大丈夫そうだ。