ノンバイナリー(Xジェンダー)として戸籍の改名に成功しました
はじめまして、シマダスバルです。
普段はバーチャルシンガーソングライターである「Écho」の運営でありリアルの側面を担当しています。
Échoの作品の中にも「すばる」として登場したことがあり、一部Échoリスナーの方には認知されているかと思いますが、この度はÉchoとしてではなく「すばる」本人としてお話させていただきます。
さて、今回お話したいテーマは「ノンバイナリー(Xジェンダー)として戸籍の名の変更に成功した」件、その方法についてです。
インターネットを検索すれば、ノンバイナリーでも戸籍の名を変更できた事例として、すでに詳しい手順などをまとめられている方の記事はいくつかヒットしますが、いくつか私とは異なる点もありましたので、これから改名をしたいと考えている方の参考になればと思い簡単に記事にまとめてみることにしました。
まず私自身について、肉体は女性として生まれたが心の性が男女どちらでもない「無性別」であると自認しています。
このような性を表す言葉として、ノンバイナリー、 Xジェンダー、中性や両性など様々な表現があると思いますが、今回は私の自認に最も近いものとして、この「無性別」という言葉を使用させていただきます。
戸籍上女性である私は、これまでの人生を本名である女性的な名前で過ごしてきました。
響きや字面でいえば「花子」のような雰囲気の名前であり、自らを女性とは自認していない私にとって、この名前を名乗ることや人から呼ばれることは大変な苦痛であり辱めでした。
約2年ほど前に、社会生活のうえで戸籍に記されている以外の名前を名乗る「通称」の存在と、その名前に戸籍を改名するチャンスがあると知った私は、生活のなかで可能な範囲において通称名を使用しはじめました。
※男女どちらでもない「無性別」としていますが、振る舞いやファッションの上ではどちらかといえば男性寄りであり、この後に登場する通称名やエピソードも男性側に寄っているので、ほかのノンバイナリーの方には必ずしも当てはまらないかもしれません。あくまで一例として捉えていただけると幸いです。
1.名の変更の手順
戸籍の名前を変更するにあたって私が行った手順としては以下のとおりです。
1.通称名の使用実績作り
2.医師に診断書を作成してもらう
3.居住地の家庭裁判所にて名の変更許可の申立てを行う
上記について順番に解説していきます。
2.名の変更許可の申立てにあたって必要なもの
そもそも、戸籍の名の変更を行うには家庭裁判所の許可が必要です。
“正当な事由によって,戸籍の名を変更するには,家庭裁判所の許可が必要です。
正当な事由とは,名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合をいい,単なる個人的趣味,感情,信仰上の希望等のみでは足りないとされています。”
(裁判所ホームページより引用)
申立てを行うには、「名の変更許可申立書」を記入し、居住地の家庭裁判所に提出する必要があります。
この申立書の書式と記入例は、裁判所ホームページからダウンロードすることができます。
ここに書かれている申立ての理由として、奇妙な名であることや難読であること、外国人と紛らわしいことなどが挙げられていますが、今回のケースである「性別違和」はこの中に含まれていないため、「その他」の理由として申立てを行うことになります。
それにあたって、今回私が準備したものが「通称の使用実績」と「医師からの診断書」です。
通称名については、申立書の「申立ての理由」の中にも「(変更後の名前について)通称として永年使用した」ことが正当な事由のひとつとして挙げられています。
今回は性別違和を主な理由としているものの、通称としての使用実績は審査を通過する上で重要であるとされているので、こちらも使用していきます。
永年利用した、という部分について、私の調べた範囲では5年や7年などとされたものが見つかりましたが、私の場合は約2年間の使用実績で申請を行いました。
具体的にどのようなシーンで通称名を使用したかというと、郵便物(Amazonや楽天など)の宛名や、保険証などの本名が記載されている書類の確認を必要としない場面(飛行機の予約など)での名義として、また、YouTube活動上で必要な動画や音源などの依頼先の方との取引において、などが挙げられます。
それに加え、はじめて出会う方や友人のご家族などの前でも通称名を名乗るようにしました。
※調べた限りでは、医師の診断書があれば保険証やそれに紐付いた書類の名前も通称に変更できるそうですが、この時点では診断書もなく知識不足だったため、病院など保険証やマイナンバーの確認を必要とする場面では本名を使用していました。
これらの使用実績は、のちに提出書類の一つとして利用することになります。
次に医師からの診断書について、こちらは都内にある性別違和・性別不合を専門とするクリニックを受診しました。
それとは別に、私は複雑性PTSDという病気と発達障害で精神科に通院しているのですが、そちらの主治医に相談した際には専門でないとして断られてしまいました。
現在通院中の方は、そちらで書いてもらえるならそれでも良いと思いますが、私の場合は専門のクリニックのほうが話が伝わりやすく、比較的スムーズに診断書を書いていただけました。
また、この際の診断名は「性別違和」とされていました。
※この複雑性PTSDのほうも、のちに申立書に記入した内容の一部として関係してきます。
3.書類の準備
さて、いよいよ申立てを行います。
まずは通称の使用実績を、約10枚ほどの紙に印刷しました。
これは送られてきた郵便物の宛名のコピーであったり、ネットで買い物をした際の領収書、依頼した動画などの請求書や納品書のスクリーンショットをネットプリントで印刷したものです。
日付が書かれているものが有効なので、なるべく古い日付のものから順に印刷します。
また、医師に書いてもらった診断書のコピーも取ります。
(※原本を提出してしまうと返却されず、この後の手順で困ることになるので、必ずコピーを提出してください)
4.申立書の記入
申立書の書式を裁判所HPからダウンロードするか、家庭裁判所で直接受け取り、記入します。
私が記入した内容を以下にまとめます。
1.幼少期から自らの性別に違和感があり、名を名乗ったり呼ばれる際に精神的苦痛や恥ずかしさを感じていること。
2.過去には、男性的な振る舞いとそれに似合わない女性的な名前であることに対し、周囲から揶揄われたりいじめを受けたこと。
3.性別違和の診断を受けており、医師からも男性名への改名が精神的苦痛の軽減につながると診断されていること。また、性別適合手術の可能性も視野に入れており、社会的整合性を保つ上で変更が必要であること。
申立書には主にこの三点を記入しました。
また、その他の情報として、
・幼少期から長期にわたって虐待といじめを受けており、現在の名前とその記憶が結びついているため精神的苦痛を感じる。
という内容も記入しました。
この内容がどの程度審査に影響したかはわかりませんが、こちらについては特に診断書や証拠となる書類などを提出してはおらず、おそらく影響は微々たるものではないかと思います。
(性別違和と直接関係のない内容になってしまいすみません。類似の事情を抱えている方は、一応記入してみるのもひとつの手かと思います。)
まずはこれらの書類を、家庭裁判所に提出します。
5.裁判所から追加の書類の要求がある
書類の提出からおよそ二週間ほどで、家庭裁判所から封筒が届きました。
入っていた書類の内容としては、改名にあたってのより詳細な理由の記入といくつかの確認を求めるもので、記入する内容は最初に提出したものとほとんど同じでした。
裁判所の方の説明によると、直接裁判所に赴いて面談が行われるパターンと、このように書類が送られてきて手紙でのやりとりになるパターンの両方があるようですが、主に後者のパターンが多いとのことでした。
二通目の書類にも先ほどと同じ内容を改めて記入し、証拠として再度通称の使用実績や診断書を求められるのでそれらをもう一度印刷します。
ここでさらに、用紙のスペースでは書ききれなかったより詳細な内容を、「陳述書」として別紙に印刷し、手書きでの署名と捺印を行いました。
これも審査にどの程度影響したかはわかりませんが、念のため行って損はないと思います。
6.審判の結果
上記の書類を家庭裁判所に郵送後、約3週間後に裁判所から封筒が届きました。
審判の結果、名の変更を許可する、という審判書謄本です。
これで、晴れて戸籍の名を変更することができるようになりました。
このあとは、この審判書謄本を持って市役所で手続きを行います。
以上の手順で、名の変更ができました。
実績作りを含めると2年、申立てから審判が降りるまで約2ヶ月弱となりました。
あくまで私個人のケースなので他の方にも当てはまるかはわかりませんが、これから名の変更を行いたい方にとって、一例として参考になれば幸いです。
ちなみに、変更後の名前は「昴(すばる)」です。
この名前を本名として名乗ることができて、とても嬉しく誇らしい気持ちです。
それでは、また何かの機会にお会いできると嬉しいです。
(Échoリスナーの方は、2月のコミティアで私・すばるの過去についての漫画本が出るので、どうぞよろしくお願いします)