フランスのホームスクーリングシステム&国立通信教育センター(CNED)

フランスがコロナ禍で全国の高校・中学・小学校を閉校せざるを得なかった2020年の第一回の外出禁止令の時、さくっと、すでに存在していた「国立通信教育センター」(CNED)を利用することが決まりました。

まだ日本がテクノロジー先進国だった頃にフランスに来てテクノロジー音痴・テクノロジー嫌いのフランス人像が頭にしみついている(*)私としては、「おお!フランスやるじゃん!」と感動したものです。

*現在子供へのパソコン普及率はフランスのほうが日本よりはるかに高い。

実際はサーバが一度に全国の児童がアクセスにするのに耐え切れなかったり、先生たちの一部がうまく使えなかった・拒否したなどの問題がありましたが、それらの問題を解決すれば使えるインフラはすでにできていたのです。

フランスにおけるホームスクーリングは、両親の選択肢の一つとして、国が枠組みをつくっています。親の学歴も問われません。国立通信教育センターCNEDのサービスは、使用義務はありませんが、ホームスクーリングの支援システムの一つとして提供されています(やむを得ない場合でなく選択による場合は有料らしいですが)。

ホームスクーリングを選択する場合は、まず、住んでいる地区の市役所と、DSDEN (県教育委員会Direction des Services Départementaux de l'Éducation)にそのむねを申告します。

まず、市役所から、家庭状況の訪問調査に来ます(最初だけでなく16歳になるまで毎年来ることも)。また、学区のアカデミーから、毎年、学習成果のチェックと子どもが受けている教育の質のアセスメントに来ます。学習成果が十分でない場合は再度訪問に来たり、ホームスクーリングをやめて通学するように指導されたりします。家族にはこのアカデミーのチェックを拒否する権利はありません。

https://demarchesadministratives.fr/demarches/suivre-une-scolarite-a-la-maison

なお、国立通信教育センターCNEDは、ホームスクーリングのためだけにあるのではなく、そのシステムを利用して自分の学校で授業がない科目を学校の学習科目として履修し単位に勘定してもらうことも可能です。

私が日本語補習校で教えた生徒の中に、日本語を第一外国語にしてバカロレアを受けたいが、通っている高校では「第一外国語の日本語」のオプションがなく、そのオプションをとっていないとバカロレアで第一外国語の日本語が受けられないので、「国の通信教育CNEDで第一外国語の日本語」を選択して希望通りにバカロレアを受けられた子もいます。

ホームスクーリングに話を戻すと:
私の友人でも、7人兄弟が全員ホームスクーリングで育った人がいます。
ご両親は二人とも教師で、お母さんの方が仕事をやめて家庭で子供たちの勉強をみたそうです。オフィシャルには上記のように毎年学区のアカデミーの家庭訪問があるはずですが、両親とも公立校の教師で移民系でないフランス人だったということもあるのか、彼女が覚えている限りは家庭訪問はなかったそうです。

彼女自身はとくに問題や難儀を感じなかったそうですが、兄弟の中には「学校に行きたかった」とそのことで両親を恨んでいる人も一部いるとのこと。

ところが、2021年秋から、フランスの3歳以上の児童は、健康の問題などやむを得ない事情でホームスクーリングを受けざるを得ないケースをのぞき、全員、学校に通うのが義務になるそうです。

これはなにかと個人の自由な選択を重視するフランスでは大きな変化と言えます。

きっかけは、シャルリー・エブド事件の引き金になった風刺画を授業で話題にした歴史・地理学の教師サミュエル・パティ氏が原理主義者に殺された事件でした。

この事件を深刻に受け止めた政府側の狙いは、子供たちを排他的なコミュニティに隔離され、特殊な思想教育を与えられるのを防ぐことにあります。

フランスのユニバーサリズム(みなが同じ価値観を共有した社会を理想とする考え方)と、分離主義・コミュニティ主義(民族や宗教や思想など一部の人間だけで固まった排他的コミュニティで固まって独自の考え方と暮らし方で暮らすこと)は相容れないのです。

現在、フランスの学習制度外にいる、つまり実態が把握されていない未就学児童の数は5万人といわれています。

ソース:
https://www.sortiraparis.com/actualites/a-paris/articles/230688-ecole-obligatoire-des-3ans-lutte-contre-le-separatisme-et-cas-exceptionnels

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