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【short story】さよなら、人間惑星 2/3

[前回のあらすじ]

まもなく棲めなくなる地球。新しい惑星を目指した開拓者たち。
そこで出会った惑星管理者の宇宙人に、ササキは入植交渉のため地球の仕組みを説明し、
利権を仄めかすが、交渉は難航する。


宇宙人の回答

宇宙人は入植を断った。

「あまり言いたくもないが、あなた方と我々では、全てにおいての価値観が違うようだ。

はっきり言ってしまえば、地球人は知性あると自負しておきながら、あまりにもその知性が低い。

そのレベルではお互いにとってのメリットとなる交渉力に至っていない。

よって、この場で私が判断することで充分だ。」


地球人チームはまたもざわめいた。
それでも、ササキはめげずに食い下がった。

「し、失礼な!
念のためお尋ねするが、あなたがこの領地の統治者なのですか?
もしそうなら話しは分かるが、
もしあなたが、この宇宙船のただの司令官であれば公式の判断とは言えないはず!

そして我々は正式に交渉したいのだ!」


ササキは憤慨して、執拗に交渉に臨むが、
宇宙人のほうは、苦笑したまま方針を変える様子はなさそうだ。

というか
その後の話を聞いてもいない様子だった。

不意にササキの顔色が変わった。

「…そうですか。
どうしても交渉にも応じないというのなら、我々にも考えがあります。
あのロケットに核ミサイルを積んでいます。
場合によっては武力行使も考えております。」

核ミサイルの話を出したとき
宇宙人の顔は少し反応の色を見せた。

そこですかさず、ササキは食い下がる。

「もう一度、正式な交渉の場を持つことを依頼します!」

怒りを抑えて、唸るような低い声で伝えた。

もちろん、簡単に核ミサイルを使うつもりなどない。
相手がどんな戦力を持っているのか
わからないのだから、それが切り札になるとは思っていない。

念のため、EMPなど電磁波攻撃の武器も持っては来ているが、隠しておいた。

核ミサイルを所有していること自体が、この交渉決裂の抑止力となり
少しでも有利になるのでは、と思っていたのだ。

(さあ、核ミサイルときいてどう出るか…)

それについて何も言わずに、
呆れたように顔を覗きこむ宇宙人の態度をみて、
ササキは完全にバカにされたと思い、はらわたが煮えくりかえる思いだった。

彼は我慢できず、恫喝するかのように言った。

「そもそも!この広い宇宙の中で、
この星があんたら宇宙人のものだって、誰が決めたんですか?
こちらが腰を低くして、交渉をお願いしているというのに!」

その後
ほんの一瞬の静寂があった。

これを聞いて、宇宙人たちは一斉に笑いだした。
いや、人間のように声をあげて笑っていたわけではない。

でも、その雰囲気で彼らが笑っていることが伝わって来たのだ。

「な、何がおかしい⁉︎」

ササキはその間も、なるべく冷静でいようとした。
頭の中で交渉に優位になる論法を探していた。

しかし、思考の裏側では
さまざまな考えをぐるぐると考えていた。

エリート企業戦士として、そして名誉ある開拓団の1人として地球から代表できた男だ。
そこまでバカではない。

このまま、地球に戻れば、また移住先の惑星探しから始めなければならい。

ふりだしに戻して、
また時間をかけるほど
今の地球は健康とは呼べない。

それに、おめおめと地球に帰れば
失敗者のレッテルを貼られ立場もなくなる。

それなら、地球人の適応できそうなこの星で何とかプランを進めたいものだ。

地球に戻って敗北者扱いされるくらいなら、
ここで戦って死ぬのも悪くない。
プライドにかけて。

一瞬の間にそんなことを考えていると、

宇宙船の中にいた宇宙人のひとりが話しかけてきた。

関西弁の宇宙人


「アンタ、オモロいなあ」

「あんまり驚かせても何なんで、なかなか言われへんかったけど、
アンタの頭の中筒抜けやで」

「えっ⁈な、何ですって?」

たじろぐササキ。

そういえば、この声はどこから聞こえてくるのだろう?
あたりをキョロキョロしてみた。

すると、また関西弁宇宙人の声。

「さっきからのうちらの1人と、アンタとの会話でだいたいの様子も理解した。地球というのがどんな星かも。アンタらのいう人類ってのがどんな種族かも。

ほんでな!何がいちばんオモロいって、アンタがさっき言うてた、
『この星があんたら宇宙人のものだって、誰が決めたんですか』言うとこや、
あれウケたわ、笑かしてくれるわ、ほんまにー」

「⁈」

姿が見えない?でも声は聞こえる!
しかも耳で聞いている感じではない。

なんなんだ、これは?
さっきまでと、何か違う。調子というか「ノリ」が違う。

いや、それどころじゃなくて何か、
「次元の違い」みたいなものも何か違う!
ササキは状況の違和感をにわかに感じていた。

「ぐぐ…」
何も言葉が浮かんでこない。

宇宙人の声がまた響く。

「さっきからこのオッさん(さっきまでの宇宙人を指差して)が、交渉は無理や!言うてるのがどうも伝わらんようなんで、仕方ないからなるべく言語で説明したるわ」

ササキの頭はもはやパニックだった。

(せ、説明…?言葉って、、何で関西弁、、はっ!そういえば俺はさっきまで何語で話していたんだ⁇)

そこでようやく
違和感に気づく地球人代表であった。

同時にロケットの中で見守っていた地球人チームも「あれ⁈」と違和感に気づいた。

関西弁の宇宙人は
心にダイレクトに語りかけてきていた。

そもそも、
この宇宙人たちは映画アバターに出てくる宇宙人にそっくりな姿で
背丈は3メートル近くあり
トカゲのような肌に短い動物の毛のような体毛で覆われて、尻尾も生えている。

先に声をかけて来たのは宇宙人の方で、そのまま普通に交渉に入った。
あまりにも自然だったので気づかなかったが、
そんな宇宙人が関西弁でしゃべる?さすがにおかしいだろう!

関西弁宇宙人は続けた。

「まず、1番ウケたのが『あんたら宇宙人』のとこやな。
どこ見てワシらを宇宙人言うとるねん、オマエも宇宙人じゃボケ!とツッコミたくなったわ、
でも我慢したったわ!
笑ってはいけないスペシャルやな!

ここ、宇宙やで?
宇宙に誰かおったら、そらぜんぶ宇宙人や。

なんでそこで線引きしたのかが、わけわからんくてウケた!センスええわー、アンタ!
そういうの思いつかへんかったわー。」

次に、言葉な。いっとう最初からアンタらの言語に合わせて、語っとったのにまったく気づかんようで。

アンタんとこでいう[テレパシー]や。

直接、ダイレクトに!
なっなっ?
あまりに自然すぎて気づかんかったやろ?」


愉快そうにいう関西弁宇宙人。

あまりに唐突な展開に、理性がついていけないササキ。
それと背後で見守る地球人たち。

「う、そういえば自然にしゃべっていたような」
「で、では宇宙人ではなくて、あなた方のことを何て呼べばいいのですか」

宇宙人と呼んではいけない宇宙人は言う。

「…せやな。何もんでもないけどな、ワシら。
んじゃ、ナヴィでええわ!
アンタんとこの映画でそういうのあったやん?ワシらのことみて、アンタそう思考しとったわ。」

関西弁のナヴィは続けた。

「ワシら、個別の意識と、共通の意識とあるからな、
シンクロさせてお互いに情報共有しとるんや。

だから、長とかおらへん。

アンタんとこの映画[アバター]では、長おったようやけどな、

意識共有しとるから、べつに長とかおらへん」

そこで、さっきの
司令官風のナヴィが再び説明に入ってきた。

「そこまででいい。あとは私が話そう。言葉を変えたのは私たちの意識は別々でもあり同じだと言うことを伝えたかったからなのだ。
我々はダイレクトに意識に語りかけることも、言語で語りかけることもできる。
あなた方みなさんの思考も、こちらは意識を向けることで理解することができる。」


価値観の違い


「われわれが、あなたたちの交渉を不要だと感じたのは、その地球独特の価値観だ。

言っておくが、その価値観は地球人独特のものであって、
われわれを含む多くの宇宙種族には相容れないものだ。

あなた方のいう、ユタカサ。

もともと自然にあるものを勝手に不便と感じて、
自分たちの都合のよいように改変を繰り返し、
文明とやらを発展させたわけだ。

長生きできるように、たくさんストックができるように、
他の種族や他人より、少しでも優位であるように。

実はもう我々はあなた方のことを知っている。
この宇宙から情報を読みとったのだ。あなた方自身も知らない地球の情報までもだ。」

ナヴィは続ける。

「狩猟の時代までは、あなた方は必要な分だけをとって食べていた。
毛も牙も爪もない弱い体で、暗闇に怯え、獣に襲われ、寿命も長くはなかった。

しかし、他の動物同様に植物連鎖の一部であり、
自然法則のままに従い、そこに何の不思議もなかった。

代わりに器用な手先で、工夫することに長けていた。

種族間のコミュニケーションも、我々のように集合意識で連携していた。
必要な情報はお互いに一気に伝達していた。

地球にいる動物たちも同様だ。

農耕に変わる頃、激変が起きたようだね。
そこから知恵と工夫が爆発的に増えた。

物や現象に名前をつけ始めた。
そこからだ、言語思考になったのは。

意識による伝達能力を閉じたので、
逆に不便になった。

不便になったので
言語を増やし、文字を発明した。

言語伝達で感情や思考を言語化することにより、物語を伝達することができるようになった。

宇宙創生神話、哲学、宗教、法律。

そして、人間の法律に従い人間独自のルールで統治を始めた。

もともとの自然法則があったことを忘れて。

そこから先は、さっきあなたが教えてくれた通り。

便利になるから、とその知恵を使って、市場を作り、お金を作り、
ケーザイとリケンを作り。

自分たちの種族がいちばん賢いと信じ、
お金が人も地球も宇宙までも支配できると信じている。

今もだ。」


そこでナヴィは言葉を一度区切った。
地球人たちに、思考を咀嚼する時間を与えたのだ。

「……。」

地球人たちは、さっきまでの複雑な苦々しさが薄らいできて、ただ黙って耳を傾けていた。

実際には、言葉以上に伝えたい内容が
ダイレクトに意識に入ってきていた。

ナヴィは続けた。


「われわれが、あなた方の交渉の提案に、なんの魅力も感じなかったのは、地球独特のルールを押しつけてきたからだ。

ルールが悪いと言っているのではない。
人間に知恵がついたのも、自然法則なのだから。

ただ、その前提条件の
すべてが自然法則であって、
あなた方の能力ではないということを忘れている。

何も問題のないところへ、問題の火種を探して拡大している。

この星は、確かにわれわれが管理しているが、だれもここには入植していない。
ここにある動物や植物や鉱物や気体液体、あらゆるものが自然法則に従って、ここにあるだけだ。

我々はその調和を見届けている。

植物も動物も
必要なときに生まれ、食べて寝て、繁殖して、死んでを繰り返している。

その調和で、この星は保たれている。
必要なものは全てそろっている。
不必要なものはない。

ここでは誰も困っていない。
もちろん、私たちもだ。


先祖代々、皆ここで暮らしている、自然環境のなかの住まいがある。
ある程度のコミュニティを持って、自然と共に共生している。

大きな家である必要はなく、
物流のための移動もなく、
意識共有するから
文字伝達の必要もなく、
当然だがセキュリティもいらない。

法律もない。
やってはいけないことだけは生まれたときから誰でも知っている。

ルールがあるとしたら、それだけだ。

必要なときに、必要な分だけ採り、食べる。
皆で分け与えるので、必要以上にとらない。

無駄に加工することも、添加物を使うこととない。

病院もいらない。
調和のとれた暮らしの中では病気が存在しない。

寿命が来たら、抵抗しない。
無理に延命しても、逆に苦しむことになるから。

だから、銀行も製薬会社も工場もいらないのだよ。

あなた方から、不要なものを提供すると言われても、断る以外に答えはあるのだろうか?

かつては地球も調和のとれた美しい星だったと聞く。

あなた方も、
あなた方のエゴだけで考えれば、問題だらけだろうが、

エゴに気づくまでは
自然法則の調和のままに従い、
何も問題なく暮らしていた。

それがほんの数千年まえまでの地球だよ。」


地球人たちの顔がはっとした表情になった。

「あ…。アダムとイブ、エデンの園…。」

(つづく)

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