アスピリンをはるかに超える21世紀の万能薬
さまざまな臓器・組織のガンに対する効能が証明された
自然界からの恵みで、健康と生命を維持するうえでもっとも重要な贈り物が、イノシトールです。
イノシトールは、ビタミンB複合体と同じ仲間であると考えられています。これはほとんどあらゆる細胞内に存在し、生体の主要な機能に重要な役割を担っています。
脳、神経系、生殖器官など、これらすべての機が、常に一定のイノシトールの供給の上に成り立っています。
なかでももっとも重要なのは、ガンとの関連において、イノシトールがガン細胞の増殖と成長のコントロールに寄与しているということです。
ガン細胞はわれわれの生体内で毎日生成されています。しかし、通常はわれわれの免疫機構が働き、常にこれらの侵入者 (ガン細胞)を監視しています。
細胞が統制をはずれて増えはじめると生体の免疫機構を圧倒し、かくてガンが発生します。イノシトールとイノシトール・リン酸化合物は、協同してこの発ガンに至る過程を予防するのです。
イノシトールは、その化学構造がグルコース(ブドウ糖)に類似している、糖"の一種です。
実際、甘い味がしますが、甘味はイノシトールのほんの一側面にすぎません。
イノシトールの化学構造のわずかの変化(リン酸化。リン酸基〔リンの原子に4個の酸素原子が結合したい』が結合する反応)により、リン酸化イノシトール・ファミリーが生じます(訳者注:イノシトール一リン酸からイノシトール6リン酸まで六種類)。
それぞれのリン酸化イノシトールに、生体内におけるそれぞれの生化学的役割があります。
図1に、イノシトールに6個のリン酸基が結合してできたイノシトール6リン酸の簡略化した化学構造式を示しました。
イノシトールには、6ヵ所のリン酸基結合部位があります。したがって、イノシトールのリン酸化合物は、それに結合したリン酸基の数により名前がつけられています。イノシトール1リン酸(IP1)、イノシトール2リン酸(IP2)、イノシトール3リン酸(IP3)、そしてIP4、IP5などです。
6個のリン酸基がすべて結合するとイノシトール六リン酸(IP6)と呼ばれ、ときに 「InsP6.」と表記されます。フィチン酸とも呼ばれています。
IP6はリン酸基が一つずつはずれることによってイノシトールになります。また逆に、イノシトールはリン酸基が再び結合することによってIP6に変換されます。イノシトールとIP6は協同的に働きます。両者を組み合わせて用いたほうが、それぞれを単体で用いるよりも健康に寄与する効果が強力です。
後に詳しく述べますが、IP6にイノシトールを加えることにより、いっそう強力な「抗ガン性カクテル」ができあがります。
IP6に関して私の研究室で行われた数多くの先駆的な実験で、常に再現性をもって統計学的な有意差で、さまざまな臓器・組織のガンを抑制するという事実が示されました。
そのなかには、大腸ガン、乳ガン、前立腺ガン、肝ガンなどが含まれています。
世界各国の科学者もこの事実を追試で確認し、正しいと認めつつあり、さらにこの研究に取り組む科学者も増えています。
研究結果が統計学的に有意差があるということは、その結果がすべての研究者に正しいと認められ、受け入れられるということを意味します。
臨床研究で治療方法の効果が論じられ、る場合に、統計学的に有意差があるという結論を導くために不十分な数の患者を対象とした研究では、その結果は科学者、一般の臨床家、見識のある専門の臨床家などには受け入れられません。
さまざまな病気に効果があり、しかも安全な物質
私たちは現在、イノシトール化合物が生命現象に果たす価値ある役割のほんの一部を理解しはじめたにすぎません。
われわれは実験室で、細胞の生存にとってイノシトールが必須栄養素であることに気づいていました。
実際、どのタイプの細胞種も、それを増殖させよう(培養しよう)と思ったら、イノシトールを培地に補給しなければなりません。
実験室で、あるいは動物実験で、イノシトールはガンの予防および治療に関して、際立った性質を示しました。さらに、リン酸化イノシトールは、赤血球内で酸素運搬能を制御する重要な役割を担っているようです。
このイノシトールの役割は、鎌状赤血球性貧血を治療する際に重要になるでしょう。
厳しい査読による審査を経て専門誌に公表された私以外の多くの研究者の研究によって、IP6は抗ガン性物質であるばかりでなく、酸化防止物質でもあることが証明されました。
第4章で詳しく述べますが、IP6には生体内の酸化反応で形成されるフリーラジカルの組織傷害作用を打ち消す働きがあります。
IP6は、腎結石の生成や脂肪肝を予防します。また、生体の感染抵抗力を高めます。さらに、心臓病の2つの危険因子、血清コレステロール値と中性脂肪値を低下させ、心筋梗塞の急性期における心筋障害を防止します。
また、イノシトールは、ある種の精神疾患に用いられています。さらに、糖尿病の数多くの合併症を予防する働きがあることもわかっています。
ある種の植物の種子は、400年ものあいだ活性を保つ(すなわち生存し続け、条件が整えば発芽する)ことが知られていますが、その長命のひとつの理由はIP6によるものであると考えられています。
われわれの知識と理解が進むにつれ、イノシトール化合物が、ヒト、動物、植物を含むすべての生命で重要な役割を担っていることがよりいっそうわかってくると思われます。
IP6は類まれな化合物で、私はイノシトール分子群の物質のなかでも一番好きです。
もし誰かが、IP6はアスピリンに匹敵する21世紀の万能薬と言ったとしても、それはあながち間違いではありません。それどころか、もっと優れています。
なぜなら、IP6の用途と将来の利用可能性を考えると、アスピリンより多岐にわたり、またアスピリンよりはるかに安全だからです。
IP6が健康へ多大な恩恵をもたらすことについてはわかっていただけたと思いますが、IP6はこれを超えたはるかに多くの利用可能性を秘めていると、私は信じています。
私は、本書を刊行することにより、自然界がわれわれに与えてくれた恩恵を読者の方々とともに共有したいと考えています。
それでは、イノシトールとIP6はどこにあるのでしょうか?
穀物や豆類に含まれています。これらの食物は繊維質に富んだ食品として知られており、高繊維食とある種のガンの発生頻度が低いという事実の疫学的関連を説明することになるかもしれません。
本書では、IP6とイノシトールの役割について、ガンの戦士として活用するために、まず食物繊維から話を始めましょう。
*天然抗ガン物質IP6の驚異(アブルカラム・M・シャムディン著)より出典