広告クリエイターが新たに挑戦する、クリエイティブの世界
はじめまして。大学時代からDJする傍ら、音楽しか飯の糧にできないとレコード会社に新卒入社し、気づいたら広告業界に転職。話題作を連発し、カンヌをはじめとした広告賞で幾度と登壇、また審査員も務め、会社でも偉くなったのに、それを全て白紙にして大学院で地球環境学を学び卒業。そしてこのたび、新会社を立ち上げることになった佐藤カズーと申します。え、なんで?初noteで、そのあたりのことをお話できればと。
クリエイターの責任はどこまでか?
これまで様々な企業の課題にクリエイターとして向き合ってきました。まだ無名なブランドを、世界中の誰もが知るブランドに成長させる。老舗企業の古くなってしまったイメージを刷新する。売上が停滞していた商品を、人気商品として復活させる。全てを鮮やかに解決できたかは分からないけれど、あらゆる角度から企業の活動を支援してきました。また、それらを通じて生活者には感動や勇気や笑いを届けてきたつもりです。
企業に人にいい影響を与えられている。そんな手応えがあったからこそ、世の中に制作物を届けるまでがクリエイターの責任だと信じて疑うことはありませんでした。広告でモノが売れたら大成功。けれど、自然や動物といった人間以外の存在に対してマーケティングがどのような影響を与えているか。私たちのパートナー企業が事業を通じてCO2を排出することで環境に対してどのような負荷を与えているのか。なんとなく理解はしていても私たち広告産業のクリエイターにとってはあまり関係のない話だと思ってきたのです。
ところが、実際にはどうでしょう。CMやプロモーション、イベント制作など私たちが得意とする様々なコミュニケーション活動やそれに伴う国内外の移動なども、直接的に、あるいは間接的に環境に影響を与えています。多かれ少なかれ、私たち自身も、地球に負荷を与える側だったのです。
そう気づいてから、制作活動に対してもっと責任を持たなければならないと強く思うようになりました。同時に、クリエイティブ制作という点だけでなく、もっと全体の構造や関係性を理解し、システム全体をリデザインしていくアプローチが重要ではないかと気づくこともできました。
蝶が羽ばたくと、竜巻が起こる
「ブラジルで蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こる」という言葉があります。これは、複雑なシステムにおける些細な行動が、遠く離れた場所で予期せぬ大きな影響を与えるということを示していますが、この言葉の通り、経済、環境、テクノロジー、社会的要因などが相互に依存し合う現代の複雑な問題を解決するためには、点の解決策では不十分で、複数の要素が相互に影響し合うことを前提としたシステミックな思考が求められます。
例えば、リモートワークは通勤時のCO2を減らすから、環境にも良いという話があります。一見、正しそうな理屈ですが、実はビデオをオンにして終日会議した場合のCO2排出量は、車や電車で出勤した際の排出に比べて遥かに高くなるというデータもあります。エコな行動をしているかどうかは、点で見るのではなく、包括的に分析する必要があります。
そのため、私たちクリエイティブ産業も制作時の環境負荷を減らすという対処療法だけでなく、もっと包括的な視点を持って課題の全体像を捉え、本質的な解決につながるようなソリューションを、パートナー企業に対して提供していきたいと考えるようになりました。それが、地球中心デザイン研究所(Earth Centric Design Lab 、略してECD)という新しいデザインファームの設立背景です。
地球中心、に駆動する会社をつくる
私たちが最優先で向き合うのは、世界最大のクライアント「地球」です。地球中心と聞いて「それって人間を排除するの?」「経済は?」と疑問に思われた方も多いと思います。私たちが掲げる地球中心という意義は、決して人間を排除するものではありません。「人間か、地球か」という二項対立ではなく、「人間も、地球も」と考えるのはどうでしょうか?今のプラネタリー・バウンダリー(*1)の制約の中で、本質的に人間の幸せを考えるのであれば、生態系や、天然資源など地球上のあらゆる存在と我々の関係性を考慮しながらクリエイティビティを発揮し、ビジネスや社会を持続可能なシステムに変えていくことは我々に課せられたミッションだと考えています。
*1 地球環境が持続可能な状態を保つための限界を示す概念。気候変動、生物多様性、土地利用など9つの因子で構成されている。
いつだって、アイデアを飛躍させるのは制約だ
新会社のパートナーでもあるHARCH Inc.の加藤さんより頂いた言葉です。企業のブランディング、新しい事業の創造、スタートアップの支援、地方の活性化――私たちのデザインが生かせる領域は広く、多様です。そしてそのすべての過程において、パートナー企業の成長を支えつつ、地球への負荷を最小限に抑えていく。この一見相反する目標を、同時に追求していかなければなりません。大変な制約かもしれませんが、実は少し安心もしています。だって、私たちクリエイターにとっては、制約こそがアイデアを飛躍させる装置だということを知っていますから。
私は、未来は予測するものではなく、自らの意志で創り上げていくものだと、強く信じています。2100年と言われるとちょっとピンと来ないかもしれないけど、せめて2050年の世の中くらいまでは想像力を働かせながら、責任あるクリエイティブ活動をしていきたいと思います。はじめは試行錯誤をしながらのスタートになりますが、ぜひとも私たちの活動を暖かく見守っていただけると嬉しく思います。